労働あ・ら・かると
2026春闘で労使の話し合いは穏やかか、激突か ~日本的労使関係は、どう評価されているのか。労使は信頼・協力が定着~
労働評論家・産経新聞元論説委員・日本労働ペンクラブ元代表 飯田 康夫
〇2026春闘に向け労使双方の主張が出揃いスタートを切った。ところで昨今の日本的労使関係は、どのように見られているのだろうか。人事・労務など労働に関連する会社側とされる当事者やその反対側にいる労組リーダー、第三者の立場で、それぞれに見方も多様であろう。
〇今日的な労使関係は、労使の信頼関係の上に成り立っていて、積み重ねた話し合い、労使協議がスムーズに回っていて評価していいのではないか、という声がある。その一方で、どうも会社側のリードの力が強く、労組側から“よろしくお願いします”という低姿勢の労組との間柄から見て会社側の強い力関係が目立ち、労組の主張が弱いのではないかという声。労組側の“人の好さ”が災いして、経営主導型の労使関係に偏ってはいないか。常識・良識・見識ある労使協調であればいいが、それぞれの言い分が反映されず、会社べったりでは、働く者の声が本当に生かされているのかという疑問。さらに会社側のリードに引き回され、本当の労使対等の協議が展開されているのか、いや労使癒着もいいところだ。御用組合化しているなど厳しい声も漏れ聞く。
〇憲法第28条には「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と明記されている。組合を結成する、団体交渉を重ねる、時にスト権を発揮することが保障されている。だが、組合づくりは、経営サイドから毛嫌いされ、勤労者が手を上げにくい環境にあるのも事実。まして赤旗を立て、嫌がらせともとれるストをむやみに振り回すのは労使双方から、そこまで乱暴な交渉は、正常ではないと無視され、労使対等の話し合いが成り立たない事例も見聞してきた。
〇春闘・賃上げ交渉にスト権棚上げでの話し合い路線目立つ
〇昨今の労使関係をみると、争議権を棚上げし、労使信頼関係の上で、話し合いで春闘・賃上げ交渉や労働時間のありよう、労働問題のあらゆる課題を労使協議し、結論を導き出す戦略が目立つ。労組関係者の中にも、スト権の確立にどう取り組んでいいのか、スト未経験者ばかりのリーダーでは、無理もないというべきか。憲法で団体行動・スト権行使が保障されているとはいえ、日本の労使関係でスト権を盾に取った争議件数は、際立って減少している。
〇労使が相まみえる2026春闘の時期を迎え、どのような風景が描き出されるのか。2026春闘のスケジュールをみると、1月20日、経団連が経営側の春闘指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を発表。昨年11月末には連合が2026春闘方針を決めており、これで2026春闘に向けた労使の主張が出揃った形だ。この経労委報告の発表を受けて、まずは労使トップ会談が開かれ、実質2026春闘がスタートとなる。
〇3月中旬の一斉集中回答日に向け、労使交渉がスタート
〇その後は、2月上旬から中旬にかけて労組側から賃上げや労働条件改善を盛り込んだ要求書が経営側に提出され、3月中旬の一斉集中回答日に向けて、2026春闘が展開されようとしている。労働側の連合は、実質賃金1%アップを重要なテーマに。5%以上の賃上げを求めれば、経営側も、物価高騰を克服する賃上げに理解を示し、昨今、経営者側から賃上げ5%以上、あるいは労組の要求を上回る6%、7%の賃上げを実施する予定だという発言が相次いでいる。経営側の2026春闘の指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)も発表されたばかり、これに連合がどう反応を示すのか。連合の経労委報告に対する事務局長の理解見解にも、経営サイドに反論を展開するも、まずは経営側の主張に賛意を示す表現が盛り込まれる文言が表記されるなど、日本的労使関係の特色を見出すことができる。
〇本格的な労使交渉は、2月下旬から3月上‣中旬にヤマ場を迎える、ここでどのような論戦が闘われるのか。賃上げ額や率を巡って厳しいやり取りが交わされるのか、相互信頼の上に立って熱のこもった明日への経営戦略を踏まえ、労使は時に対立、時に相互理解を含めた議論が交わされる。高市首相も物価高騰を上回る賃上げを労使に求め、経営側も実質賃金をプラスに転じさせたいとの意向を明かしており、3年連続で5%台の賃上げが実現する可能性が高まっている。
〇2026春闘では話し合いがメインとなろうが、時に熱のこもった労使激突の可能性―労使協議から団体交渉権を盾に厳しい場面が描かれるのか、働く人の多くから注目が集まる2026春闘だ。
〇産業労使「秋祭り」は、日本的労使関係を彷彿させる
〇ところで、2026春闘を前に、2カ月前の出来事だが、政労使が一堂に集い、和やかな「産業労使秋まつり」が開かれた。この集いには政労使のトップリーダーらが顔を見せ、和気あいあい、ともに神輿を担ぎ、杯を重ねる場面がみられ、日本的労使関係の現実を見る感じだった。そこから、日本的労使関係の信頼関係が生まれ、話し合い路線重視の労使関係が築かれてきた根源が見え隠れする想いを抱かされた。
〇高市首相から労使一体の祭りに熱いメッセージ届く
〇この集いに高市首相もメッセージを寄せ、次のように労使に語り掛けたのも日本的労使関係の特色を見出せた感があった、
〇〇高市首相のメッセージ
〇「第38回産業労使秋まつりの開催に当たり心よりお祝いを申し上げます。2025年の春季労使交渉での賃上げ率は5.25%と、33年ぶりの高い水準となった2024年を上回る賃上げとなりました。持続的な賃上げへの労使の皆さまの多大なるご尽力に心から敬意を表します。
〇私の内閣では「強い経済」を構築するために、戦略的に財政出動を行い、所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税率を上げずとも税収を増加させることを目指します。この好循環を実現することによって、皆さまに景気回復の果実を実感していただき、不安を希望に変えていきます。
〇また物価高への対応に最優先で取り組みます。物価上昇を上回る賃上げが必要ですが、継続的に賃上げできる環境を整えることこそが政府の役割です。コスト高から中小企業・小規模事業者をはじめとした皆さまを守り、生産性向上支援や更なる取引適正化等を通じ、引き続き賃上げに取り組んでいただけるよう強力に後押しします。
〇産業労使「秋祭り」は、労使双方が一堂に会して、直言し、放談し、祭りばやしの中に相互の心の琴線に触れることが明日の活力の源泉となると考え、企画されたとのことですが、2026年の春季労使交渉を控えるなか、労使が交流を深めるこの企画はとても貴重なものと思います。
〇産業労使「秋祭り」のご成功と、ご参集の皆さまの今後のますますのご活躍を祈念して、お祝いの言葉といたします。
〇このメッセージから読み取れるのは、日本的労使関係の特色である信頼関係に裏打ちされた、話し合い中心の労使交渉の姿である。

