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今月のテーマ(2012年11月 その2)労使ともに、働く時間への対応、国際的オンチでは

11月1日から1か月間「労働時間適正化キャンペーン」が政府の肝いり(厚生労働省の呼び掛け)で、展開されている。このことは、政府が掛け声をかけ、乗り出さないと、いつまでも働く時間の適正化が進まないことを意味するものとも解される。労使には、改めて働くことの意味を噛みしめてほしい。

長時間労働、対応遅れる日本

国際的にみて、日本の労働時間に対する考え方、対応は遅れているといえる。日本人の労働時間管理―とりわけ時間外労働の実態や長時間労働による健康障害などを考えると、日本人の働く姿は、国際オンチと揶揄されてもしようがない現実だ。それは、長年にわたって言い続けられてきた欧米からの“働き蜂”日本人に象徴されるといっていい。

長時間会社にへばりついていればいい、というものではないはずだ。メリハリのある働き方―しっかり働き、ゆっくり休むーという意識改革が今、求められていることを再確認したい。その一つが、休息時間の考え方だ。EU労働時間指令では、仕事を終え、次の仕事に就くまでの休息時間を最低11時間と決めている。この考え方、姿勢を学びたい。

資源の乏しい日本では、古くから働くことに、意義を見つけ、働くことは美徳だとされ、それを誰もが受け入れてきた。確かに、他人のために懸命に働く姿は、神々しい。だが、身体を壊してまでも働く、過労死寸前あるいは過労死も厭わず働き詰めで、果たしていいのだろうか。不払い残業(サービス残業)も後を絶たない。家族を犠牲にしてまで深夜残業の連続では、心も身体もズタズタになり、いつしか人材(財)・大黒柱を、家族も、会社も失うことにつながり、社会的な損失となる。

2012年度労働時間適正化キャンペーンの重点課題

こうした実態を認めた上かどうか2012年の労働時間適正化キャンペーンの狙いには、時間外労働の削減問題やサービス残業の一掃、超長時間労働に何とかメスを入れたいという姿勢が見て取れる。ただ、これらの諸課題は、ここ10年も20年も、あるいはそれ以上前から指摘され、解決されないでいるわけで、ある労働評論家いわく「10年も20年も前と同じレジュメで講義できることが不思議だ。それだけ働く時間への対応、適正化が職場で進んでいないことの証だ。古い講義レジュメが21世紀の今日まで通用するとは我ながら寂しい限りだし、反省もするが、わが国労使の姿勢にも呆れる。働く時間の適正化をわざわざ政府に音頭をとってもらい、重い腰を上げるようでは、何をかいわんやである」

厚生労働省の2012年度労働時間適正化キャンペーンで力点が置かれているのは、次の3点だ。①時間外労働協定の適正化などによる時間外・休日労働の削減、②長時間労働者への医師による面接指導など、労働者の健康管理に係る措置の徹底、③賃金不払い残業を起こさないよう労働時間適正把握基準の遵守である。

労働時間をめぐる実態の推移

今日の労働時間の現状は、どうなっているのだろうか。厚生労働省編の平成24年版労働経済白書によると、労働者の年間総実労働時間は、労働基準法の改正、時短促進法の策定に加え、企業労使の時短に対する意識の高まりなどを反映して、1990年代後半にかけては、1993年の2,045時間から1999年には2,000時間にまで減少した。だが、2000年以降は、概ね横ばいで推移し、2011年は2,006時間で、10年前よりわずかだが増加傾向にある。

週60時間以上(所定内40時間、残業20時間以上)働く労働者の割合は、平成23年で9.4%。子育て世代に当たる30歳代男性では、18.4%と高い水準で推移していることに注目したい。これらは、4週で80時間以上の残業、月にすると100時間近くになり、過労死認定基準に相当するほどの働き過ぎだ。

それらが、脳・心臓疾患に悪影響を及ぼし、平成23年度に過労などで労災補償の支給決定がなされた件数は310件を数え、平成21年度の293件、同22年度の285件に比べ、3年ぶりに300件台に乗るなど増加の傾向にある。

