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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2012年03月 その4)2012年春闘をみる-2

春季の労使交渉は、最大のヤマ場である主要企業の一斉回答が終わった。結果は、本年も定昇維持が中心で、一時金についてはむしろ前年実績を下回るような状況となった。一部企業では、業績不振から、定昇の凍結や賃金カットに及んだところもある。現状では、どうしても賃上げよりは雇用維持を重視せざるをえないという声も聞かれる。世界経済の不透明さと震災やタイ水害の後遺症など厳しい状況を反映した結果だろう。まだ、他の業種や中小企業などの交渉は続くが、そちらも厳しい状況は変わらない。

年々、業種・企業ごとの妥結状況のバラツキは大きくなっており、「横並び」決着という春闘の姿は一段と遠退いた感がある。たしかに、正社員という面で見れば、そもそも賃金制度の枠組み自体が大きく変化している中で、ベアと定昇といった従来の枠組みで議論することにも限界があるだろう。しかし、賃金制度に能力・成果主義的傾向が強くなる中では、賃金の格差が開くとともに、生計費の動向も直接には反映し難くなってきた。また、非正社員が4割近くに増大している中では、もはや、これらも含めずして従業員の問題を論じられない。

別の見方をすれば、社会的な形で行う労使交渉の考え方自体が変化してきたともいえる。前者では、もっとミニマムの基準に焦点を合わせた議論、後者では、正社員との処遇バランスの議論などが必要とされよう。社会保障も重要だ。マスコミに登場する機会の少なくなった春闘とはいえ、パートや非正規問題、あるいは高齢者雇用の問題など、労使にとっての重要課題を扱っていることにもっと眼を向けるべきではないか。

現に、まだ集計結果はまとまらないが、パート等の時間給引き上げは今春闘での主要課題の一つだ。最低賃金の問題も、これまでとは異なり、春季労使交渉の表舞台に出た感がある。今回の集中回答においても、電機で154,500円と500円引き上げられた(要求は1,000円)が、企業内最賃だけでなく今後の法定最賃の論議も含め、いまや全体の4割近い非正社員の賃金決定に対する関心を高めるべきだろう。また、増大している非正規労働者の活用のありようについて、例えば「派遣・請負労働者等の受け入れや活用の適正化」(電機連合)を労使協議のテーブルに載せて行こうという取り組みも注目される。このほか、今国会では、労働者派遣法改正案も当初の改正内容を大きく削除した形で修正され審議中である。高齢者雇用安定法も審議に入ったが、継続雇用者の多くは、有期労働契約の取り扱いとなる。パートに対する社会保険の適用拡大という問題も加わるなど社会保障領域も労使に大きく関わる。

新しい時代の春闘とは、こうした非正社員の問題を含め、社会全体としての雇用と賃金のありようについて、自らの企業だけでなく広い立場で総点検する場として考えるべきだろう。年金など社会保障の問題も無関係ではない。これらを通じて、労働側にとっても、また経営側にとっても、この1年間にわたる日本の現場力の源泉である「労働」を力強くしていくための作業だという認識を持ちたいものだ。

【北浦正行:公益財団法人日本生産性本部参事】