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労働あ・ら・かると

働き方改革 いろはかるた 2019

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 明けましておめでとうございます。
 毎年同じこと繰り返して恐縮ですが、記憶を風化させないことが大事だと思い、申し上げます。
 被災後8度目の正月に、未だ故郷に帰還できない大震災・原発事故被災者の方々、福島にて被曝の危険の中黙々と廃炉作業等に従事している方々、日本各地での地震・洪水などの天災に遭われた方々、戦乱や困窮の中にある世界中の人びとに思いを寄せながら、新年のご挨拶を申し上げます。
 2013(平成25)年から、毎年恒例でした「人材ビジネス いろはかるた」が5回で一巡いたしましたので、今年からは「働き方改革 いろはかるた」と趣向を変えて、お届けしたいと思います。

い インターバル制度で睡眠確保
 働き方改革で新たに導入されたこの制度、罰則なしの努力義務でスタートしましたが、改正労働基準法から外に置かれているように見える医師や教員といった職種についても、この制度が導入されそうなことは良い傾向でしょう。
 でも「制度」というものは、ただ文字にすればよいわけでなく、「実行が伴っての実効」であることを忘れずにスタートして欲しいものです。

ろ 論議に必要な正確適切なデータ
 厚生労働省が2013年度にまとめた「労働時間等総合実態調査」のデータについて、考えられないような矛盾が指摘されて、働き方改革関連法案から、「企画業務型裁量労働制度の対象業務(課題解決型提案営業と裁量的にPDCAを回す業務)の追加」が、撤回されたことを読者の方々はご記憶と思います。
 森友学園問題における地中の廃棄物の量のデータ、技能実習制度の失踪(やむを得ず脱走?)データなど、ことは厚生労働省に限らず官僚機構全体が疲弊しているのではないかと思われてもやむを得ない事態が起きました。適切な、忖度でない科学的な調査を基に行政機関が国会に対して報告・説明するのは、三権分立の根幹です。
 このままでは、日本の三権分立が危うくなってしまうではないのか、国民をしっかり見て科学的根拠をもって政策を立案してほしい、筆者はそう心ある行政官に訴えたいと思います。

は 働き方改革は雇い方改革
 「働き方改革は休み方改革」とおっしゃる識者もいらっしゃいますが、労使のバランンスの発想からすれば、「働き方改革」の趣旨をよく理解して「雇い方改革」を実施した企業・雇い主こそが、経営資源としての有用な人材が確保できる時代が到来することを期待したいものです。
 「働き方改革」は「経済の好循環」を目指したものと理解すれば、内部留保を貯めこむだけでなく、適切な労働分配率を意識して人材の処遇を改善する必要について、理解していただけると思います。
 「職場情報総合サイト」に働く環境を公開する率直な姿勢の企業が、適格な人材を経営資源として確保できる時代が到来しようとしています。改めて「人材を雇用して知力体力を提供してもらって企業を経営する。」ことと「雇われて自分の能力適性を発揮し、報酬を得る。」ことの対峙組み合わせを鳥観・虫観両方の視点で把握する必要があると思います。

に 人間がやってきた。労働力を求めたら。
 働き方改革は、外国人材の雇用についても例外ではありませんし、少子高齢化は日本だけの問題ではないことを忘れずにいたいものです。送り出し国を訪ねてみると、各国が労働力争奪戦を繰り広げているように見える場面にも遭遇します。日本に滞在してどのような処遇を受けたのか、帰国した人材の情報もツイッターなどで拡散します。「人間扱いされなかった。」「一日“牛”としか顔を会わせないので、日本語がうまくなるわけがない。」という声に耳を傾けなければなりません。
 「家族帯同不可」というのは、単身赴任が当たり前の世代の方々から見ると当然に見えるのかもしれませんが、世界の常識では「人権侵害」と映ることに気をつけなければなりません。
 「良い出稼ぎ」を志向する外国人材に選ばれる国であるにはどういう施策が必要かの論議が不十分のまま始まった政策に、不安を感じます。

ほ 褒めるマネジメント、信頼するマネジメント
 昨年のILO年次総会において、「職場における暴力と嫌がらせ(ハラスメント)」に関する新たな基準設定に向けた討議が行われたことは記憶に新しいところです。ILOの掲げる「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の実現に対して、職場でのセクハラやパワハラなどはあってはならないこと。山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」を改めて思い出します。昭和・平成にビジネスパースン人生を送ってきた筆者としては、若い頃を回想すると「ひょっとしてあの場面は、今の時代だったら小生はパワーハラスメントをしたということになるのでは?」と思うこともありますが、さらに続く山本五十六の言葉「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守り、信頼せねば、人は実らず」を噛みしめる新年です。

へ 偏在する医師問題の解決策のひとつIT技術
 医師の偏在が、地方と都市圏の格差を広げています。そもそもの絶対数が十分かどうかの議論もありますが、へき地勤務の経験のある若い医師に聞いたところ、専門化・高度化する医療技術の最新のものを常に身に付けて、患者さんに最適な治療を提供する必要があるのに、医師が不足している(=必然的に医師の診療時間・勤務時間が長くなる)地域に居ると、そのための時間が不足するし、最新鋭の医療機器を操作する技術も習得できないことに焦りを感じたという話でした。
 新たな医療技術を身に付けるために、代診医派遣に対する支援が必要でしょうし、専門医への相談が確保できる体制が切望されています。遠隔地、僻地に居ても、4K8Kの時代ですから鮮明な画像情報を提供したり、血液データを送信して専門医の所見を聞いたり、IT技術の進歩によって克服できることが多々あるのではないでしょうか。

と 「特定技能」在留資格は人手不足の特効薬?
 サブタイトルに「少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現」とある昨年夏の「経済財政運営と改革の基本方針2018」に、「新たな外国人材の受入れ」として掲げられた出入国管理及び難民認定法の改正ですが、あれよあれよという間に国会を通過成立しました。待ったなしの人手不足対応に追われる業界・職種にとっては歓迎するスピードなのでしょうが、具体策が十分に論議されずにスタートしようとするこの新制度、従来の「技能実習制度」への批判に充分に耳を傾け、反省点を教訓化したものとは思えません。来日する発展途上国の人材の基本的人権を守り、彼らから選ばれる共生社会を大至急準備しなければなりません。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)