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今月のテーマ(2013年8月 その4)課長の悩みを考える―その2「目標管理について」

課長の悩みとして、前回の「部下の育成・指導について」に次いで多いのが「目標管理制度について」です。最近、目標管理制度の導入が増加傾向にあります。企業の持続的成長・発展やモチベーションを高める業務遂行、公正・納得性を求める処遇等を考えますとある意味当然の流れであると思います。

企業は常に将来に対する目標を掲げ、それを実現する経営戦略・経営計画を立てます。それを受けて、各部門や担当者がそれぞれに期待されている目標の達成に向けて最大限の努力をします。目標設定の流れを簡潔に示すと、会社目標→担当役員の目標→部門目標→課目標→課員目標ということになります。部長は部長自身の目標と部の達成目標、課長は課長自身の目標と課の達成目標,課員はそれぞれの達成目標があります。いずれもチャレンジングな目標を立てることが求められます。その中で部長と課員の中間で、実務上の重要な職位が課長ということになります。

目標管理に関する業務は大変重要であるが故に難しく、真面目に考えれば考えるほど神経を使う業務です。課長は自分の目標、課全体の目標達成、各部下の目標設定、進捗状況、指導育成、目標の達成度の評価、処遇への反映、今後の対応等にかかわり、部下の将来や生活に影響を与える立場にいますので、常に公正で納得性を重視して対応することが求められます。うまくいけば大きな喜びを分かち合うことができますが、昨今の経営環境を考えると、それほど甘い状況ではないことは想像できます。

目標管理で手数のかかる点はいろいろありますが、一つは目標の設定です。課長自身や課の目標は自分の意見と部長の意向との調整ということになりますが、部下の目標管理については、課長が責任を持って、部下の目標設定にかかわり、課の目標を達成すべく各人の目標を部下の意見を聞きながらお互いが納得して目標設定を行います。

そのためには、部下の能力レベルを常に把握しておく必要があります。能力レベルにふさわしい目標設定をすることになりますが、職務が具体化されないで職能資格制度や等級制度を導入している企業もあるため、部下が掲げた目標が妥当なのかの判断が難しい場合が少なからずあります。その点が明確でないと目標の設定水準や達成度に不公正が生じますし、評価や処遇にも影響を与えることになります。これは課内の問題のみならず他部門との整合性がとれているかという問題もあります。ある課は目標設定が甘く、ある課は目標設定が厳しいということになると、一般的には、目標設定の甘い課の従業員は達成度が高くなり、厳しい課の従業員は達成度が低くなります。その結果が処遇等に反映されますと当然のことながら不満の声が上がります。その他に目標設定に当たって部長と話が合わないとか、目標設定で協力的でない部下がいて全体のチームワークがうまくいかない、部下とのコミュニケーションがうまくいかない、目標の数量化は難しい、課長に求められる目標設定の水準が高すぎるなどいろいろ悩みを抱えています。

優秀な課長でもすべてがうまくいくことは少ないと思いますが、多くの人は苦労しながら対応しているのが実態です。会社は制度として問題があれば改善することは当然ですが、各課長が努力で解決すべき点については、努力を惜しんではならならないでしょう。制度の見直しについてはどのような仕事の仕方が会社、働く人に好ましいかという視点が大事です。目標管理制度が機能し、効果を上げるためにどのような対応が必要か考えてみることにします。

① 一番大事なことは、目標管理制度を導入する理由をお互いが良く理解し、その制度を実施することで従業員がより高い仕事にチャレンジして能力や付加価値を高め、公正な分配により、企業の成長と従業員が満足のいく処遇の両立が可能になることです。

目標設定について課長が苦労している大きな理由は、既述のように目標管理や処遇制度の基本になる資格制度や等級制度が具体的な職務内容で制度化されておらず、抽象的文面でつくられていることにあります。

具体的な職務をベースに組み立てられた資格制度や等級制度であれば、部下自身も掲げた目標が格付け等級見合いの職務であるか、高い等級の職務であるか、低めの目標であるかの判断ができます。課長も部下の目標が等級レベルとの関係で妥当であるか否かも判断がしやすくなります。能力開発、目標の達成度、評価の仕方などは等級制度をベースに考えることで具体性や納得性が高まります。目標管理を通して、能力レベルや指導すべき点も明確になります。処遇制度のベースとなる等級制度の具体化は会社全体にかかわる問題です。目標管理制度をよりよくするためには職務や役割を明確にした等級制度に早急に見直す必要があります。

② 課長が上司である部長との関係で悩んでいるケースもよく聞く話です。仕事の仕方についての考え方が異なる場合や性格が合わないなどその原因はいろいろありますが、会社にとっても部長・課長にとっても好ましいことではないため、お互いの立場を尊重しつつ、良い仕事をするためにどのように対応することが望ましいかとの観点に立ってお互いがよく話し合いをすることが良いでしょう。部下が仕事をしやすい環境をつくることが上司の役目でもありますし、上司の期待に沿って仕事をするのが部下の立場でもありますので、お互いの合意の下で目標設定ができるように努力することが大切です。

③ また、課長は部下が年配者や派遣社員、外国人など多様化している今日、協力的でない社員を抱えて仕事をすることもあります。その解決の仕方も状況により異なりますが、目標の設定に当たっては、制度の趣旨、課としてのやるべき使命,同僚との仕事の役割分担、協力的でない社員の格付け等級の仕事レベルを十分説明して、相手の意見を聞き、話し合い、お互いが納得して目標設定をすることが大切です。

④ 目標の進捗状況や評価についての話し合い、評価結果と今後の対応が大変と感じている課長もいますが、これこそが課長の大事な役目ですのでしっかり対応することが大事です。

進捗状況はしっかり把握する必要がありますが、過度にタッチせず部下の自主性も尊重しながら対応します。考課結果のフィードバックも大切ですので、お互いが前向きの話ができように心がけます。それらが上手く出来るためには常日頃のコミュニケーションと信頼関係が大切です。

⑤課長の一部から目標のハードルが高いとの意見もありますが、求められるハードルが本当に高いのか、本人の能力が足りないのかわからない部分もあります。課長自体が課全体の業務改善や業務の部下への委譲等で時間をねん出し、能力開発をしてチャレンジする姿を部下に示すことも大切です。他部門とも整合性が取れていないということであれば上司と話し合いをするなりして改善したらよいでしょう。一部の企業では、他部門との公正を期すため目標の難易度と達成度の二面によるマトリックス表を活用して公正評価に努めている企業もあります。

【MMC総研代表小柳勝二郎】