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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2013年3月)「全員業務委託」という会社からの求人票

昨年9月のこの欄で、私の今の仕事について「人材紹介業を利用する様々な方々(その多くは転職再就職を考える/あるいは活動中の人材の方、民間人材 紹介会社を利用して自社の戦力となる人材を確保しようとする企業のご担当者)からのご相談やご意見を承ることが中心なのですが、人材や求人企業の方とのやりとりで困り果てた人材紹介会社からのご相談も、少なからず日々お受けしています。」と、申し上げました。その続編です。

今回は人材協の会員ではない人材紹介会社からの匿名電話によるご質問なので、いまひとつ焦点を合わせにくいご相談ではありましたが、要は「ある企業から求人を受けたのだが、<業務委託方式>と備考欄に書いてある。これはどのように解釈したら良いのだろうか?」と、いうものです。

電話の様子からして、求人受付にあたっての「労働条件の明示」(職安法第5条の3第2項、同3項)、「求人票の 受理」(職安法施行規則第4条の2第2項)は行なっていて、相談者のお手元にはその求人票があるようで、こちらから求人内容の必須記載項目(職安法施行規 則第4条の2)についての質問は全てお答えいただけました。つまり求人の「業務内容」「契約期間の有無・期間」「就業場所」「始業終業時刻と所定労働時間 を超える労働の有無、休憩時間及び休日」「賃金額」「健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の適用」の各項目は概ね記載されているということなのです。

ところが細かく伺っていると「所定外労働時間」は空欄で、「各種社会保険」欄には「適用せず」とあり、備考欄に「業務委託方式」と記入されているので「これはどう扱ったらよいのだろうか?」と思ってのお電話でした。

初めてのお取引の求人企業で、その求人会社の社長さんは「ウチの社員は全員<業務委託方式>だから、余計な保険 料は払わないで、その分は直接社員の給料に回す。そのほうが社員は喜ぶし、組合なんかできない。」「年齢不問なので、年金受給中の人でも年金額を削られず に小使い稼ぎ以上のことが得られる。」と、仰っているそうなのです。

冒頭書きましたように、ご相談者は人材協の会員企業ではないので、一緒にその求人企業を訪問する訳にもいかず、一般的な助言をすることになるのですが、私からの助言のポイントは下記のようなことでした。

○依頼内容の本質が、「人を雇いたい」という「労働契約成立のあっせん依頼」であれば、本件は職業紹介業務における「求人受理」に該当しますが、「雇用」ではない「業務委託」という考え方とは矛盾するので、そのことを依頼者によく説明して理解を求めてください。

今回のご相談の件は、過去の事例によれば、出勤日、出退勤時刻、勤務場所や賃金の支払い形態からして「労働者」を求めている(雇用契約のあっせん依頼)と思われますが、電話だけで判断しきれるものではないので、弁護士さんや労働局にも相談してください。

○紛争が起きた際、「雇用」であるか「業務委託」であるかは、契約書をはじめとした書類の「標題」や「呼称」では なく、その実態によって判断されるので、依頼者がどのような「人材」や「仕事」を求めていて、なぜ「業務委託」という呼称にこだわるのかをよく聞いてくだ さい。それがもし「余計な保険料は払わない」ことを目的とするのなら、「社会保険加入逃れ」に手を貸すことになるになりますし、ましてや「最低賃金法」や 「解雇規制」を逃れるためのものであれば、最寄りの労働局に確認した上で求人をお断りしてください。

これとは別に、以前「<100%歩合給>とだけ賃金欄に書かれた求人票を受理してよいか?」というご質問も、あ りました。もちろん労働基準法第27条(出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければ ならない。)をご説明して、この条項を求人主にお話ししてお断りするようアドバイスしたのですが、つくづく情けない気持ちになるのは、今回のケースも以前 のケースもご相談者の有料職業紹介事業者が求人をお断りになる際に「ハローワークでもこの求人は受付けてもらえないと思いますが」と付言すると、「だから こそ高い金を支払ってでもおたくに頼むのじゃないか」と言われたということです。

行政機関には(後ろめたい気持ちがあるからか)出せないものを、民間職業紹介事業者に「金を払えばいいだろう」 という姿勢で求人されても困るわけで、毅然とした態度を保持しつつ、知識不足の求人主に対しては、なぜそのようなルールがあるのかを分かりやすく説明でき る人材ビジネスであって欲しいものです。

残念なことにこのような求人者と直接お話しできた際でも「キミは公務員の天下りか何だか知らないけれど(私は公務員OBではありません。念の為。)、商売は商売だ。この求人を受けている人材会社は他にいくらでもある。」とおっしゃられることです。

私は「官による規制強化」に無条件で賛成する訳ではありませんし、何とか業界の自主規制と求人企業・産業界のモ ラルとコンプライアンス精神の向上によって、産業界にも人材にも役立って社会の為になる人材ビジネス業界であって欲しいと思っています。ただもう少し賢い 形での官民協力体制によって、倫理徳性に裏打ちされたより良い人材ビジネスを実現し、産業界には必要な人材確保の、国民には希望に沿った自分を活かせる職 場・仕事の提供が、今まで以上にできるようになって欲しいと願っているところです。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】