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今月のテーマ(2013年2月 その2)日雇い派遣の禁止で何が起きているのか

先月は、新年会も兼ねて随分多くの人材コンサルタントの方と一献傾ける機会がありました。多種多彩な人材コンサルタントの方々のことですから、話 題は豊富で多様だったのですが、その中から「昨年秋からの改正派遣法による日雇い派遣の禁止は、紹介業界にどのような影響を与え、どのような現象が起きて いるのか。」という話題について紹介したいと思います。

昨年10月の改正派遣法施行以降、一番全国的広範囲に出現したと思われる「一日労働力」の需要は、何といっても12月16日の総選挙の際の「出口調査」だと思われます。

選挙の都度、投票日1日に全国で少なくとも数万カ所で数万人(大手新聞が概ね1社3000か所位―1か所最低2 名ということから推測して)の「一日人材需要」が発生したと思われます。この需要に対して、「日雇い派遣禁止」後の人材派遣業界は(あるいは派遣形態で要 望に応えられない中での人材ビジネス業界は)どのように注文に応えたのでしょうか?

人材紹介だけでなく派遣も兼業している人材ビジネス会社に在籍するAさんは、「日雇い派遣の例外に該当する方に 絞った派遣登録会を昨年秋に開催したところ、それなりの登録があり、弊社が請けた範囲での出口調査に必要な人数は揃えられたので、日雇い派遣として実施し たようだ。」とおっしゃっていました。

ご存知のとおり、日雇い派遣禁止の例外に該当する業務には「調査」という項目が挙げられていますの で、この適用で実施してもいいように思うのですが、この「例外業務」というものの適用について、事業者側は行政の指導について疑心暗鬼になっており、「突 然の解釈変更によって行政指導の対象になってはかなわない。」という発想から、別の例外規定である「60歳以上/昼間学生/生業収入500万円以上の副業 /世帯収入500万円以上の主たる生計者以外のいずれか」に該当する登録派遣スタッフ募集に走り、それなりに人数を確保して対処した模様です。

また、Bさんの知っている調査・マーケティングを得意にしているところは、おそらく「調査請負」という形態をとったのではないかという話でした。

行政サイドには「1日の需要は『日々雇用』という直接雇用でまかなえば良いのでは。」といった向きもあったよう ですが、これだけ大量の1日限りの需要に「直接雇用」で応対した事象は聞かれませんでした。「例外該当人材」を確保した人材派遣会社は、選挙の出口調査の ような大量大規模1日需要ではない、「日々単位での労働力需要」に対しても、この「例外該当人材」による派遣サービスをある程度提供できる自信をつけたよ うにも見えます。

「日雇い派遣の禁止」を巡っては、年収500万円制限について「それでも(年収500万円以下でも)働きたい人の就業の機会を奪うのか。」といった懸念が 表明されているわけですが、施行後数カ月では、まだその影響をきちんと把握できる段階ではなさそうです。今度派遣会社の方と会った時には、これらの「例外 該当人材による日雇い派遣」が、結果として例外に該当しない他の派遣就業希望人材の就業機会を圧迫する傾向が見られないかについても、是非聞いてみたいと 思います。

しかし「日々単位での労働力需要」にきちんと応えるには、「日々雇用という直接雇用」だけではどうも需要者側、働く側、人材サービス提供事業者側それぞれに使い勝手が悪そうな気もするわけで、引続きの状況把握が必要と思われます。

派遣事業についての行政処分は、現在の所はそのほとんどが「特定派遣業」に対する改善命令、事業停止命令に集中している感があり、人材サービス総合サイトの最新情報欄に 掲載されているものを見ると、今年度に入ってから、2月18日現在でざっと拾ってみたところ本省および全国の労働局の内13局において、特定労働者派遣事 業主に対するもの147件、一般労働者派遣事業主に対するもの9件、職業紹介事業主に対するもの3件となっており、その内容の多くは「事業報告書及び収支 決算書未提出」による「事業停止命令 ・改善命令」といった一見ルーズな法違反についてのものと見られます。

公表されない「是正指導」がどのくらいあるのかは、現時点では不明ですが、派遣法審議の際の国会附帯決議の効果 か、現場が混乱するような行政指導はみられていない模様に安堵する気持ちもあるのですが、すでに始まっている次の派遣法改正のための「今後の労働者派遣制 度の在り方に関する研究会」をはじめとした識者や世論の動向を先取りしているかのように見え、「届出で済む(許可制ではない)特定派遣の問題点」を顕在化 させる力学が働いているようにも感じます。

人材紹介にしても人材派遣にしても、それなりの歴史の上にもう無視できない労働力需給の仕組みとして現存するわ けですから、机の上の論議ではなく、働く人材、利用する産業、そして公益性を認識している事業者それぞれの立場の気持や実態への目配りをおろそかにできな いところにきていと思われます。日本という社会の「はたらく」「人材を確保する」システムをよりよくする観点での、事業者の自主管理、利用産業の法令順 守、行政の納得性のある指導が、それぞれ求められていることを忘れずに更に見つめていこうと思います。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】