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労働あ・ら・かると

「はたらく」を巡る今年の十大ニュース

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

年の瀬となり今年を振りかえって、人材紹介業の視点から「はたらく」を巡る今年の十大ニュースを今月は挙げてみます。

<1>AIの急成長
人材紹介業に限った話ではもちろんありませんが、生成AIの急速な成長と進展は、ありとあらゆる「しごと」に変化を及ぼしています。
AI導入を進めている企業からの求人内容には、業務自動化と職種再編によって、その求人内容には大きく変化があるという人材紹介業の求人担当者からの声を聞きます。
推測としてではありますが、企業が生成AIや自動化ツールを本格導入し、定型事務・翻訳・一次対応などの業務を担わせるケースが増え、それに伴って職務の境界が変わり、候補人材に対しては人間にしかできないケアや判断領域への能力期待が高まっているのではないかとも聞きます。
ハローワーク (公共職業安定所) でも試行が始まっていると伝えられますが、人材紹介業でも推薦状をはじめとしたビジネスレターの推敲にはかなり利用されている様子です。求人求職の突合(いわゆるマッチング)にどのように活用していくのかは、バイアスの克服をはじめ試行錯誤の中にあるとみてよいでしょう。

<2>「ワークライフバランス」揺れ戻し?
憲政史上初の女性首相の演説で「私自身がワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働きます。」と宣言したことは、各所に波紋を呼んでいます。
また裁量労働制の拡大についてのスタートアップ企業への適用論を聞くと、10年以上前ですがこの「労働あ・ら・かると」に「成功した起業家が陥る‘ブラック企業’への道」と寄稿した時の気持ちを思い出します。
これについてはJILPTの濱口桂一郎研究所長による当時のコメントが下記に掲載されていますのでご参考まで。    http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-a461.html
「Karoshi(過労死)」という言葉がまだ世界の辞書に載り続けている不名誉について、忘れてほしくないものです。

<3>スポットワークの急伸
「一億総活躍」実現の前に到来した「一億総スマホ」の時代を背景に、スポットワーク仲介が急伸しています。
「日々紹介」形態の職業紹介は、従来から配ぜん人紹介やマネキン紹介で行われてきたものですが、一億総スマホに加えてのIT技術の進歩により、瞬時に職業紹介の「求人求職受付~マッチング~雇用就労開始」のプロセスが実現するようになったため、その内包する法制度との整合性不備もすぐに顕在化することになります。
先行するスポットワーク仲介事業者は、グレーゾーン解消制度等を活用して慎重な遵法業務遂行を心がけていますが、プラットフォーム労働の雇用でないスポットワーク仲介も存在する中、悪徳事業者を排除し、健全な事業者が発展する施策が求められています。

 <4>「次の働き方改革」をめぐっての論議活発
これからの労働基準法制の在り方について、「守る」と「支える」という2つの視点が重要だとした、今野浩一郎学習院大学名誉教授を座長とする「新しい時代の働き方に関する研究会」による報告書を皮切りに、「次の働き方改革」をめぐっての論議が活発化している一年だったように感じます。
可能な限り労働政策審議会労働条件分科会を傍聴していますが、労働組合組織率10%台の時代の労使コミュニケーション、兼業副業の時間外割増計算通算をはじめとしての様々な課題ひとつひとつが重要ですので、どのような方向に結論付けられていくのか、目が離せません。

<5>「多様な働き方・雇い方」「多様な雇用ルート」の区別があいまいに
2018年6月に成立し、翌年4月から順次施行された「働き方改革関連法」では「一億総活躍」「多様な働き方」が謳われました。
これによって「雇用」に限らない「請負」「委託」といった役務提供が伸長し、求人票にも「副業兼業歓迎」といった文字が見られ、それぞれの仲介についても従来からの職業紹介ではない、プラットフォームによる雇用仲介、雇用なのか請負なのか判別の難しいギグワークによる仲介も急速に拡大しています。
社会保険や最低基準適用などの労働者保護を受けられない形態で働く人々をどのように守るのか、既存制度の壁を超える伴走支援が必要になってきています。

<6>外国人労働者数が過去最高に
新政府の外国人政策の資料をよくみると、「不法滞在や、経営管理ビザの出入国管理」「観光客のマナー違反などのオーバーツーリズム対策」「外国人による投資目的の不動産保有」など、必ずしも外国人労働力の受け入れとは直結しない課題が挙げられています。
JICAのホームタウン構想中止や、誤った情報による感情的な外国人排斥SNS拡散、台湾有事についての首相発言などが重なって、モノの本質が見えなくなっているように思います。
基本的人権尊重の精神、「労働力を求めたら人間がやってきた」という発想や相手の立場を理解してのものの考え方を忘れていると、必要な外国人材労働力から嫌われる国になってしまう危惧を抱かざるを得ません。
江戸時代の鎖国のDNAや島国根性が動き始めているのかしら?

<7>職業紹介の見える化進む
今年1月の、職業安定法指針に規定されている「転職勧奨の禁止」及び「お祝い金等の提供の禁止」の許可条件追加に加え、4月からは求人票への記載事項の追加(転職時だけでなく将来の職務内容・勤務地の変更範囲)、事業者の紹介手数料率の実績の公開と違約金規約の明示の義務化は、医療・介護・保育分野における「適正な有料職業紹介事業者の認定制度」や「職業紹介優良事業者認定制度」とあいまって、利用者が職業紹介事業者を選ぶ際の参考データ等の公開が進んでいます。

<8>カスハラ、就活セクハラ防止の法制化
東京都条例を皮切りとしたカスタマーハラスメント対策、それに就活セクハラ、自爆パワハラを加えた防止策が、2025年6月の改正労働施策総合推進法と改正男女雇用機会均等法の成立により、事業主に義務付けられることにより、さらに進みました。
一方で職業紹介事業者や公共職業安定所にとっては、ハラスメントを行う求人者求職者対策と、職業安定法第5条の6による全件受理義務との兼ね合いの判断に戸惑う場面に遭遇しています。

<9>リモートワークの普及定着
コロナ禍で在宅・リモートワークが一気に普及しました。
ポストコロナにおいて一部にはオフィスへの実勤務に揺れ戻している例もあると聞きますが、定着した事例も多々目にします。
地方企業に対して副業兼業で役務提供する際にも活用されていますし、移動時間の節約による生産性向上効果もあるはずです。
リモート勤務の定着で、ワークプレイスの拡張化が進むことで、中小都市や地方の雇用機会が拡大、地域再生の議論が活発化していることも見て取れます。

<10>「仕事の切断権(right to disconnect)」の法制化の検討各国で拡大
「つながらない権利」とも言われ、勤務時間外の業務連絡拒否を保護する法整備が各国で広がり、雇用主に対して明確なポリシー作成や業務範囲の規定を求める流れがヨーロッパで生じています。
デジタル化で、どこにいても仕事ができるという。仕事と私生活の境界が薄れた働き方に対し、心身の回復を守る法的枠組みを整理しようとする動向です。

 

先行きを見通すことが難しい時代ですし、働き方雇い方だけでなく、暮らし方生き方も「多様化」の時代になったと感じます。それぞれの読者のいらっしゃる位置環境によって「今年の重大ニュース」は異なることと思います。
それぞれに今年を振り返り、来年がよい年であるよう願いつつ、新年をお迎えください。一年間のご愛読に感謝して今年の筆を置きます。

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)