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今月のテーマ(2013年7月 その3)就活に必要な鳥瞰と虫瞰そして花瞰の視点、友観の視点

過日「欽ちゃんの全国びっくり王!」というTV番組を視ていたら、隣の車両との間隔をこぶしひとつよりもっと狭く駐車することができる中古車セン ターのベテラン部長さんが「衝撃のギリギリ駐車!」と題して取材対象になっていました。もちろんその方の熟練技には目を見張りましたが、更に興味深かった のは、ゲストの元ラグビー日本代表の方が、空間認識能力という観点からコメントし、「サッカーでもラグビーでもバスケットでも、自分の視線だけだったらダ メで相手にぶつかってしまう。(同時に)空中から俯瞰するような視点を持つことができることができる選手が、ディフェンスを避けることができ、優れてい る。」という主旨のコメントをしていらしたことです。

日頃様々なご相談を受けることが仕事の私ですが、困ってしまう人材からのご相談の定番の一つに、「私はこういう 会社で部長をやってきた。私は何十年も一所懸命働いてきた。」ということ(のみ)を何度も繰り返し、今の時点におけるご自分と状況を冷静に見ることができ ない方からのお電話です。その方のお気持ちにはもちろん共感しつつ、お話を伺うのですが、過去優秀と評価された方の中には、「自分目線」しか持つことがで きず、昭和の時代を懐古しても今の21世紀の時代の再就職には役立たないことに気づか(け?)ないという自覚が欠如してしまっていることが往々にしてあり ます。こんなとき、あのラグビーの視点の大切さが思い出されてしまうのです。

このような「自分目線」しか持つことができない傾向は、雇われる人材の側にだけ見られることではなく、雇う側に も往々にして見られます。昨年7月のこの欄の「成功した起業家が陥る‘ブラック企業’への道」でも触れましたが、「雇う側としての自覚」や「企業の社会的 責任の自覚」が醸成されずに急成長して「創業の精神」を大事にする余り、それが傍目には「成功して飛び立った鳥の視点(=自分目線)」でしかなく、あたか も大所高所に立った視点のように見えても、その企業で働く従業員や外注先などの虫の視点、そこに咲いている花の視点がないことに想いが至らないケースで す。

雇う側雇われる側だけでなく、その間を取り持つ「職業あっせん」を業とする人材紹介業界の方々にも、自分の価値 観だけに拘泥して人材の方々に接してしまうコンサルタントがいます。一方で、鳥瞰的視点と虫瞰的視点など、柔軟な視点を維持していらっしゃるコンサルタン トも多数いらっしゃいます。そのような先輩方には、失礼ながらそのコツを伺うようにしているのですが、一様に感じるのは、「自分の信念に自信がある時が一 番誤った判断をしやすい。」という教訓をお持ちで、かつ「今の自分は、客観的にどう見えるかという検証」を常に意識し、「その客観も一つだけでない」と 思っていらっしゃることです。

鳥瞰図の視点ばかりでなく「虫瞰図」の視点が必要だという話を聞いたのは、40年以上前、今は亡き小田実氏の講 演の席だったと記憶しています。当時の時代背景として脳裏に浮かんだのは、ベトナム戦争での爆撃機と爆弾を落とされるベトナムの人びとの姿であったりした わけですが、その時講演会後に「虫が好きな花の視点や、虫と共に野を視る虫ではない花の視点も大事だ。」「国と国との関係、人と人との関係は別の視点が必 要だし、その人それぞれの多様性を尊重することが大事だ。」と語っていたのが印象的でした。

学生さんや20代の人材の方々からのキャリア相談には、「自分が何をしたいのかを整理した視点(=主観)」と同 時に、「その職務が、社会的グローバルな視点から見て、どこでどのように必要とされるかという視点(=客観)」も双方同時に持つことが大事だと、ずっと言 い続けてきた私ですが、最近特に40~50歳以降の方に加えているのは、「同級生や、同僚など、あなたの周囲に居て、あなたと同じような立場だけれど、あ なたと違う視点であなたを観てきた友人の指摘を大事に。」ということです。いわば「友観」とでも言うのでしょうか。一番手っ取り早いのは「同窓会」人脈で しょうが、これも同じクラスだけではなく、できれば数年の先輩後輩のある人脈が望ましいと思います。人生の少し先を走っている先輩を観察し、助言を受ける ことができれば、「マルチ性」はますます増すと思うからです。

主観と客観に加えてこの友観の視点を得ることができれば、いわばマルチな自己検証の妥当性がより増すわけで、鳥と虫と花の視点も同様かと思うわけです。

加齢とともに思い込みが激しくなっていく先輩たちを嘆くばかりでなく、また「団塊の世代の逃げ切り」を恨むばかりでなく、社会貢献の視点も忘れない中年以降の人材の方々の活躍を願っています。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】