さらに賃金不払い残業(サービス残業)だが、平成23年度に、残業料(割増賃金)が不払いになっているとして、労働基準監督署が労働基準法違反で是正指導した事案のうち、1企業当たり100万円以上の支払いがなされた企業数は、1,312社、支払われた割増賃金の合計は145億9,957万円、対象労働者数は11万7,002人に達している。業務指示を出しながら割増賃金を支払わない会社、あるいは現実に残業に従事しながら、割増賃金を請求できずサービス残業に甘んじている労働者などが、如何に多いことか。労働時間の適正化を云々する前に、法令遵守の姿勢の欠如が労使双方に目立つことに愕然とするばかりである。

深夜に及ぶ残業や休日出勤の連続で、超長時間にわたる過重な労働を続けることは、疲労の蓄積をもたら重要な要因となり、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まることは証明済みである。

時間外労働の実態

1日から全国的に労働時間適正化キャンペーンが展開されているが、適正化のためには、何が必要なのか。その基本は、労働者一人ひとりの出勤日ごとの始業と終業時刻の確認と記録である。そのためには、使用者・管理監督者が自ら確認することだろうし、タイムカードやICカードなど客観的な記録も重視したい。ただ、仕事上、自宅から現場への直行・直帰など自己申告に任せる場合も、管理者の姿勢一つで確認できる。労働時間の実態を正しく記録させ、時に、抜き打ち的に実態と合致しているかを調べるなど打つ手はあるはずだ。

時間外労働に限ってみてみたい。労働基準法第36条の規定に基づいて、関係労使が36協定(サブロク協定と呼ばれるもの)を締結すれば、時間外労働は比較的容易にできる。割増率も国際的には低率で、契約概念の乏しい日本人の場合、安易に時間外労働が行われ、元来例外的なものであるべき時間外労働が当たり前のように職場に蔓延ってはいないだろうか。

求人広告で「月収○十万円(残業料込み)」なるものを見かけたことがある。このことは、時間外労働をあらかじめ組み込んだもので、長時間働いてやっと生活できる賃金を保障しますよというに等しい。これでは、長時間労働の解消も労働時間の適正化も進みようがない。

労働基準法では、週40時間、1日9時間拘束の実働8時間(休憩1時間)、5日勤務が契約の原則だ。これが使用者側の都合で時間外労働を組み込んでの雇用条件を提示するのは、契約外であり、契約違反となる。

労働時間の適正化と時間外労働の規制の推進を

週休2日制を規定したILO勧告第116号は、時間外労働はあくまでも例外的なものだとしている。そして、例外的なものとして許される時間外労働には、①恒常的、②一時的(臨時的)、③定期的の3つを挙げる。

恒常的なものには、床屋(理髪店)、病院、ホテル、レストラン、会社のお抱え運転手など断続的な仕事やライフラインを守る電気・ガス・水道など公共の利益に必要な場合。始業前の準備、保守作業などだ。
一般的・臨時的に認められる例外には、事故の発生、機械設備に関わる緊急措置、停電・災害時などが、定期的に認められる例外には、決算期や棚卸し、観光業など季節的な要因が挙げられる。

時間外労働を規制するものとしては、法的な措置での規制と使用者に対する罰則として割増率を高くすることで、時間外労働を手控えることを期待する方法がある。この時間外労働の規制は、失業率の高い国々で厳しい措置が取られている。そこには、時間外労働を増やすことは、現に失業している者の雇用機会を奪うことになるとの考え方が背景にある。

一般的に、一人の失業者に雇用の場を与えることは、二重のプラスになるとの考え方がある。失業者は、雇用保険を受給するだけで、雇用保険金の拠出はしない、ここに二重のマイナスが生まれる。それが、職を得ることで、雇用保険を給付する必要はなくなり、保険金を納めるとなると二重のプラスになるという理解だ。

労働時間の適正化を進め、時間外労働を規制することで、雇用の確保と働き過ぎの労働者にゆとりをもたらすという意識改革が今こそ求められているといえる。それが社会の進歩というものではなかろうか。

【飯田康夫労働ジャーナリスト前日本労働ペンクラブ代表】