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労働あ・ら・かると

新入社員のみなさん就業規則を読みましたか?

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 今月社会人となられたみなさん、混雑の中の通勤、職場の雰囲気に馴染みはじめていますでしょうか?
 筆者が初めて社会人になったころは、入社の時に「就業規則」が冊子で配布されました。今はおそらく多くの会社において社内コンピュータシステムの中に「誰でもいつでも見られるように」あるはずです。これは労働基準法第106条によって皆さんが入社した会社が、みなさんをはじめとした従業員に周知を義務付けられていることによって、システムの中に設置されているのです。
 いわゆる「仕事をするにあたってのルールブック」ですので、必ず目を通してください。可能であればダウンロードして自宅でも見られるようにしておくことをお勧めします。併せて就業規則、賃金規程、退職金規程、慶弔見舞金規程、旅費規程、育児休業規定、介護休業規定などが付属していることも多いです。細かいお金の定めやお休みのルールも大事ですが、まずは就業規則の本文を読んでください。

 昔話になって恐縮ですが、筆者が社会人になった年に「第一次石油ショック」があり、紙の値段が高騰しました。昔のニュース映像などで、トイレットペーパーを買い求めて行列を作る映像をご覧になったことがある方も多いと思います。ほとんどすべての企業で「経費節約」が唱えられ、筆者の最初の勤務先でも「就業規則を冊子で社員全員に配布する必要があるのか。誰でも見られるところに掲示しておけばいいのではないか。」という議論になりました。その時の勤務先の副社長(1年半ほど前のこの労働あ・ら・かると「罪を憎んで人を憎まない懲戒処分の仕方」に登場する方です。)は、「給料を払って働いてもらうという約束の『証文』は紙でなければならんだろう。端折ってはいけない。」と、大正生まれの気骨を感じさせる迫力で、個々人に就業規則を配布することにこだわっていました。
 「場合によっては契約解除というクビを申し渡すのに、本人が読んでいないルールに違反したということを理由にできないだろう。必ず読み聞かせて渡し、知らなかったとは言わせない説明・配布手続きは重要だ。」とおっしゃりたかったのだろうと思います。

 多くの就業規則は、若い方々にとっては読みづらい日本語の羅列に見えるかもしれません。
でもみなさんがこれから会社に勤めて働くということはどういうルールに則って働かなければならないのか、やっていけないことは何か、やらなければならないことは何かが書かれていますので、必ず目を通してください。
 必ず記載してある項目は「就業時間に関する事項」と「賃金に関する事項」と「退職に関する事項」です。その他の項目もそれぞれに大事なのですが、今回は特にこの三項目について1点ずつ述べたいと思います。
 先ず「就業時間」についてですが、今話題の「裁量労働制」が記載されているかどうかです。記載されている場合は、その対象部署と適用者(肩書)を確認しておきましょう。平成27年就労条件総合調査(国会で話題に上がり、データを改めて突合してやり直しているものより2年新しいもの)によれば、「専門業務型」「企画業務型裁量労働制」を採用している企業は合わせて3%しかなく、労働者数で1.7%しかないので、全く記載のない企業に入社した方も多いでしょうが、「裁量労働制がなかった」ことを記録しておくことも大事です。
 「賃金」関連では、固定残業制の記載を点検しましょう。正式に就業規則や賃金規程に掲載しておらず「運用」している例も多いと聞きますが、どの職種に何時間分としてどのような計算で適用されているのかがポイントです。
 「退職関連事項」は、入社早々の皆さんには縁のない話かもしれませんが、「始まりがあれば必ず終わりがある。」わけで、その終わりを「定年」で迎えるのか、自発的に「転職」することで迎えるのか、そんなことはないほうがいいに決まっていますが「解雇」によって終わるのかを冷静に理解しておくことは必要です。特に最近は「退職後の競業先への就業禁止」を記載している企業も多くなっていますので、先々転職を考えるようになった時の選択肢を考えるに当たり有用です。
 不明な点は厚生労働省のHP「知って役立つ労働法」を見るなり、漫画の方が見やすければ「これってあり?~まんが知って役立つ労働法Q&A~」をながめておくと、良いと思います。

 そして、ずっと今いる企業に勤め続けるとしても、「働き方改革」の波が全く来ないということはありえません。その時に自分の勤務先がどのように人事制度を変え、どのように社員の皆さんに働いてもらおうと考えているのかを知るためにも、今のルールを保管しておいて、その時にどうルールを変えたのかを新旧比較して理解しておく必要があると考えるのです。そのことは単に「働く側」の立場としてだけではなく、将来管理職となって部下を監督する立場になった時にも、起業するなり、入社した会社の社長あるいは関連会社の社長となって「人材を雇う」立場になった時にも必要なことなのです。
 「ルールを明確に示して人材を雇うこと」「公明なルールに従ってビジネスパーソンとして働くこと」双方がますます大事な時代になってきています。そんな時代に社会人になったみなさんが、働くルール、働かせるルールをよく知って社会に貢献することを何より願ってやまないのです。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)