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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2013年6月)ミャンマーが期待する日系企業の雇用創出

この3月末に機会を得て、日本ILO協議会のミャンマー社会労働事情調査団に加わり、ミャンマー最大都市ヤンゴンと首都ネーピードーを訪問いたしました。

軍事政権による民主化弾圧・人権抑圧が続いていたミャンマーに対しては、長い間、制 裁措置が科されてきたことはみなさんご存知の通りで、ILOもその例外ではなく、軍事政権による強制労働を問題視して会議への参加資格停止などの制裁措置 を講じてきましたが、昨年の総会で民主化の動きを評価してこれを解除したところです。

日本政府も、今年1月に麻生副総理が安倍新政権の閣僚の初の外国訪問としてミャン マーに行き、約5000億円に上る延滞債務問題の解消と、新たな円借款500億円の供与を表明したこと(もっともこの内容は民主党政権時代に合意したこと を確認したものですが)に続き、先月安倍首相が日本の総理大臣としては36年ぶりにミャンマーを公式訪問してテイン・セイン大統領はじめ、アウン・サン・ スー・チー国民民主連盟(NLD)議長他ミャンマー要人と会談しました。これらの訪問には政界だけでなく多くの財界人が同行しました。さらには、2月には 経団連が140名という大規模なメコン新興国訪問団を組織して訪問する等、政財界挙げて関心度が高まっています。

ミャンマー側からも昨年4月のテイン・セイン大統領、今年4月のアウン・サン・スー・チー・ミャンマー国民民主連盟(NLD)議長の来日以外にも、この1年間には、フラ・ミン・ミャンヤンゴン市長や少数民族代表も来日し、人的交流が高まっています。

今回会うことができた政府要人の方々すべてが、対外債務の帳消しに日本が貢献したことに感謝の意を表し、軍事政権の閣僚であるにもかかわらず、民主化への改革については決して後戻りはないことを強調されたことが、とても印象的でした。

但し、今回の訪問で感じたのは、現地では日本側の動向についてもう少し冷静な受取り 方もあるようで、ミャンマー商工会議所のゾー・ミン・ウィン副会頭と面会した際には「日本の企業からたくさんの人が訪問してきているが、投資の結論ははま だ少ない。(日本人らしく)まず調査してから投資の可能性を検討しているのだと思う。」という指摘があり、ソー・テイン大統領府上級大臣の「もう 1,300人の日本人に会ったが、なかなか投資に繋がらない。」という皮肉とも取れる発言が気になりました。

今回一番印象に残ったのは、マウン・ミイン労働・雇用・社会保障大臣や、大統領府 ソー・テイン上級大臣の話の中に「日本には労働集約型産業の進出を期待したい。農業国であるミャンマーの産業構造を近代化するために、まずは縫製産業や製 靴産業を育成して、雇用を作り出したい。」「そのための職業訓練の方法も日本他各国の例を参考にしたい。」と、述べられたことです。

これを聞いて、3年ほど前にアフリカ南部を訪問した際に耳にした、「安い労働力を連れてきてしまう中国の経済援助は、自分たちの雇用を生まないし、出来上がった道路や電線などのインフラを維持整備していく人材が育たない。」という言葉を思い出しました。

軍事政権故の制裁下に長くあったミャンマーには、社会の隅々まで制裁に参加しなかっ た(隙を縫った?)中国の影響が浸透しているということも、今回そこここで聞いた話ですが、民主化を進める現軍事政権の閣僚をはじめミャンマー要人が日本 に期待する「良心的な」経済援助、企業進出の姿を思い描くことができました。

日本政府はミャンマーに対して、今年度もヤンゴン市上水道施設緊急整備計画をはじめとする無償資金協力生 活基盤インフラ(道路,電力,給水等)の新設・改修やティラワ経済特別区の電力関連施設整備と港湾拡張整備を行う有償資金協力などのODA(政府開発援 助)を実施する計画ですが、受注するのは日系企業であったとしても、同時に出来上がったインフラ設備を維持管理できるミャンマー人材の育成を行えば、熱心 な仏教国であるミャンマーの人びとは、日本への信頼を忘れないと思います。

経済支援を実施する際には、そのお金が相手国政府の利権を持つ人にばかり流れるよう では、意味はありません。納税者としても相手国国民に還流しているかどうかをよく見守ることの大切さも、今回のミャンマー訪問で得たもののひとつです。特 にミャンマーの場合は、軍部利権にのみ流れていないか、少数民族にも行き届いているかの視点が欠かせません。

また、忘れてならないのは軍事政権を逃れて日本に亡命していたミャンマー人の方々のことです。今回お世話になったITUCミャンマー事務所のマウン・ミンニョウ氏も、長い間日本に逃れていて連合の支援を受け、つい先だって帰国したばかりでした。

難民の方々の中には、子供の母国語能力や日本での生活基盤ができていることにより、帰国をためらう方も少なくないとも聞きました。

日本で教育を受け、知識を得たミャンマー人の方々が、当面は生活本拠地を日本に置いたままでも日本とビルマを自由に往来することができるように当面は支援し、日本で得た知見を祖国民主化のために活かすことができたら、と思います。

献身的な日本人がミャンマー入りして奉仕していることには頭が下がります。それとともに「ミャンマー人によるミャンマー国作り」が大原則であることは忘れないようにしたいと思います。

「経済援助」「企業進出」が、相手国に真に受け入れられ、平和外交の礎となりうるかどうかは、援助や進出がその国の方々の雇用を生み出し、人材育成に協力できるかどうかが重要であることを再認識したミャンマー訪問でした。

なお、今回のILO協議会ミャンマー社会労働事情調査全体概要については、いずれ日本ILO協議会のHPで公表されることと思いますので、そちらをご参照ください。

注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】