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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2012年03月)2012年春闘をみる-1

あの大震災から1年を迎える。様々な意味で、その日から経済も社会も変わったような気がする。国会での予算論議もはじまったが、復興への道のりはまだ遠い。震災後の再生を目指すことはわが国の最優先課題だが、こうした中ではじまった今年の春闘において、労使には、是非この震災をどう受け止めるかをまず論議してもらいたいと思う。

復旧・復興にむけての取り組みはもちろん、サプライチェーンの断絶によって、いかに企業が多くの「絆」によって支えられているかを改めて実感したという声も多い。また、昨年夏の電力不足対策は、操業日・時の変更や出勤時間の繰上げなど、従来のワークスタイルを大きく変えるような取り組みも目立った。先ごろ発表された「ワーク・ライフ・バランスと質の高い社会を考える会」報告(日本生産性本部が事務局)では、ワーク・ライフ・バランスの視点で、日頃の働き方や生活のありようを見直していくことの重要性を指摘している。連合の2012春季生活闘争方針においても、「仕事と生活の調和」が重点項目となっている。総じて育児との両立問題が中心となりがちだが、従業員の生活全般あるいは、企業内だけでなく地域社会との「絆」の視野でもっと広く考えていくべきだろう。

ところで、肝心の賃金要求はどうかとみると、あまりマスコミの話題になっていない。主要な産業・企業では、ベアを見送り「賃金体系の維持」が中心といったところが多いせいだろう。賞与・一時金要求のほうで頑張るという労組も多いが、これもデジタル方式で大枠が決まったり、別途交渉で行ったりするなど、大きな焦点とはなりにくい。一方、ベアはおろか定昇のあり方も見直すべきというのが経営側の主張だ。労組の反発も強いが、賃金制度の根本にも関わるだけに春季の交渉の中で解決するのは難しい問題だ。

考えてみれば、連合も産別も、賃金要求については、段々統一基準を出しにくくなってきており、企業レベルでの交渉に委ねられるようになってきたのが最近の傾向である。そのため、横断的な労使交渉の機会という春闘の意味合いも変質してきたともいえるのではないか。もちろん、初任給などとの連動性もある最低賃金や、市場で決定される要素が強いパートや非正規の賃金については、「相場」の形成に重要な役割を持つっており、今年の交渉でもひとつの注目点だ。

しかし、正社員の賃金については、生活給的な色彩からは徐々に仕事給的色彩が濃くなれば、横断的な相場形成の原理も変わってこざるを得ないだろう。職種別の賃金要求の考え方も出てくるようになったが、まだ大きな流れとはなっていない。春季の労使交渉の場が賃金という基本的な労働条件の場として有効に機能していくためには、産業や企業の枠を超えた職種別の賃金相場のメルクマールを考えることも今後の課題ではないか。

労働力調査によっても、非正規の従業員は更に増加傾向にあり、35%を超えたことが報道されている。重要なことは、こうした労働市場の変化の中で、企業内で決まる労働条件と市場で決まる労働条件とが並立していく時代になってきたことだ。その両方を見据え、しかも両者の「均衡」と「公平性」を考えることも労使の議論の範疇であってほしい。

【北浦正行:公益財団法人日本生産性本部参事】