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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2012年01月 その2)新春に問う “人間の尊厳”こそ、労働の原点だ

2012年(平成24年)の幕が開いた。輝かしく、明日に希望の持てる社会が展望できる年であることを願うばかりである。同時に、あらゆる場面で、人が大切にされる社会、人に優しい社会づくりを目指したいものである。

とはいえ、昨年から引き続いて、重くて、解決への道筋が読みにくい困難な諸課題が山積だ。東日本大震災後の復興・再生は、最優先課題だが、いまだ先行きの見通しは、まったく読めない。

福島第一原発事故の収拾見通しも霧の中。超円高の行方、欧州発の債務危機がこれからどういう形で日本経済や働く人たちに影響を及ぼしてくるのかなど―が山積しているだけに、いかに先見性、決断力を持って挑戦し、打開の道を探るのか。それぞれの立場にあるリーダーの責任は、いつにも増して重い。

昨年3月11日の東日本大震災は、日本人の心と身体に大きな痛手を与えた。が、その一方で、“絆”、“助け合い”という人間本来の姿を蘇らせることとなった。それは、世界からも注目され、日本人の精神・心・姿が、改めて世界に認識されたかは、いうまでもない。

同時に、忘れてはならないことがある。それは、大震災が日本人に突きつけたものだ。とかく希薄だった絆とか助け合いの心をしっかり認識しろ、という戒めである。大震災から日本人が反省すべき教訓を改めて教えられたともいえる。それは、家庭でも、地域社会でも、会社の中でも、これまであまり意識しないか、厳しい競争やグローバル化の荒波にもまれ、敢えて、絆を否定するような、あるいは絆なんて関係ないよといった、無関心層がはびこり、日本社会を蝕んでいたことに、大きな警鐘を鳴らすきっかけになったことではなかろうか。

2012年は、東日本大震災からの復興・再生に向け、いかに立ち直るかが問われている。まさに日本人が試されているのだ。その過程や方向が明確に示されるか否かは、日本社会の明日、10年後、50年後の姿を描ききれるのかに掛かっている。

日本人の間に、大震災を契機に、改めて“絆”に目覚めさせられたともいえるが、それは一時的なものであってはならない。当然のこととして、ご都合主義的な絆であってはならない。この10か月を振り返ってみて、ボランティアの力は大きく、資金カンパ、物資など支援の輪の広がり、大切さはいうまでもないが、それらが一時的な支援・援助であっては、本来の“絆”とはいえない。長く継続した助け合いの輪の広がりがあって、はじめて認められるものだ。そのことを肝に銘じたいものである。

翻って、いま改めて会社組織に目をやってみると、グローバル化だ、厳しい競争社会を背景に、日本の貴重な財産である労働力という名の人材があまりにも、ないがしろに扱われてはいないだろうか。そこには“絆”とか“助け合い”といった姿はない。いじめや嫌がらせがはびこり、メンタルヘルス症候群に悩む働き手が急増し、不安定な非正規雇用者の割合が高まり、しかも安易なリストラが罷り通るなど、労働の現場が破壊し尽くされようとしている現実から目を逸らしてはならない。そこには、広い意味で雇用に関わるあらゆる問題が包含され、多くの警鐘が鳴らされているにも関わらず、人材(人財)を粗末に扱う姿勢がどこかに潜んではいないだろうか。

2012年.いま求められるのは、“働きがいのある、人間らしい仕事”と、“人間の尊厳”、“労働の尊厳”ではなかろうか。労働は商品ではないというILOの崇高な理念を、いま一度再確認したい。

日本の貴重な財産である人材・人財が、今日まともに機能しているのだろうか。働き方で悩んでいると労働相談が増え、労災事案にみるように働き過ぎからくる過労死や精神障害を発症し、自殺に追い込まれる現実に、労使のリーダーはどう答えるのだろうか。

正社員も非正規の人たちも、その働き方をみていると、将来への安心、希望などをもって、伸び伸びと充実した日々を過ごしているのだろうか。その姿が見えてこないようで、気がかりだ。これではグローバル化だといっても、それに対応できる人財が育たなくては、話にならない。

ILOが発信する“ディーセントワーク”(働きがいのある人間らしい仕事)の精神を、この1年、すべての職場に徹底してほしいものだ。

同時に、“人間の尊厳”、“労働の尊厳”こそ、労働の原点だという視点を持ちたい。人間の尊厳が軽視され、労働の尊厳が弄ばれるようなことがあってはならない。日本の会社を文字どおり支えてきた財産=人財を育て、活用する姿勢が、昨今欠けてはいないだろうか。いまこそ、しっかり雇用を守るという確固とした経営姿勢が求められる。胸に手を当て、会社が今日あるのは、人財に支えられてきたからであることを肝に銘じたい。安易なリストラは、人間の尊厳を弄んだものと言われても、申し開きはできない。いかにして人財を包摂し、働き手が安心して生活が送れるような社会を創ることが労使の責務である。

再度、確認したい。“人間の尊厳”を軽視したり、否定する、安易に弄ぶような行動は、厳に慎みたい。“人間の尊厳”を最優先する経営姿勢こそが、会社の明日を約束するといっても過言ではない。

【飯田康夫労働ジャーナリスト日本労働ペンクラブ前代表】