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労働あ・ら・かると

働き方改革 いろはかるた 2020

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 

 明けましておめでとうございます。
 記憶を風化させず持続することが大切だと思い、毎年同じこと繰り返して恐縮ですが、初春のご挨拶に付言して申し上げます。
 被災後9度目の正月に、未だ故郷に帰還できない大震災・原発事故被災者の方々、福島にて被曝の危険の中黙々と廃炉作業等に従事している方々、日本各地での地震・洪水などの天災に遭われた方々、世界中の戦乱や困窮の中にある人びとと、熱い心で支援活動をされている方々に思いを寄せながら、新年を迎えました。
 昨年に引き続き「働き方改革 いろはかるた」を、お届けしたいと思います。

ち 地球上どこでも仕事可能なテレワーク
 Web環境、IT技術の進化により、通信環境がある場所ならどこででも仕事ができるテレワークは、出産育児中、介護に従事しながら、がんなどの病気治療中の在宅就労や、都市圏在住人材の地方創生のための活動などに大きな可能性をもたらすと思います。一方でその保護が十分でないフリーワーカーの場合などには、きちんとした時間管理や「強いられない就業管理」の実効性が問われます。

り リベラルアーツがますます重要
 「ジョブ型」の雇用への変化が謳われていますが、「ジョブの専門性」を追求すると陥りがちなのが「広い視野の欠如」ではないでしょうか。理系では「コンピューターや物理・化学には詳しいけれど、それ以外の分野はほとんど知らない」といった人材が増え、文系でも「法律や経済は知っているけど、科学技術も文学も知らない」といった人材が増えてしまうと、開発した技術の社会的意味を倫理の観点から検証することが抜け落ち、営業している商品やサービスの本質を理解できないまま事業が発展してしまい、「人間」を忘れたビジネスで社会が荒廃してしまう恐怖を感じます。

ぬ 「濡れ手に粟」などとんでもない
 昨年11月の参議院厚生労働委員会にての質疑の中に、職業紹介事業について「人材回しをする濡れ手に粟産業」との発言がありました。職業紹介事業についてのこういった思い込みや、江戸時代の「口入れ屋」の先入観を払拭することがまだまだ必要ですが、一方で人材紹介事業を安易に「右から左に口をきくだけで儲かるビジネス」と誤解しての新規参入相談も無くならない事実をきちんと受け止めなければとも思います。

る 流布情報を鵜呑みにするな
 経営者、ビジネスパースンの会話の中にも「レピュテーションリスク」という言葉がよく聞かれる時代です。従来は株価操作などで虚偽の風説を流布するなどについての判決が、テーエスデー事件、東天紅TOB事件、ジャパンメディアネットワーク事件などで見られましたが、これらはいずれも記者会見やニュースリリースに拠るものでした。現在はSNSなどの発達によってとてもたくさんの情報が飛び交う時代になり、嘘で人の心を平気で傷つけるようなニュースがその真偽の検証なしに膨れ上がります。「信頼できる編集を経た情報」と思っても誤報もあるのですから、「働き方」についても飛び交う情報を鵜呑みにせず、冷静に選択判断するマインドが求められます。

を 老いても働く時代になったけど「子には従え」
 筆者が社会人になった時、多くの企業の定年は55歳で、これを軋轢なく年金制度と整合しながら定年を60歳とする就業規則や労働協約の改定仕事に携わったものですが、平均寿命・健康寿命の伸長もあり、今や、少子高齢化時代の労働力確保の観点からも「70歳まで働く」時代になりそうです。しかし仕事の現場では、過去の栄光や、陳腐化したスキルに誤ったプライドを持ち続ける「困った暴走老人」も残存している現実も見かけます
 頑固にならず、若者の意見でも謙虚に聞ける老人であることが、高齢労働者の必須条件のように思います。

わ わがままな求人者、わがままな人材
 筆者の仕事がら、職業紹介や採用選考の場で起きてしまう紛争に立ち会うことが多いわけですが、誤解を恐れず申し上げれば「わがままとわがままの衝突」と思える紛争に溜息をつくこともままあります。もちろん「素直で優秀な人材を雇用したい」という求人者の気持、「ワークライフバランスを確保できてやりがいがあり、賃金の高い安定した職場で働きたい」という人材の気持ちは痛いほど分かるのですが、「少しでいいから相手の立場に想いを寄せて折り合いをつければいいのに」と、よく思います。

か 「KAROSHI(過労死)」が世界で通じる恥ずかしさ
 世界各国でも、英文で「KAROSHI」という文字が新聞紙面に見られるそうです。プレスセンターなどで外国人記者の方からも「日本人は何故命を懸けて働いて死に至ってしまうのか?」と質問されたこともあり、返答に窮します。現実に裁量労働制の脱法的適用の結果ではないかと思われる事例もある過労死ですが、「マネジメントの極意は、仕事の質量の分配と成果の集約である」と若い時の新任管理職研修で教わった記憶がよみがえります。部下の立場、個々の人材のおかれた状況への推察力共感力が、上司や経営者にもう少しあれば防げることも多いのではないかと思われます。ほとんど毎日のように新聞で報道される過労死、過労自殺。働き方改革も手伝って、一掃される年にしたいものです。

よ 余暇の過ごし方が問われる「働き方改革」
 「働き方改革は休み方改革である」と言う識者もいらっしゃいます。1日24時間しかないのは、すべての人材に共通なのですから、そこから「拘束された働く時間」と「必要な睡眠時間」を引いた残りをどう使うのか、年代によっても「出産育児」に多く費やす時期もあるでしょうし、「家族とともに過ごす」ことも大切でしょう。また時代の変化についていくための「自己啓発」も、教育研修を所属企業のみに頼っていられない時代でもありますので、どのくらい割り当てられるのか、従来以上に個々人のタイムマネジメントが問われる時代でもあります。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)