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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2013年4月 その2)ハローワーク民間開放論や規制緩和論の落差

この2月5日に開催された第4回経済財政諮問会議において、有識者4議員から提出された資料「雇用と所得の増大に向けて」 の中の「持続的成長を牽引するための労働市場改革」の項目の中に「雇用の拡大・ミスマッチの解消の実効性を上げる観点から、ハローワーク全体の事業効率を 検証するとともに、民間のノウハウを最大限活用するかたちで、官民の協力体制を構築すべきである。」との記述がありました。

「官民協力体制」については、職業安定法第5条の2定められていることでもあり、その具体的な事項について論議されるのであれば、大いに結構なことではないかと思います。

ところがその10日後の2月15日(金)に開催された第2回規制改革会議では、「これまでに提起されている課題 の代表例」のひとつとして、職業紹介制度を求職者・求人者の双方にとって使いやすいものとすることにより、求職者と求人者のミスマッチを解消する観点から 下記項目が挙げられています。

「10. 有料職業紹介事業の見直し有料職業紹介事業においては、原則として求職者から手数料等を徴収することはできないところ、例外として「芸能家」、「モデ ル」、「年収700 万円超の経営管理者」等については、求職者から手数料を徴収できる。求人者と求職者のマッチングを促進する観点から、年収要件(700万円超)を引き下げ たり、「経営管理者」の限定を柔軟化することとすべきではないか。」

これは、一体、どこのどなたがこのような発想をするのでしょうか?

日本が批准しているILO181号条約第7条は、明確に「1民間職業仲介事業所は、労働者からいかなる手数料 又は経費についてもその全部又は一部を直接又は間接に徴収してはならない。」としています。もちろん例外として「2権限のある機関は、関係する労働者の 利益のために、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、特定の種類の労働者及び民間職業仲介事業所が提供する特定の種類のサービスについて 1の規定の例外を認めることができる。」とし、「32の規定に基づいて例外を認めた加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づく報告において、 その例外についての情報を提供し及びその理由を示す。 」とされていますが、大原則は「労働者からは無料」なのです。

また、少なくとも「年収700 万円超の経営管理者」について紹介する人材紹介事業者は、本人から収受できる多少の手数料(現状では年収700 万円の経営管理者紹介で367,500円が上限)を頂かなくても、求人ニーズにマッチした人材であれば、雇用主から充分に紹介手数料を受け取れる(業界の 相場は概ね25~35%が中心=紹介手数料は175万~245万円)ので、個人から収受する必要はないし、現実にそのような事例があるとは聞いたことがな いし、この水準を下げる必要もないという意見(場合によっては不要との意見)が大勢と思います。

「これまでに提起されている課題の代表例」資料全文

そもそもこのような点をいじっても、「職業業紹介制度を求職者・求人者の双方にとって使いやすいものには」なるとも思えないし、求職者と求人者のミスマッチを解消することにもつながらず、下手をすれば無用な紛争増加にもつながりかねないと論だと危惧せざるをえません。

規制改革会議の言う「ハローワークと民間人材ビジネスの補完関係の強化等を行うべきではないか。」と言う論点 (2月25日雇用分野ワーキング・グループ鶴委員提出資料)には、冒頭申し上げたように職業安定法第5条の2の観点から大いにうなずくものの、各論になっ た時にどのようなことがあり得るのかは、これからの話だと思います。

2月25日雇用分野ワーキング・グループ鶴委員提出資料

さらに第3回雇用分野ワーキング・グループ資料には「有料職業紹介事業に関する規制改革の論点(案) ~国際先端テスト(国際比較)の観点から~ 」として、「有料職業紹介事業の労働大臣許可制について、どのように考えるか。」と「求職者からの手数料規制について」が挙げられています。

4/19雇用分野ワーキング・グループ資料

第2回(4/11)の第2回雇用ワーキング・グループでは、大阪大学大学院法学研究科小嶌典明教授から資料が提 出され、「通達に定める「経営管理者」の定義を仮に課長以上の者に変更したとしても、それはポジティブリスト時代の定義に戻したというにすぎず、これに 伴って告示に定める年収要件を緩和することにも、大きな抵抗はないと思われる。」との記述とともに、「諸外国の事情はどうであれ、わが国の場合、仮に年収 要件等を緩和したとしても、その効果はあまり期待できないと考える。むしろ、細部に宿る煩瑣な規制の撤廃に努力すべきではないか。」と、原則的な規制緩和 論の中においても、年収要件緩和の効果に疑問を呈していることが無視されていることに困惑しています。

更に3月5日の日本経済新聞社説に至っては、「経済再生と成長を労働政策でも後押しを」(2013/3/5)と 題して、「大切なのは民の力を最大限引き出す視点である。どの企業で人材需要があるか見つけ、求職者との橋渡しをする職業紹介は、製品・サービスの市場動 向をよく知る民間事業者をもっと活用した方が効率的になる。」
(中略)
「官が中心に担っている職業紹介と職業訓練の民間開放を積極的に進めることが、経済の再生と成長に欠かせない。安倍政権が復活させた規制改革会議ではその 点の議論も尽くしてほしい。」と、述べた上で、「もの足りないのはハローワークの職業紹介事業や公共職業訓練施設の運営を人材サービス会社などの民間企業 に思い切ってゆだねる改革が、主要項目として挙がっていない点だ。」「ハローワークの職業紹介も公共職業訓練も、いまのままでは活発な競争がなく、人材紹 介サービスや訓練メニューの質が高まらない。求職者や働く人自身のためにも、民間開放を推進して競争原理をはたらかせるべきだ。(後略)」とまで、論じて います。
各社の社説が表示されますので、日経新聞をクリックしてください。

「民間人材ビジネスを最大限活用し、マッチング機能がより強化された労働市場を実現する」ことには異論がなくて も、ここまで飛躍した論旨にはとてもついていけません。「セーフティーネットとしての国家による職業紹介機能」と、「民間の創意工夫による求人情報提供と 民間ならではの職業紹介」の相互補完こそが、これからの日本の社会が必要としている労働市場形成に貢献できるという視点での論議と、はしゃぎ過ぎた規制緩 和がもたらす副作用と弊害を検証しない論議との落差に困惑するばかりです。そして、その落差の間に落とし穴が無ければいいと危惧しています。

注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】