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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2012年11月)そろそろ労働需給関連全体の仕組みと法の見直しも必要な時期ではないですか

過日「第1回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」(10/17)を傍聴する機会を得ました。

この研究会の様子は、アドバンスニュースや、出井智将氏ブログなど様々なところで取り上げられていますが、当日配布された資料によれば、来夏を目途に調査ヒアリングなどの実施も行って研究成果のまとめがなされる模様です。

第1回目ということで各委員からの発言があったのですが、一番印象に残ったのは、小野晶子委員(労働政策研究・研修機構研究員)の「労働者派遣は、労働市場は大きく変化したのに制度は古いままで、成人がツギハギだらけの子供服を着たままのようだ。」という指摘でした。

的を射たこのコメントを聞いて思いましたのは、「実はこの指摘は労働者派遣制度に限らず、21世紀になって十数年経とうとしている現在の日本の職業安定法を中心とした労働力需給調整制度全体に言えるのではないか。」ということです。

労働者派遣法が、昭和22年に制定された職業安定法で原則禁止とされた「労働者供給事業」についての定めから、その例外として切り取ったものという見方にはさほど異論はないと思います。この条項が、GHQ主導の下戦前の日本の労働に関する制度が前近代的という指摘を背景として行われたという研究は、多くの方々によって解説されています。

しかし「戦後」70年近く経過しようという今日、戦後の日本社会の「民主化」に貢献したという評価があったとしても、外部労働市場がそれなりに大きく育ってきたにもかかわらず、当時の社会の前提そのままに敗戦直後に制定されたその制度を、かたくなに守り続けることが有効だとはとても思えません。

労働組合の組織率(推定)が年々低下し、平成15年には2割を切るに至っている現実と、個別労働紛争の増加の状況労働審判制度の利用状況を併せ見ると、今回の改正派遣法を巡っての論議の中で「派遣で働くことより直接雇用で働くことのほうが良いのでは」と聞こえる主張には、労働者保護を現実的に担保する観点からはとても無条件に肯定することはできないのです。

労働裁判の判例集などを読むと、「この国は解雇規制が厳しいなぁ」という気持ちにもなるのですが、一方で労働政策研究・研修機構(JILPT)による『日本の雇用終了─労働局あっせん事例から』(2012年4月/濱口桂一郎 氏執筆)に目を通すと、この国の多くの中小企業では、極論すれば事実であるかどうか疑わしい「経営不振」と言う理由を挙げるだけで極めて簡単に解雇が行われている事例に驚愕してしまいます。20世紀の後半には、労働組合が一定程度は無体な処遇を受けた労働者の保護に力を発揮してきましたし、今もその努力は続けられているとは思いますが、これまでの派遣法が「常用代替防止(=正社員組合員の職場を守る)」ことに主眼を置いてきた(今回の改正でもその要素は払拭しきれてはいませんが)ことを見ると、連合をはじめとする労働組合が、正社員組合員だけでなく雇用形態の別なく個々の労働者を守ることができるよう変身しきらないと(一部その努力は始められていますが)、その社会的機能には限界があると思わざるをえません。

今回の派遣法改正では「日雇い派遣の禁止」が盛り込まれたわけですが、単純に「日雇い派遣は悪くて、日雇い紹介の直接雇用なら良い。」とはとても思えません。上述の労働局あっせん事例に垣間見られるような雇用コンプライアンスのない企業の直接雇用に「日雇労働の労務管理」をまかせることと、「適正な許可制度で管理され、業界自主規制も充分な人材派遣会社や人材ビジネス会社(が実現できれば)」の雇用により就業管理をさせることと、どちらが日本の社会にとって有益なのか、充分に考察することが重要だと思います。

企業(雇用主)の人材需要に応える民間の人材サービス(労働需給調整業)は、人材派遣のみでなく、職業紹介、請負業務委託、求人情報提供など様々なビジネスモデルによって行われています(人材サービス産業協議会)。

誤解を恐れず申し上げれば、これらの「人材ビジネス」は、戦後ずっと「庶民の知恵と官僚の知恵」の合作として、現実には「産業や家庭の人材需要に応えて、必要なマンパワーを提供する」という広義の「労働者供給」を実現してきたのではないかと思います。

反復継続的職業紹介の一部の実態や、行政指導対象となった悪質な請負事業者に見られる「多重派遣的労働者確保」手法を見ると、形式的には触法と思うものの、一体誰が被害者なのか、国民・労働者がどのような迷惑をこうむっているのか、そろそろこの「労働者供給禁止」そのものを俎上に議論検証すべき時が来ているのではないか、などの想いが脳裏をかすめてしまうのです。

もちろん人材ビジネス事業者の自主規制が正しく充分に実現しているかといえば、まだまだ十分とは言い切れないと思います。一方で法的・行政的規制もここ10年ほどの派遣業の取締まりを見ていると、首をかしげたくなる事例も報告されていますし、個別雇用主への取締まりを担うはずの、労働基準監督官の数を国際比較して考えると、不心得な雇用主を充分に監督できる状況であるかどうか疑問も生じます。

従って現実的な選択肢は、「悪質な人材ビジネス事業者を淘汰し、良質な(業界自主管理・行政監督可能な数の)民間事業者を育成して、多様な形態の雇用の需給調整機能を担わせる。労働者供給事業も検討の例外としない。」ということではないかと考えるのです。

もちろん、労働人口の3%しか占めない派遣労働者についての制度といえども、その仕組みを考える時、それはなかんずく「非正社員」や「非組合員」を巡っての考察につながることであり、更には表裏一体としての「正規雇用」のありかた、就業のあり方、就職転職のあり方について考察することにつながるという観点はとても大事だと思います。これからもこの「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」をはじめとした研究会や労政審議会を見守っていきたいと考えていますが、やはりおおもとの「労働者供給禁止」の再検証の必要性にたどり着かざるを得ないと思っています。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】