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今月のテーマ(2013年6月 その2)ジョブローテーションはうまく活用されているか

ジョブローテーションとは、企業の人材育成との関連でよく聞く言葉で、必要性が言われている割には実態が定かでないところがあります。

言葉の定義・目的は、社員の担当する職務を計画的に変えることによって、業務知識や経験を積ませ視野を広げていく人材育成の一つの方法と言ってよいでしょう。

日本は、就職ではなく就社とよく言われています。学校を卒業すると同時に会社等に就職します。募集・採用に当 たって会社は、事務職、技術職、技能職等の大括りの職種は決めますが、人事・労務職、経理職等をあらかじめ決めて募集・採用する、いわゆる職種別採用を 行っている企業はまだ少ないのが実態です。会社は、一括採用後に、どのような仕事をしたいか各人の意見も聞きますが、最終的には職務への配置・異動は企業 が決めています。

日本は、いわゆる終身雇用制度の考え方がまだ強くあります。労働市場が流動化していないということもあり、会社は、よほどのことがない限り社員を退職させず、その代わりに人事の配置・異動は、最終的には、会社が決めるという基本的な考え方があります。

そのことによって、雇用の安定はある程度保証されますが、自分が望む職務・地域で仕事ができないという問題も出 てきます。自分から退職しない限りは、好きでもない仕事を長くせざるを得ない場合も生じますし、自分のキャリア形成のために異なる業務を希望しても実現で きない場合もあります。

アメリカでは日本のように雇用は安定していませんが、会社側は担当して欲しい職務内容や能力要件を明示し、働き たい人はそれに応募し、会社側と働く側の合意ができればその会社で働くことになります。アメリカでは、労働市場が流動化し、ジョブホッピングが当たり前の 国ですので多くの人は、自分のキャリアアップをするために職業生活のうちに3回前後は転職するといわれています。

日本は雇用システムや労働市場の環境がアメリカと異なりますのでキャリアアップの仕方も異なる実態にあります。 日本では企業内でどのようにキャリアアップするかが大変重要になるわけですが、その点が言葉で言うほど簡単でなく、会社、社員とも問題を抱えています。最 近、従業員は自分のキャリア形成に強い関心を持ち、その実現を企業に求めます。会社もその必要性を十分承知していますが、多くの従業員の満足を得ている状 況ではありません。

このような背景にはいろんな考え方があります。従業員のキャリア形成の考え方は個人によって異なります。企業側にもジョブローテーションについて、次のようないろんな意見があります。

「ジョブローテーションを実施すると専門性が高まらず質の高い仕事ができなくなるのではないか」、「人が変わる と仕事の効率が悪くなる」。また、「同じ仕事を長くさせると勤労意欲が高まらない、仕事がマンネリ化する」、「視野を広くするためにジョブローテーション を実施すべき」、「異動は賛成だが優秀な人材を離さない部門があり、人事部門の力不足でそれを実施できない」などいろんな問題が絡み合っています。

一方、企業の実態を見ていますと、多くの企業で人事異動は実施されていますが、従業員側から見ると、具体的な話 合いがなく、異動の仕方も場当たり的という意見も少なからずあります。また、成果反映型処遇制度との関係では、従業員から自分が希望する職場での評価であ ればその結果に納得するという意見もあります。

企業は自己申告制度や人事考課時の面談で従業員の異動希望を把握し、希望通りというわけにはいかないができるだ け意向に沿うように努力している企業もあります。従業員の中には希望を出したらすぐに実施してくれると思っているのに対して、企業は業務との関係がありま すので即実行できない場合もあり、従業員の不満につながっています。

経営環境も常に変わりますので、理屈通りにいかないのがジョブローテーションですが、企業は従業員のモチベーションや職業生活がかかった話ですので、真剣に取り組む必要があります。

経営環境の変化や企業規模等考えますと企業によっては多少難しい点もありますが、ジョブローテーションを実施す れば、視野が広い従業員が多くなり、部門間の連携が深まり、仕事の効率性が高まるとか、新たな商品・サービスが創出できるなど経営上プラスに働く面も出て きます。

ジョブローテーションは、次の視点を持って検討し、自社の実態に合った内容で実施することが大切です。

まず、トップや人事担当部門が人材育成も部分最適ではなく、企業の将来を見据えた全社最適を常に考えて対応するよう経営幹部に向けて明確に発信すること。

第2に、人事考課の面談ごとに、部下の今後の異動・育成希望等を聞き、話し合って将来に向けての的確な指導・アドバイスをすること。

第3は、具体的な方針として、ジョブローテーションは大手企業であれば管理職クラスになる前までに3回前後は各 人の能力や企業の必要性等を考慮して計画的に異動させること、また同じ部署で5年以上在籍した者には、部門の意向にかかわらず強制的に異動をさせることを 明文化し、実施することで会社の強い姿勢を示すことも大切です。現にそのような方針の下で実施している企業もあります。

第4は、何回か異動をすると業務知識、視野が広がり、多くの従業員が的確な判断ができようになることを信じて取り組むこと。

第5は、職業生活が長くなりますので、複数の専門能力を持つことが、働く場を広げ、職務選択の柔軟性を高め企業にも貢献すること等。

また、留意すべき点としては、従業員に制度の実施を明言しながらなにも実行に移さないと信頼をなくしますし、軽率な約束をせず、会社の都合で実施できない場合は、従業員にその理由を説明することが信頼性を保持するうえで大切です。

【MMC総研代表小柳勝二郎】