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今月のテーマ(2012年11月 その4)コミュニケーション能力が問題になる背景と対応

景気の低迷、企業の海外移転、大学卒業生の増加などが重なって厳しい就職環境が続いています。企業の採用方針が「量」から「質」へと厳選主義に転換していることもあり、学生は学業や学生生活はもちろん、事にあたっての考え方、取り組み姿勢、性格など今までの生活のしかた、人間性が厳しく問われることになります。ただ、学卒者の就職はその時の景気や面接者との好み等も影響しますのでめぐり合わせや運、不運もあります。仮に何社か受けて希望会社に入れなくとも、前途のある若い人には、時間はたっぷりあります。常に前向きに頑張れば、どこかで評価してもらうチャンスはあるという気持ちを持って、いろんなことにチャレンジしていくことが大切です。

学生や中途入社の採用面接を数年やりましたが、経営環境・産業構造が大きく変わる中で、日本企業の採用が学卒者に注力し、雇用の流動性のないワンチャンス型になっていることは変えていく必要があるのではないかと考えていました。長い人生の中で多様なチャンス、“七転び八起き”の精神を生かしやすい制度にしていくことが国民全体にとってプラスのように思います。

最近、コミュニケーション能力が不足しているなどの調査報告をよく見ます。

日本経団連の「新卒採用に関するアンケート調査結果」を見ると、「選考時に重視する要素」として、ここ数年間は「コミュニケーション能力」が「主体性」「協調性」「チャレンジ精神」を抜いてかなり高い数字になっています。そのようなこともあってか、巷では、コミュニケーション能力向上のセミナーや資格認定まで行われています。

生きていくためには多くの人とのつながりが必要で、コミュニケーション能力が大切であるということはだれも否定はしないと思います。これは学卒者だけの問題ではなく、企業のミドルマネジャーになっても“ミドルマネジャーのコミュニケーション能力”の向上研修があり、その強化が求められています。そのことは、それぞれのレベルで求められるコミュニケーション能力の内容が異なるということでしょうが、本質的な能力の考え方、捉え方は同じように思います。

コミュニケーション能力とよく言われますが、どのような能力を指すのか、一言で明確に定義をするのはなかなか難しい言葉のように思います。

コミュニケーションは基本的には相手は人間で、一人の場合、集団の場合があります。一方方向ではなく双方向、手段は電話、メール、書面で渡す、直接話すなど多様です。話す場所や相手の立場によっても求められるコミュニケーション能力は異なります。

コミュニケーション能力というと話し上手とか、伝える力、聞き上手、相手を説得できる等、いろんな言葉がありますし、それらに関する本も出ています。当然それらは含まれていますが、それだけではないような気もします。能力の内容は言葉の使い方、話の仕方・内容、論理性、状況判断等を踏まえた話し合いができて課題を解決する能力。TPOを心得て話し合い、課題を解決する能力等を意味しているのではないでしょうか。

学卒者の採用でコミュニケーション能力が問題になるのは質問の内容を理解する能力がない(質問側にも意味不明の質問をする人もいますが)、言いたいことが整理されていない、論理性がない、言葉の使い方を知らない、視野が狭く、説得力に欠けるなど様々ことを感じているのかもしれません。世間も・職場も知らないので、世間を知り、いろんな経験を積んだ先輩からみれば仕方がないこともあります。

兄弟が多く、時間に余裕のある時代はいろんな経験をすることができましたが、最近は、少子化や個の尊重、共働き、楽しみ方もテレビ、パソコンなど一人で楽しむことができるためコミュニケーションをとる機会が少なくなってきていることも影響しているかもしれません。家庭、学校もコミュニケーション能力の重要性を意識しないで過ごしてきた結果であるようにも思います。しかし、企業も含めた社会で有意義に生活するにはこの能力は大切なことです。最近では経済のグローバル化が進行し、外国の人たちとのコミュニケーションも多くなるでしょう。

会社組織に入れば社内外の人たちとコミュニケーションを取らなければなりません。管理職になれば部下や上司との良好なコミュニケーション能力が問われます。いろいろな人、いろいろな場で臨機応変に対応できるコミュニケーション能力が問われているというのが現状です。

日本経営協会のビジネスコミュニケーション白書2011年の調査を見ると、「社内のコミュニケーション」の満足度では「満足できる」が37.6%、「満足できない」が61.9%と24ポイント強「満足できない」が多くなっています。部門間の横のコミュニケーション不足が68%と最も多くなっています。コミュニケーションを進める上での問題点として業務の多忙、対面コミュニケーションの減少、個人のコミュニケーション・スキルの減少などが挙がっています。

また、日本生産性本部の職場のコミュニケーションに関する調査では課長と一般社員とのコミュニケーションの認識度を見ると両者間で大きな差があります。

課長はコミュニケーションが「とれていると思う」が79.9%に対して一般職の68.8%と10ポイントほどの差があります。また「職場で有益な情報が共有されているか」については課長が「共有されていると思う」が68.0%であるのに対して一般社員は45.1%と20ポイントほどの開きがあります。自分はコミュニケーションをとっているつもりでも、相手は自分が思っているほどではないということでしょうか。企業で意識調査をするとこの手の回答はよくありますが、そのギャップを埋めていくことが職場の活性化にはとても大切です。

最近、文部科学省、コミュニケーション教育推進会議の審議経過報告書「子どもたちのコミュニケーション能力を育むために」のレポートを見ました。

そこでは、これからの国際社会に生きていく子どもたちに本当に必要なコミュニケーション能力とは何か、コミュニケーション能力の捉え方と育成、育成するための手法、方策、効果等が盛り込まれ、それを教育現場にどのように実践していくかということが問題になっています。

コミュニケーション能力は各層によって求められる視点が異なるところはありますが、基本的なところは、多種・多様な価値観や背景を持つ人々が意見や考えを出し合い、お互いの意見を尊重しつつ議論し、お互いが納得する形で、合意し、課題を解決していく能力と言った趣旨のことも書かれています。ダイバーシティの時代を迎えるにあたって大変重要な能力と言えます。

この種の能力は短期間では身につけることはできないため子どもの頃から家庭や教育の現場でいろんな話題や問題を投げかけ実践していくことが大切ですが、指導していく立場の家庭や教師がどのようなリードをするかは極めて重要です。特に多くの子どもたちに大きな影響力を持つ教師には指導者としての自覚と公正の見方、視野の広さに加えて、指導にあたっての基本姿勢、ルールの遵守が強く求められることになります。

このような教育の積み重ねをすることが出来れば、子どもたちはグローバルの視点でもの事を見たり、考えたり、行動する立派な人材に成長するでしょう。

現在、社会人で問題になっているような「コミュニケーション能力」が不足しているとの指摘はそのような教育を受けてこなかった裏返しでもあります。

新入社員は自己啓発と企業の社員研修やOJT等でその種の能力を高め,子どもたちにはそのような能力が正しく身に着き、グローバル時代にふさわしい人材が多く育つことを期待したいと思います。

【MMC総研代表小柳勝二郎】