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新入社員の定着は基礎固めから始めよう

社会保険労務士 川越雄一

 

来月は新入社員を迎える会社も多いかと思います。採用難の時代、採用できただけでもありがたいところですが、大切なのはこれからです。なぜなら、採用は手段であり、これから育成し一人前になってくれることこそが目的だからです。そのためには、まず定着が重要ですが、その第一歩は労務施策の基礎固めです。

 

1.労務施策の基礎と応用

会社の労務施策には法律上義務付けられた基礎的な部分と、他社と差別化するために会社が独自に取り組む応用的なものがあります。
●労務施策には2つの側面がある
少々小難しいことを言いますが、アメリカのハーズバーグという心理学者が唱えた「動機づけ・衛生理論」というのがあります。仕事に対する満足をもたらす要因と不満をもたらす要因が異なることを示しています。前者を動機づけ要因とし、これらが満たされると従業員のモチベーション向上につながりますが、満たされなくても不満にはつながりません。後者を衛生要因とし、これが満たされると不満は解消されますが、そのことが満足感やモチベーションを高めるとは限らないというものです。
●動機づけ要因は応用、衛生要因は基礎
労務施策としての動機づけ要因には、福利厚生の充実、独自の働き方制度、テレワーク・フレックスタイム制、ワーケーションの導入、人事評価制度の整備、従業員のモチベーション向上施策、キャリア開発支援、健康経営の推進、リフレッシュ休暇制度の導入などです。会社によって工夫の余地が大きくなります。一方、衛生要因には正しい労働時間管理、正しい賃金計算と支払い、法令遵守の徹底などがありますが、どちらかといえば、主に法律で義務付けられていることであり、実施して当たり前のことです。

 

2.基礎固めなくして応用なし

今はどこの会社でも人材定着が大きな課題です。そのため、他社の成功事例などに学ぶことも多いのですが、それらの多くは動機づけ要因である応用の労務施策がほとんどです。しかし、不満を解消する衛生要因である基礎固めができていないままでは効果が薄れます。
●耳障りの良い労務の応用施策
「当社は成果主義の人事評価制度を導入しました」「リフレッシュ休暇制度を導入しました」と聞けば、「だったら当社でも導入しよう」ということにもなります。労務施策に限ったことではないのですが、基礎的なことは地味であり、それを飛び越え早く応用に取り組もうとします。そのほうが早く効果が出るのではないかと感じるからです。
●不満状態では応用施策が薄まる
前述しましたように、人は基礎的な労務施策の不備に不安・不信・不満を持ちます。そのような状態で、動機づけ要因である応用施策を講じたところで、その効果は薄まります。従業員にしてみれば、「そんな雲の上のような話より、働いた時間の給料をキチンと払ってくださいよ」です。こうして、会社と従業員の思いは徐々に食い違っていくのです。
●不安・不信・不満が解消されてこそのモチベーション
従業員は会社に何らかの不満がある場合に辞めます。特に入社して間もない従業員にはモチベーション云々というより、会社に対しての不安・不信・不満を極力解消してやることが重要です。そのためには、まず衛生要因である基礎的な労務施策をコツコツと確実に講じることです。動機づけ要因である応用の労務施策はそれからです。

 

3.新入社員の不安・不信・不満解消する3つの基礎固め

衛生要因である労務施策の基礎にはいくつかありますが、主には次の3つを固めます。当たり前のことですが、これを当たり前に行うことで新入社員の不安・不信・不満解消につながります。
●適切な労働時間管理
雇用関係というのは従業員の持つ労働時間の売り買いでもあるわけですから、その管理は中核をなすものです。ポイントは労働時間管理のルール化と記録化です。特に今はデジタル化の進展もあり、社会全体が1日単位というより1分単位で動く傾向が強くなっています。昔のように、出勤簿にペタペタと印鑑を押すだけでは納得しない人が増えています。
●適切な賃金計算と支払い
賃金計算は1カ月の働きに対する精算書みたいなものです。我流でなく法律や就業規則に則っていることは言うまでもありません。計算では労働日数・労働時間等の勤怠項目が明示され、勤怠項目が支給額に反映され、そして社会保険料や税金の控除が正しく控除されていることは最低限必要です。また、賃金明細は誰が見ても理解できることは何より重要です。
●適切な有給休暇の管理
有給休暇(年次有給休暇)管理も今は少々複雑です。年5日以上取得義務、次年度繰り越し、さらに制度があれば時間単位付与、計画年休など、キチンと管理しておくことが必要です。そして大切なのは従業員から「私の有給休暇はあと何日残っていますか?」と聞かれたら即座に答えられることです。前述したようにデジタル化の進展もあり、何でも今知りたい人が増えているからです。

 

従業員のモチベーション向上のために、いろいろな労務施策の事例が紹介されています。もちろんそれ自体は重要ですが、その前に取り組むべきは衛生要因である労務施策の基礎固めではないでしょうか。