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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2012年05月 その2)連合は1,000万人組織めざし、存在感を高めよ

いま、国民の目線に「労働組合」という名の組織は、どう映っているのだろうか。そこには、労組の存在は知っているが、何をやっているのか知らない。労組って必要なの?

組合費を取られるだけで、何を守ってくれるの?賃金も雇用も組織すら守れない労組って存在感があるの?-といった厳しい目がある。その一方で、東日本大震災の被災地ボランティアでは、民間組織として最大級の動員力を発揮、抜群の行動力を展開してきた実績がある。連合の政策・制度の提言を読み解くと、働く側・庶民の代弁者としての役割をよく発揮しているではないか。政権や経営者団体に、厳しくものを言える組織として存在感はある、ただ、発信力が弱いがよくやっている、など多様な声が聞かれる。

働く立場にある人たちからの声も同様に多様である。賃金改善だけでなく、働くことと休息・休暇の取得などワークライフバランスのあり様、過労死やパワハラ・精神障害などをめぐるメンタルヘルスへの対応、いつ降りかかってくるか知れないリストラという名の恐怖、不安定雇用から如何にして抜け出すかなど、まさに様々な声が寄せられる。連合の労働相談ダイヤルには、正社員だけでなく、非正規と呼ばれる不安定雇用に喘ぐ働く人たちから、解雇・退職強要・契約打ち切りをはじめ、セクハラ・嫌がらせ、就業規則・雇用契約違反、賃金未払いなど理不尽な事柄をめぐる相談が後を絶たない。

それらの声を集約し、政策課題に反映させ、働く人に安心・安全・安定をもたらす機能を発揮するのが組織力を誇る労組の結集に他ならない。労組の中央組織(ナショナルセンター)である連合が、終戦から昭和の時代、四分五裂を繰り返してきた旧総評・同盟・中立労連・新産別に無所属の労組が、平成に入ってイデオロギーの虚妄から解き放たれ一堂に集い、悲願の労働戦線統一を成し遂げ結成されたのが1989年のこと。

それから22年強。連合はどこまで成長したのか。否、どこまで退潮したというのか。結成当時のリーダーたちの労戦統一へ向けたあの熱い討議、労働運動に賭ける熱意、労働運動にロマンを求め、働く側の代表として、庶民感覚・人材育成を大事にしてきた運動が果たして実っているのだろうか。同時に結成当時800万人を誇った組織もいまでは、675万人の組織である。実に125万人も減らしているのだ。賃上げ交渉も成果は今一つ。会社は、正社員が減少し、非正規労働者の比率が高まる一方だ。これでは冒頭に触れたように、賃金も雇用も、自らの力を示す組織力も削がれる一方で、何を守ったのといえるのか。

労働運動の存在は、健全な企業経営上も必要不可欠な組織なのである。それだけに、連合に賭ける期待は大きい。いま一度、大きくチャレンジして欲しいのが組織力を高めること-それは連合組合員を早い段階で800万人に回復させ、近い将来1,000万連合を実現し、発言力を強めることなのだ。経営側に劣らず、バランス感覚の良い、先見性や決断力、国際的識見をもった人材を育て、活用することで、経営側との均衡のとれた力関係が維持され、日本の再生にも大きく寄与すると考えられるからである。

いま、第一線で働く人は約5,400万人だ。だが、労働組合に組織されている人(組合に加入する、加入できる)は、いまや少数派である。平成23年版「労働組合基礎調査」によると、組合員数は、過去何とか維持してきた1,000万人台を初めて割り込み、996万人である。雇用者総数に占める割合は20%を切って、18%中ほどだ。これでは働く者の組織の代表としては、力不足である。

終戦後、GHQの民主化政策で、労働組合活動が合法化され、一気に労組の結成がすすみ、昭和24年(1949年)には推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は55.8%を記録したものだった。それが、翌25年(総評結成の年)には、46.2%台へ落ち込み、さらにその3年後の28年に36.3%と30%台に。その後は、長期低落の一途である。それでも組織率30%台を昭和57年までの30年間、維持してきた。それが昭和58年に29.7%を記録、その後、平成14年の20.2%まで20年間維持し、同15年には19.6%へとダウン。その後は18%台だ。

