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今月のテーマ(2013年8月 その3)中国の出境入境管理法施行と中国への人材紹介

昨年6月30日に公布された「中華人民共和国出境入境管理法」(主席令第57号)が、先月から施行され、従来あった 外国人に対する「外国人入出国管理法」及び中国公民に対する「中国公民出入国管理法」(ともに1985年制定)が廃止されました。
これについて、在中国日本国大使館は、先々月に「注意喚起」を行っています。

国立国会図書館調査及び立法考査局による、国会図書館デジタル化資料でも、この新報の制定の経緯や、概要の解説を読むことができます。

以前から、日本企業の定年退職者や希望退職応募者の再就職先を開拓するために、日本の再就職支援事業者の多くは、相手先国を中華人民共和国とする「国外にわたる職業紹介」の許可(届出)手続きを行い、日本企業への部品供給輸出を主眼とした中国国内の製造業や、中国にある日系企業現地法人と取引のある中国企業からの求人を受け、生産管理、品質管理指導をはじめとした職種を中心に種々職業紹介を行ってきました。

もちろん、有能な日本人スペシャリストを外国に紹介するということが、場合によっては「技術流出」の片棒を担ぐことにつながってしまうのではないかという逡巡や懸念がなかったわけではありません。いささか旧聞に属することですが、ある製造業系の人材紹介・再就職支援会社の紹介部門の責任者が、「国外にわたる職業紹介」の手続きに着手したところ、親会社から「頭脳流出に手を貸すことはまかりならぬ」と言われて止められてしまい、「そうなら希望退職を募って解雇したりせず、自社で雇用し続けるべきなのに、放り出しておいて次の職業人生の行き先の開拓に制限をつけるのはけしからん。」との憤怒やるかたない担当者の話を聞いたことがあります。

わが身(国)を振り返れば、札幌農学校(現北海道大学)初代教頭のクラーク博士や、ケルネル水田にその名を留める駒場農学校(後の東京帝国大学農学部や東京教育大学農学部)で教鞭をとった農芸化学者のオスカル・ケルネルを例に引くまでもなく、外国人専門家を明治政府がいわばスカウトして、近代化を推し進めたことは周知のことです。また、中国は人力資源・社会保障部に「国家外国専家局/State Administration of Foreign Experts Affairs,the P.R. of China」という歴史ある部局があり、外国からの知力導入並びに在中国の外国人専門家に関する業務を総合的に管理しています。

21世紀の今、職場を日本国内に限定せず自分を活かせる職場での活躍を志す人材と、国籍を問わず事業に必要な人材を求める企業が出会い、さまざまなレベルでの国際人材交流が実現することが現代社会のグローバル化の一つの要素であることは間違いないと思います。

私の友人知人、後輩からも「希望退職に応じた第2の新天地として、北京で中国企業の副総経理をしています。住めば都です。一度遊びに来てください。」「空気はお世辞にも良いとは言えませんが、仕事の活気は日本の比ではありません。」といった挨拶状や年賀状が舞い込んでいます。

しかしながら、日中間の国家としての関係がどうもギクシャクしてきたことも影響しているのか、あるいは長期不況と原発事故からの回復にあがく日本の状況と、政権の世代交代があり、経済伸長と社会の矛盾顕在化に対処する中国の状況のそれぞれの変化がこの状況変化を生んだのかもしれませんが、今回の中国の出境入境管理法の運用がどうなっていくのかには、目を離すことができません。

今回の法改正は、読み方によっては脱北者(北朝鮮から亡命を求めて中国国境を越える人々)対策なのかとも見えなくはありませんが、中国で働く外国人の滞在、就労、出国などに関する管理が全体的に強化されそうな風向きであることは間違いなさそうです。

従来、日系企業のコールセンターが多く中国国内に設置され、中国の大学への日本人留学生の格好のアルバイト先という話もありましたが、今度の新法では許された職場・時間制限を超えた場合、明確に処罰の対象となっています。不法就労した本人への罰金は最高2万元となり、いままでは見えなかった紹介者への罰金の規定も、1人の紹介につき5万元と明確に処罰の対象になっています。

どこの国でも、外国人の就労規制については、自国民の失業状況などが大きく影響しているもので、今回もその例外ではないと推測しますが、日本人が働く国としての中華人民共和国の魅力が減衰することを危惧し、中国の企業に日本人を紹介する人材紹介会社は、提携先の中国の人材紹介機関・企業との連携を密にして、転就職する日本人に対する最新情報の説明責任を果たしていただきたいと切に思っています。

中華人民共和国出境入境管理法(主席令第57号)原文

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】