労働あ・ら・かると
10月1日の内定式に出席した後も就職活動を続けるみなさんへ
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
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〇来春卒業予定者を対象とした10月1日の内定式の報道が、新聞やテレビで多く取り上げられていました。Web上を含め、様々に飛び交う情報の中には「内定式後、承諾書提出後でも約3割の学生が「就活リトライ(継続)」を行っているというものも見受けられます。
〇司法試験の最終発表をはじめ、10月1日以降に合否がわかる試験に挑戦中で、合格したら法曹の道を歩む計画を立てている人もいるでしょう。また、合格した資格で独立する計画がある人や、その資格をより評価している環境の企業に就職したい場合もあるでしょう。
〇一旦内定を受諾した(ということは始期付解約権留保付労働契約を締結した)のですから、求人企業はこの約束を守って入社してほしいと思っていることは忘れないでください。その上で、自分自身の志向や将来の目標を実現するために就職活動を続けることが正当であると考えるのであれば、内定後も就職活動を続けることは非難されることではありません。
〇「職業選択の自由」という素晴らしい基本的人権が日本国憲法には定められているのですから。
〇しかし、そうだとしても、この「職業選択の自由」という権利を主張するにあたっては、入社するまでの狭い視野で迷うのではなく、内定企業入社後もずっと持ち続けるべきではないでしょうか。発想としては「内定を断るかどうか」だけではなく、働きだしてからも「職業選択の自由」は常に念頭においてほしいのです。
〇改めてこの「職業選択の自由」を考えてみてください。
〇一定の試験に合格して資格を持たなければ、選択できない職業も、医師、看護師、弁護士などの専門職をはじめ多数あることはご存知でしょう。
〇企業の側にも、差別につながらない公正採用選考の上で、どのような人材を採用し、誰と共に働き、事業を営むのかという「採用の自由」や「営業の自由」があることも忘れてはなりません。
〇社会全体に適用される法規制もある中で、それぞれの自由が交わるところで成立したのが、「内定」という契約関係(約束)です。
〇「どのように雇うのか/どのように働くのかの約束」は、案外固定的なものではありません。昭和の時代にビジネス誌は「企業の寿命30年」(有力企業として地位を維持できる期間は平均約30年)という記事を掲載したこともありました。
〇みなさんが内定を得て就職しようとしている企業の、従業員の能力適性への期待内容がいつまでも同じとは限りません。みなさん自身も、これから経験を積み、その能力を磨いて成長していくでしょう。
〇企業が従業員に求めるものと、従業員が仕事に求めるものとが、永遠に一致し続けるとは限らないという現実にも目を向けてください。
〇厳しいことを申し上げるようですが、みなさんは何年か前にコロナ禍の経験をしたはずです。あのようなパンデミックに耐え切れずに倒産してしまった企業もありました。さらに、世界各地で紛争や戦争が絶えない今、先行きを読むことはますます難しくなっています。
〇そんな中で、ご自身の社会人生活をスタートしようとしているのですから、「将来を見据えて」と申し上げても、「今は何より、納得して就職することが最優先だ」という気持ちや、「もっと『いい』就職先があるかもしれない」という思いの間で揺れているみなさんには、筆者の言葉も響かないのかもしれません。
〇ご紹介したいのは、昨年の秋に内定を得た先輩(現在は社会人半年目)に取材をする機会が最近あり、そのときに聞くことができたエピソードです。
〇その1人が話してくれたのは、内定承諾書を提出しに行った時、その企業の採用担当者から「他に就職活動をしているのですか?」と優しく率直に質問されたという話です。彼はその担当者の話し方に好感を持ち、率直に「はいっ。ないわけではありません。でも御社に魅力を感じていないわけでもありません。迷っているのが正直なところです」と答えたそうです。
〇そうしたらその担当者は「わかりました」と言い、「もし第一希望に合格をしたら、なるべく早くご連絡をください。私共にも、人員配置の計画がありますから」と言ってくれたそうです。その彼はその考え方、素直さにかえって心を動かされたと話してくれました。
〇さらにその採用担当者は「当社には経験者採用も実施していますので、君が成長したり資格を取ったりした後、もしご縁があって当社の募集情報を見かけたら応募してください」と言ってくれたそうです。
〇取材したみなさんの先輩は「なんと心の広い採用担当者かとも思いましたし、そういった人材に対する考え方にゆとりのある企業にとても魅力を感じました。今でもそう思っています」と、にこやかに語ってくれました。
〇話を戻せば、みなさんには大事な職業選択の自由という基本的人権があるわけではありますけれども、その自由も、ほかの人に迷惑をかけてまで主張していいのかというと、これは社会の常識として、いけないことだろうと思います。
〇ということは、断られる側の企業が、1人や2人辞めてもいいやという採用の仕方をしているのか、あなたに将来プランを面接試験の中でも示して、「ぜひあなたに来てほしい」と期待しているのかによって、こちらの対応や誠実さの示し方も変わってくるはずです。
〇もし内定の申し出を受けて断る時でも、生意気な言い方かもしれませんが、「将来またご縁があったらば、この失礼をお許しいただきご検討ください」位のそんなセリフで断ることがあってもよいだろうと思います。それを受け止められないような会社だったら、こちらから願い下げでもいいでしょう。
〇内定を辞退するということは、一旦した約束を反故にするということですから、そこにはマナーが必要だということは忘れないでほしいと思います。
〇人それぞれの考え方ではありますが、何社にも入社承諾書を提出し、最終的に入社する1社以外には、すべてに対して本心を偽って嘘をついて社会に出るという現実があることも、否定できません。
〇しかし、それが本当に良かったかどうか、いつも心に刻んで欲しいと思います。
〇社会人として必要なことは。社内外を問わず相手の立場に立ってみる力があるかどうかです。
〇企業側からすれば、あなたが来てくれることでこういう仕事をしてもらおうという考えがあるわけですから、それを3月末ギリギリになって内定辞退の連絡をする、入社日4月1日に待っていても来ないという形で蹴とばしていいのか。困った採用担当の顔も思い浮かべてください。
〇もし10月1日に内定を承諾したにもかかわらずそれを断るのなら、相手の立場に立ってみればなるべく早く辞退の連絡がほしいと思っているのではないかという想像力を働かせてください。
〇耳にタコかもしれませんが、就職はゴールではなく、スタートです。世間は狭いもの、就職活動で出会った様々な社会人との「触れあった袖」も忘れずに、そして残る学生生活での勉学の手を抜くことなく、来春無事卒業して社会人となることを願っています。
〇以上
〇(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません)

