労働あ・ら・かると
都合のいい話はキチンと選別しよう
社会保険労務士 川越雄一
〇「へぇー、だったらうちでも……」と、経営者同士が集まると同じような立場にあることから、いわゆる都合のいい話が飛び交います。同業者であればなおさらで、単に「やっているだけのこと」が、「やっていいこと、やるべきこと」のように広がります。そして、これを鵜呑みにしてモノマネ的にやってしまうので大きな問題を引き起こします。ですから、「うまい話には裏がある」の如く、自社にてキチンと選別することが必要です。
1.よくある都合のいい3つの話
〇「隣の芝生は青く見える」ともいいますが、他社で「やっていること」は良く見えたり聞こえたりするものです。経営者同士になると経営者にとって都合のいい話が、より耳に入りやすくなります。
●立派な人事評価制度で従業員がグンとやる気を出す
〇人事評価制度自体が悪いわけではありませんが、身の丈に合わないような立派な制度を、高いお金を払って構築するのはどうなのでしょうか。このようなことをビジネスとしているコンサルタントとしては、規模的にそのような制度が身の丈に合わないとわかっていても堂々と提案してくれます。
●課長にすれば労働時間の適用なし
〇昔から課長という呼称は管理職の代名詞みたいなものです。そのため、従業員を課長や部長にすれば残業代を払わなくてもいいという理屈です。もちろん、法律の要件を満たす管理監督者であれば、労働時間や休日の制限がなく残業代の支払いは不要です。こんな便利な制度があるなら、自社でも導入したくなりますが…。
●うちは国から助成金を100万円もらった
〇このような話を聞けば、自社でももらわないと損をしたような気になります。そこで、「何か助成金はないか」と、あの手この手で助成金制度を探します。不思議なもので、助成金が出るとなれば、どうでもいいような機械を買ったり、常用雇用がほしいのに有期雇用で採用したり、イマイチ納得のいかないような制度を導入してしまいやすいものです。
2.都合のいい話に潜む3つの問題
〇都合のいい話には主に3つの問題が潜んでいます。それは、たまたま問題化していないことを正しいことと勘違いし、前提条件を無視した切り取り情報の鵜呑み、そして、従業員への配慮を欠き、会社との関係が徐々に乖離(かいり)することです。
●たまたま問題化していないだけ
〇人事労務に限らず、世の中にはたまたま問題化していないだけのことが多いものです。例えば、無免許でも器用な人なら車の運転自体は可能であり、交通検問にかかるか、違反や事故を起こさない限り無免許運転という問題は表面化しないのと同じです。一番キケンなのは、悪いということを知らずに悪いことをやってしまうことです。
●前提条件無視の切り取り情報だったりする
〇会社はそれぞれに事情が違いますし、在籍する従業員と経営者の信頼関係も千差万別です。都合のいい話というのは、往々にしてたまたま上手くいったり、成功した部分だけの切り取り情報で伝わったりしやすいものです。ですから、他社から聞いた都合のいい部分だけを鵜呑みにしてもうまくいかないばかりか、失敗するのは目に見えています。
●都合のいい話も従業員にとってはどうでもいい話
〇経営者に堂々とホンネを言う従業員はいません。仮に経営者がおかしな提案をしたところで「はい」とうなずきます。これをもって「私のことを理解している、従ってくれている」と思うのは大きな勘違いだったりします。都合のいい話というのは経営者にとってであり、従業員にとっては、どうでもいい話だったりするからです。
3.都合のいい話を3つの視点で選別する
〇実しやかに伝わりやすい都合のいい話ですが、自社でも取り入れる場合は、ある程度の選別が必要です。その際の視点は、合法的なのか、自社で実行可能なのか、そして従業員はどう考えているのかです。
●合法的なのか
〇先ずは、その都合のいい話が本当に合法的なのかということです。そう都合のいい話はないわけで、多くはこの段階で選別されます。人事労務でいえば労働基準法や健康保険法などですが、「良薬は口に苦し」の如く、法律は耳に入りにくいものですし、会社に都合よくはできていないのです。しかし、ここはクリアしておかないとイザというときに通用しません。
●自社で実行可能なのか
〇次に、その都合のいい話が自社でも実行可能なのかということです。会社というのは企業規模、労使関係の安定度、財務力など各社それぞれに違います。また、経営理念・経営方針も違います。ですから、他社で「やっていること」が冷静に考えて、自社で実行可能なのか、やる意味があるのかを基準に、都合のいい話を選別します。
●従業員はどう考えているのか
〇そして、その都合のいい話を従業員はどう考えているのかということです。人事労務というのは、従業員を対象としているのでこれが一番重要です。経営者はいい話と思って取り組むも、従業員からしてみれば「社長の思い付きがまた始まった」と冷ややかだったりするからです。従業員の目は意外に的を射ているものです。
〇今日も、あちらこちらで飛び交う都合のいい話ですが、これを選別せず鵜呑みにしているととんでもないことになりかねません。

