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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2012年05月)改正派遣法と‘年越し派遣村’に想う

4月25日に開催された労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会にて、「政令26業務」について論議されたとの情報を得て、てっきり3月28日に可決成立し4月6日に公布された改正派遣法についての各論論議が始まるのかと思いました。実際に当日論議されたのは、派遣法改正に伴うものではなく、「東日本大震災の復旧・復興でニーズが増加していることなどを理由とする業務の追加」で、現在の15号業務の「建設設備運転、点検、整備」の中に、「非破壊検査用の機器の運転、点検、整備」、「水道施設」、「下水道」、「一般廃棄物処理施設」の管理に関する技術上の業務を含めることとされたようです。報じられているところによれば、席上、改正労働者派遣法は「10月1日施行」で作業が進められているとの発言もあったようですし、いわゆる「専門26業務の見直し協議」について施行後速やかに協議に入る準備を整えているところのようです。

改正派遣法の各具体論や政令通達が整備されていく過程で、どのような論議がなされるのか注目することではありますが、今回の法改正についての、使用者側労働側双方、また一般社団法人日本人材派遣協会や一般社団法人日本生産技能労務協会などの業界当事者の方々からのコメントは、それぞれの視点からではありますが「一定の進展はあったが、課題はまだまだ残っている」ということのように聞こえます。

改めて考えてみますと、ここ約15年間の「規制緩和」とその結果の現在の問題点を教訓化し、指弾されたような事項の再発を防止して、健全な人材ビジネスの運営によって企業の人材確保と人材の再就職転職・能力発揮の職場確保のより円滑化を目指していくことが、フレキシキュリティある転職の場をより確実なものにすることに繋がり、それがよりよい社会の実現、経済の活性化につながるという視点を忘れてはいけないと思っています。

なぜ「派遣切り」という言葉が新聞紙面を踊り、「年越し派遣村」という事象が起きてしまったのかの検証はもう過去のことになってしまったわけではないと思います。人材派遣業にいらっしゃる方々の中で、「派遣村に集まった人はほとんどがホームレス浮浪者で、派遣業界は関係ない。あれはマスコミのフレームアップだ。」という発言を耳にすることがあります。

もちろん業界を代表する意見表明ではないでしょうし、私も2009年1月に日比谷公園の年越し派遣村の現場に行き自分の眼で見ましたが、確かに派遣労働から解雇された様子の人達ではない方々が多くいらっしゃったものの、全くいなかったかというとそんなことは決してなく、また何人かの村人の方と話したところ、「派遣」のみでなく、臨時雇用、工場の製造業務の孫請をしていた有期(期間)労働者で雇い止めされた方が多くいらっしゃる印象を私も受けました。がしかし、だからと言って「労働者派遣」の仕組みの中で、リーマンショック以降の経済活動の低迷により派遣契約が解除され、その結果失業し、製造アウトソーシング系人材会社の勤務先に近い寮に住んでいた方がその住まいも追い出されたことが全くのフレームアップだったといえるのでしょうか。

日経ビジネスの報道によれば、村民登録した499人のうち、「“派遣切り”で住居も仕事もなくなった」方は20.6%、「派遣切りではないが不況によって失業」が19.8%、派遣村を訪れる前日に「野宿していた」方が57.9%だったということでした。

そうすると、「事実無痕」とは言えないわけで、「2割も派遣契約を打ち切られた方がいた」「有期雇用等の雇い止めなどを含めれば派遣村の村民の4割が、不況の中で解雇・雇い止めされた方々で、その中には派遣会社が雇用主だった方もいた」という見方もできるわけで、この点を忘れてはならないと思います。

更には、派遣の問題点を論議する際、業界において過去、派遣業法違反だけでなく、多くの労災隠しや、労働基準法違反が指摘されたことを忘れてはならないと思います。
もちろん、多くの業界の方々は、過去のこういった不祥事についてこれからどう再発防止策を策定運営していくのか腐心されていることと思いますし、同時に、人材ビジネスにまつわる理不尽とも思える規制を撤廃していくことは必要と私も考えます。

ただ、その際には、なぜそのような規制が敷かれたかの経緯背景をよく理解し、企業の活性化と人材の自分を活かせる職場への出会いにかかわるビジネスとして、コンプライアンス高く「適切な自主規制」と「従事者の知識・質の向上」を求めたいものです。

もちろん、その点では私が関わる職業紹介事業者の団体(こちらは職業安定法による職業「紹介」を扱う事業者の団体)も同様だと自戒し、派遣業界にこの間起きた事象は、決して「対岸の火事」ではなく、「他山の石」としてとらえるべきだと考えています。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】