賃金を得て働いている人5,400万のうち、4,400万人という大多数は、労働組合の外におかれたままである。労働組合の保護が受けられ環境にあるといっていい。働く人の総意を得るためにも、組合に組織されてない、この大多数の層に、如何にして魅力ある行動・発言で組合に呼び込むことができるのか。1000万連合の実現には、労組リーダーの覚悟と決断、行動力が求められる。容易でないことも分かっていよう。だが、この重い課題にチャレンジするだけの価値があるのも事実。言い訳は簡単だ。1000万連合実現プランを書くことも可能だ。問題は、雇用不安に悩む非正規労働者に、どのような熱いメッセージを届けられるのか。組合にどれだけの魅力を、ロマンを感じ、働き手が呼応するか、パートさんたち1,800万人という非正規労働者や中小企業に働く人たちがこぞって労組に入りたくなるような行動をどう示すことができるのか、が問われている。

働く側の声をあらゆる場面で反映させるためにも、労組の組織力強化は大事な視点である。働く側の人間がいて、はじめて会社という組織が動くのだ。政治も経済も社会も働き手がいて成り立つ。だが、昨今のように雇用破壊がすすむと、それらの歯車が狂いかねない。勤勉で、政治や経営に良き理解者であり、良き監視役である労組が果たす役割、それは組織力を背景として社会的発言力を強めることにある。

1000万連合の実現で、存在感を高める取り組みに期待が掛かる。だが、組織人員を増やすという課題は、何とも重くて難題である。では、なぜ組織力が弱体化したのか。そのなぜを問いたい。そこにヒントの幾つかが隠されているからだ。確かに、働く環境は、激変している。その中で、正社員の採用ワクは減少し、非正規労働者への置き換えが続発、組織強化のアクションを起こしても、組合員数は減る方が多いという現実。多くの職場で、企業の分社化や再編、海外移住や時には企業閉鎖もー。非正規労働者への組織化の取り組みの遅れ、若者の組合離れ、無関心層の増加、個別紛争時の金銭解決手段による組合加入意識の低下、中小・地場産業や多様化する流通・サービス産業分野での組織化の遅れなど、挙げれば切りがない。

働く1人ひとりが個別に労働紛争に関わるケースが目立つが、経営側との力のバランスでは、遥かに劣る。その結果は泣き寝入りということになる。いま求められているのは、集団的労使関係の必要性であり、再構築なのだ。そのためにも、1,000万連合を目指し、労働組合の存在意義を見直し、多彩な手段で組合づくりをすすめてほしいものだ。手近なところでは、親会社に組合がある場合、子会社や関連会社、あるいは下請企業、持ち株会社での組織拡大がある。

今日でも、経営サイドには労組嫌いがある。労組活動は憲法で保障されていることを忘れたかのような言動を見聞することもある。だが、健全な労組が企業内に育つことで、視野の広い人材が育つという現実がある。労組が組織化されていない1,000人規模の某企業の経営トップが「経営陣に刺激を与え、管理職への登用に当たっても労組で苦労し、経営の姿を勉強してきた人材を抜擢したい。そのためにも労組は必要だ」という極めて日本的発想の声にも耳を傾けたいものである。ただ、経営主導の労組結成は、不当労働行為の誹りを免れないので、決してあってはならないのだがー。

労組の役割は、とかく目が行き届かない弱者に熱い心を示し、不条理とは徹底対峙することで、労組の存在感は高まるというものだ。連合は、この5月31日に仙台で開く中央委員会で「労働運動の更なる発展をめざし、連合本部・構成組織・地方連合会の総力を結集し、組織拡大の道のりを切り拓こう」のスローガンのもと、「1000万連合実現プラン」(仮称)を議題として特別報告、中長期的な方針を確認するという。

健全な労組の存在は、企業経営上も重要なパートナーであることを再確認したいものである。

【飯田康夫労働ジャーナリスト日本労働ペンクラブ前代表】