労働あ・ら・かると
日本では当たり前、常識も,国際的視点からは非常識だ
労働評論家・産経新聞元論説委員・日本労働ペンクラブ元代表 飯田 康夫
〇私たち日本人の目から見ると、当たり前、常識として定着している事象も、国際社会の舞台からみると、日本人の考え方は非常識?だと思われることがある。
〇その一つが、年次有給休暇(以下「年休」または「有給休暇」という)の取得をめぐる動きだ。私たちは、年休の取得率をとかく話題にする。取得率の推移を重視し勝ちだった。過去には、やれ取得率が付与日数の半数にも満たない50%以下の水面下にあるのが当たり前だった。それだけ有給休暇付与日数を残すのが当たり前だった。
〇それが昨今、取得率が60%台へ上昇してきた。年休取得が声高に叫ばれるようになって、ようやく年次有給休暇を取得する人が増えだし、取得率が上向きになってきているのだ。
〇日本人の考え方は、年休は取得より、今後のことを考えて、残しておくのが当たり前だという考えが主流を占めてきた。年休の完全取得などあり得ないのが当たり前。すべてを取得してしまうと、いざという時に休めないと困るから残しておきたい、残すのが当たり前の風潮が行きわたっていた。
〇なぜ、権利とされる年次有給休暇を取得せず、残そうとするのか、この当たり前の考え方を連合の「働き方改革(労働時間)の定着状況に関する調査2024年」から、その現実の姿を眺めてみたい。
〇「年休未取得の有給休暇がある」と回答した労働者は、69.1%。ほぼ7割の人が年休を取るも一定の日数は取得せず、残しているわけだ。残す理由を「自分や家族の病気への対応の際に残しておきたい」というわけ。「急な私用のための予備で残しておかないと不安だ」、などの声も聞く。その理由は様々だ。
〇本来、年次有給休暇の取得に具体的な理由は不要なのだ。経営者や上司から何のために年休を取得するのかと問われても、いちいち具体的に答える必要がない。原則として「私用のため」という理由だけで法的に問題なく取得できる。労働基準法で認められた権利であり、経営側は年休取得の理由によって取得を拒否できないのだ。取得を申請するとき、具体的な理由を伝えても、仮に嘘では信頼関係を損なうだけで、「私用のため」で十分。「趣味のため」、「旅行のため」など個人的要件でもいいのだ。
〇年次有給休暇を皆さんはどう理解し、どう位置付けしているのだろうか。
〇第2次世界戦争が終わった1948年(昭和23年)2度と戦火を交えてはならないとの崇高な理念のもと、世界人権宣言が国際社会に向け発せられたのだ。
〇その第24条には次のような文言が書き込まれている。
〇「すべて人間は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇を持つ権利を有する」とある。
〇いわば、年次有給休暇を人間の基本的な権利の一つに掲げているのだ。
〇ILOの幹部から伺ったことだが、イタリアの憲法第36条では、「年休を労働者の権利と規定」しているほか、但し書きがついて、「この権利は放棄することができない」とあるとのことだ。これでは、年休を取らないと憲法違反になりかねない。そこまで年休・余暇を大事に扱っているといえる。
〇このアラカルトを閲覧いただいている皆さまは、この有給休暇をどう理解し、どう位置付けておられるだろうか。パートの集まりで聞くことだが、経営側から「パートには有給休暇はない」といわれ、「あぁ、そうなのか」と、早合点されては困る。有給休暇は正社員だけのもではない、パートも派遣社員も嘱託者もアルバイトにも労働基準法は適用され、当然有給休暇は与えなければならない。
〇そうだ、労働基準法を精読され、その内容までしっかり自覚されていると思いたいが、年次有給休暇を規定した第4章(労働時間、休息、休日及び年次有給休暇)の第39条の書き出しがどういった主語から書き出されているかご存じだろうか。労働者保護の立場からの労働基準法だから、労働者は有給休暇を取得できるとでも考えられていれば、今すぐ読み返してほしい。正しくは、「使用者は~~~労働者に対して有給休暇を与えなければならない」とある。主語は、使用者なのだ。
〇当然、雇入れた日から起算して6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して継続し、または分割した10労働日の有給休暇を与えることが条件だが。
〇有給休暇は、国際的にも権利だとされるが、使用者は、~与えなければならないとある文言から、労働者の権利というよりは、使用者から労働者が恩恵をいただくような感じがしないわけでもない。だが、憲法第27条で、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」、続いて第2項で「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は法律でこれを定める」とあり、有給休暇も権利と解される。
〇一般的に、有給休暇は、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる。有給休暇を取得しても賃金が減額されない休暇だ。有給休暇は勤続を増すごとに1日~2日ずつ、追加され、勤続6年6カ月以上では、20日の有給休暇が付与される。当然、労働者が請求する時季に与えなければならない。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合にのみ、他の時季に変更することができるが、有給休暇を付与しないとすることはできないのだ。
〇ここで、年休取得率の動きを眺めてみたい。2025年厚労省の就労条件総合調査によると、2024年1年間に会社が個々人に付与した年次有休休暇日数は、労働者1人18.1日(前年は16.9日)で、このうち労働者が取得した日数は12.1日(同11.0日)。労働者1人平均取得率は66.9%と、前年の65.3%を1.6ポイント上回り1984年以降過去最高となっている。それでも6日ほどは未取得で残されているのが現実だ。3割強は取得せず残すというのが日本的な特異性であろう。
〇それでも連合のプレスリリースによると「ほぼ100%取得している」が30.9%、「7割程度取得している」が20.1%、「5割程度取得している」が19.4%、「3割程度取得している」が12.4 %、「1割程度取得している」が6.9、「取得していない」が10.3、、「未取得の有給休暇がある」は69.1%だ。
〇先進諸国では、有給休暇の付与日数は、4週間から30日とするケースが目立つ。そして長期連続休暇の取得が当たり前、常識なのだ。日本では有給休暇付与日数も、取得も短く、取得日数も細切れが目立つ。ここに日本のあたり前、常識と国際社会での常識の乖離がみられるのだ。
〇国際社会では、有給休暇は、権利であり、取得するのが当たり前、常識だ。残すことはあり得ない。それだけに、取得率なる文言は存在しないのだ。それゆえ、日本的な発想(有給休暇は残すものという考え)は、存在しない。日本の当たり前、常識は、国際社会からみると非常識だと映るようだ。
〇日本では有給休暇の取得率が低く、それを促進しようと、有給休暇5日を義務付けるという手段を採用することになっている。それが「年次有給休暇5日間取得の義務化」で5年前に定められた。
〇これがどういった変化をもたらしたか。連合のプレスリリースよると、「もともと休みが取りやすい職場なので、特に影響はない」が41.4%、「法律で決められたことで有給休暇を取得しやすくなった」が20.5%、「5日取得できるが、その分、夏季休暇や年末年始休暇などの特別休暇が減らされるなどがあって、あまり意味がない」が12.2%、「法律で決められても5日も取得できない」が11.3%など、評判もいまひとつ。
〇ここは、働き方改革から、少しは休み方改革へ、しっかり働き、ゆっくり休む心を広めたいものだ。

