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今月のテーマ(2012年02月)精神障害の労災認定基準を精神障害の予防に役立てられないか

労災保険の給付に関する「心理的負荷による精神障害の認定基準」が新たに定められた。

これまでの「心理的負荷による精神障害の業務上外に係る判断指針」をさらに精緻にしたもので、心理的負荷が極度のものとして、①生死にかかわるような病気やケガをした、②他人を死亡させるなどした、③強姦などのセクハラを受けた、を挙げ、極度の長時間労働として、1月に160時間(3週間に120時間)を超える時間外労働を挙げている。
さらに、心理的負荷を生じさせる出来事についても、その心理的負荷の程度を強、中、弱に区分して、例えば、強とされるものの中には、長時間労働についていえば、2月間に1月当たり120時間以上の時間外労働を行った、3月間に1月当たり100時間以上の時間外労働を行った、を挙げ、嫌がらせ、いじめでは、部下に対する上司の言動の中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、執拗に行われた、などを挙げるなど、従来に増して明確になっている。

そして、認定基準に示された心理的負荷を生じさせる出来事は36項目に及んでいる。
これら36項目の認定基準に示された心理的負荷を生じさせる出来事は、少なくとも精神障害を発症させるおそれのある危険な行為、有害な行為であることが医学的、法律的に認められたことになる。

そうであるなら、それを精神障害の発症の予防につなげられないものであろうか。
確かに、精神障害につながるおそれのある状況を根本的になくすということは、現実にはなかなか難しいと考えられる。

しかし、どのような出来事が心理的負荷を生じさせるのかを関係者が認識した上で仕事を行えば、少なくとも精神障害の発症の抑制にはつながるのではないだろうか。
この点労働安全衛生法には、安全衛生教育という制度がある。

雇い入れた時や作業内容が変った時の安全衛生教育には「業務に関し発生のおそれのある疾病の原因や予防」という項目がある。この業務に関し発生のおそれのある疾病として精神障害を位置づけ、その原因として認定基準に示された心理的負荷を生じさせる出来事36項目を位置づけ、その予防として、本人がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減するあるいはこれに対処することを内容とする「セルフケア」を教育するということはできないのであろうか。

また、精神障害の発症の予防には管理者が大きな役割を果たすことを考えると、いわゆる職長などの安全衛生教育について、業種の限定をやめ、その教育項目にある労働者に対する指導監督の方法に関することの中に、認定基準に示された心理的負荷を生じさせる出来事36項目に関することや管理監督者が、心の健康に関して職場環境などの改善や労働者に対する相談対応を行うことを内容とする「ラインによるケア」を教育するということは考えられないだろうか。

また、職長などの安全衛生教育が安全衛生に関する事項を広く対象としていることを考えると、例えば、衛生管理者免許について業種によって違いを設けているように、職長などの安全衛生教育についても業種によって教育する項目に違いを設けることも考えられるのではないだろうか。

いずれにしても、うつ病をはじめとする精神障害の発症が職場で大きな問題となっている中では、せっかく策定された認定基準を単に発症後の事後措置である労災給付に活用するだけではなく、その発症の予防に役立てるべきではないだろうか。

【木村大樹国際産業労働調査研究センター代表】