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労働あ・ら・かると

変わる通勤風景

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

4月になると、通勤ラッシュになれない新社会人らしき人や、人事異動によって勤務地が(場合によっては住まいも)変わったとおぼしきビジネスパースン(昭和の時代にはサラリー「マン」と言っていた)が、戸惑いながら要領悪く電車や地下鉄に乗り込む光景を目にします。
世の中が変化するスピードがどんどん加速する中、思い出してみればこの通勤風景もずいぶん変わったものだと感じさせられます。

まず通勤中の読み物。昭和の痛勤ラッシュ時にはホームの駅係員が乗客を押し込んだり剝がしたりする状態の時間帯にはモノを読む余裕などありませんでしたが、混雑が緩和されると、新聞紙をタテに四つ折り八つ折にして読む風景が見られました。令和の今は紙の新聞を読んでいる姿はまず見かけませんし、紙の本を読んでいる方もあまり見ません。
先々月も同じ言い方をしましたが、「一億総活躍」に先駆けて到来した「一億総スマホ時代」なのですから、社内のほぼ全員がスマホを手にして見入っています。見ているものが新聞報道や解説なのか、SNSなのか、ゲームなのかは伺い知れません。
在宅ワークの普及によるものでしょうか、「殺人的なラッシュ」には遭遇しなくなりましたが、隙間ができた分、安全のためには片手はつり革(この言い方も昭和ですかね?)や柱を掴んでいたほうがよいと思うのですが、スマホの両手操作に熱中するあまり、電車や地下鉄の揺れに対処できずに隣の人の足を思い切り踏んでしまうトラブルも見かけます。
「別世界とつながりながら職場に向かう」感覚は、紙の新聞で経済情勢を頭に入れながら職場に向かう「昭和のビジネスマン」とは異なるものなのでしょうね。

次に変わったなと思うことは、靴です。3・11の東日本大震災の際に、困難な状況の中徒歩で帰宅した経験や、コロナ前の「#KuToo(クートゥー)運動」で、女性にパンプスやハイヒールの着用を義務付ける就業規則について疑義が出されたことによるものでしょう。
脱線しますが、この「靴」と「苦痛」の掛け言葉は、Me tooの音感とも重なって実に見事なネーミングだと思います。
令和の社内は、革靴、パンプス、ハイヒールは三分の一以下となり、スニーカーが半数以上の光景が広がります。

三つめは道を聞かれることが無くなったことだと思います。これも「全員スマホ帯同時代」によるものでしょう。通勤時間帯でない時に電車や地下鉄で移動すると、インバウンドの観光客の方々が移動のために同乗していることもよく見かけます。
手にしているスマホには、その方の出身地言語で地図や乗換案内が表示されているのでしょう。以前は「ロンリープラネット(英語圏の旅行ガイド)」の本を見せられて、道を聞かれたこともあったように思うのですが、その内容もすっかりスマホの中に収納されている時代になりました。

一億総スマホ時代の到来前には、乗車券磁気カード化が進んでいましたね。
JR東日本の磁気カードは「スイカ」ですが、地域によって名称がそれぞれ工夫を凝らして、北海道ではキタカ、東海ではトイカ、西日本はイコカ、九州に至ってはスゴカ(九州弁の「凄か」と、Smart Urban GOing Cardの掛け言葉だそうです。)とニヤリとしたくなる呼称です。
これも最近ではスマホに収納されて、スマホと連動した腕時計で「ピッ」と改札を通過する時代です。「ピッ」の時にはカード内の非接触ICが微弱電力を受け取ってデータの読み書き(駅の情報や残高の更新)を行っているというのですから、技術進歩には驚きます。
令和生まれの小学生の電車ごっこ(そんな遊びはタブレットの中かも!?)は、昭和世代の筆者の記憶にある電車ごっことはすっかり異なっているものなのでしょう。

「全員在宅ワーク/100%テレワーク」を採用した企業でも、社員同士のコミュニケーション活性化のために、出社日を設けるなど一部揺れ戻しがあるとも聞きますし、全社員がフルリモートのオフィスの広さはどうなっているのだろうかと想像したりするわけですが、間違いなくこの技術進歩はビジネスパースンの通勤風景にも変化をもたらしていると思います。
更に生成AIの急伸展が覆ってくるわけですから、十年後の働き方・通勤風景がどのようになっているのか想像が及びません。電車の運転だって、運転席ではなく中央指令室からの(ひょっとするとロボットによる)集中制御によることとなっていても不思議ではないといえそうです。
十年以上前の下記寄稿や、一昨年のものを思い出しながら、この変化の加速度についていけるのかという不安がよぎる筆者の今日この頃です。
2013.12.01 労働あ・ら・かると「モーターショーと「運転職」という職種が消える悪夢」

2024.08.29 労働あ・ら・かると「車内広告「運転士になれる絵本」をみて」

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)