労働あ・ら・かると
思い悩むメンタルヘルス症候群の動向 6年度版過労死白書や労働安全衛生調査、JPCメンタルヘルス研のデータを読み解く
労働評論家・産経新聞元論説委員・日本労働ペンクラブ元代表 飯田 康夫
〇昨今、ますます多様な働き方が増え、働き方改革が重なり、職場は正社員ばかりでなく、派遣社員や契約社員、パートさん、多彩なフリーランスが入り混じって運営されているのが現実だ。それが何をもたらしているのかをみると、人と人とのかかわりが希薄になり、上下間の意見の行き違いから不信感が生まれたり、世代間の意識構造にも大きなギャップが生じ、加えてセクハラ、パワハラ、カスハラなどハラスメントも蔓延り、職場にはメンタルヘルスに悩む人が目立つという。
〇急増する労災での精神障害保険給付の請求ーここ15年で3.5倍
〇その事実を令和7年度過労死白書からみると、メンタルヘルスを患い、精神障害を発症、退職に至るなどのケースも目立つ。精神障害による労災保険給付の請求件数が平成22年度から令和6年度での15年間に3.5倍に増え、特に医療・福祉の現場では精神障害の労災決定件数が大きく増えるなど深刻な現状が浮かび上がっている。具体的な数字をみると、平成22年度当時の精神障害の労災請求件数は、1,181件(うち自殺は、171件)だったが、令和元年度(平成31年)には2,060件(うち自殺は、202件)と初めて2,000件台にのり、令和4年度には、2,683件(うち自殺は、183件)と2,500件台を超え、令和5年度は急増し、一気に3,575件(うち自殺は、212件)と、3,500件台をオーバー、昨令和6年度は3,780件(うち自殺は、202件)など、まさにメンタルヘルスに悩む働く姿が強く印象付けられる。
〇精神障害を発症し、労災保険給付を請求も、労災と認定された決定件数もここ2~3年急増している。平成22年度には精神障害と認定された決定件数は、308件、以後令和元年度までは300件から500件台だったが、令和2年度に608件、同3年度629件、同4年度710件と上昇に転じ、同5年度には883件に、昨6年度には1,055件と1,000件台に乗せている。
〇事故や災害、過重な責任、対人関係、役割・地位の変化などが動機
〇これら精神障害の発症は、何を動機にしているのだろうか。職場では事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生、仕事の質量、役割や地位の変化、パワハラ、対人関係、セクハラ、特別な出来事への遭遇などが考えられる。過労死白書から読み取れるのは、もっとも多いのが事故や災害の体験からで、令和6年度で1,519件、職場には、ヒヤリハットと思わずドキッとする現場に出会うことが後を絶たない。いわゆるヒューマンエラーで事故や災害に遭遇することが多いのだ。注意一秒、ケガ一生、安全第一を最優先したいものである。以下、仕事の失敗や過重な責任の発生が519件、仕事の質や量の問題が389件。多忙を極めているパートさんの傍で、暇を持て余す上司にブチ切れている主婦の姿を拝見したことがある。パートとはいえ、午前8時半から午後5時半まで勤務する正社員と何ら変わりがないのだ。残業はないと言われ勤務も、常に残業続きで、疲れ気味です、何がパートでしょう、社員並みの働き方を求めるならそれなりの処遇を考えないと。人手不足が強まってくると、今後、人材確保が不可となり、企業経営にも深刻さが迫られようというものだろう。
〇メンタルヘルスを考える上で人との関わりからくる出来事の種類を、同じく過労死白書に見ると、対人関係でぎくしゃくするケースが考えられるが、何が考えられるのだろうか。多いのは、上司や同僚らから暴行や暴言、ひどいいじめ、嫌がらせを受けた、トラブルになったが目立ち、顧客や取引先、施設利用者らから激しい迷惑行為を受けたなどカスハラも浮上している。これがメンタルヘルスにつながっているケースも多いようだ。
〇メンタルヘルスに脅かされる一因として労災での精神障害事案に係る具体的な出来事の割合を、過労死白書から分析すると、「重度の病気やケガをした」が建設業で目立ち21.9%、次いで自動車運転従事者の14.4%など。「悲惨な事故や災害の体験、目撃」が医療・看護師で目立ち35.5%を占めている。「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」では、IT 産業の割合が42.3%、芸術・芸能分野で36.8%を占めるなど突出気味。「(過労死の認定の際、指標とされる)1か月に80時間以上の時間外労働を行った」は、自動車運転従事者が18.5%、外食産業が18.4%などで目立つ。「2週間以上にわたって、連続勤務を行った」は、建設業で24.8%と高く、「上司とのトラブルがあった」と「上司から身体的攻撃、精神的攻撃などのパワーハラスメントを受けた」は、教職員に目立ち、それぞれ19.1%、33.3%見られ、特筆される。
〇週60時間以上働く働きバチは、労働条件など処遇に不満あらわ
〇働く上で、重要な項目である労働条件や人事評価・処遇、普段の睡眠で休養が取れているか、健康になる、メンタルヘルスに打ち勝つのに必要な取り組みを過労死白書のアンケートから眺めてみたい。
〇労働時間・休日などの労働条件に関するアンケートをみると、「不満」や「やや不満」の割合は、週労働時間が増えるにつれて増加、週60時間以上では、「不満」が19.4%、「やや不満」が35.4%など合わせて54.8%と過半数を超える。これも週20時間未満層では「不満」9.5%、「やや不満」42.5%と対照的だ。
〇「賃金や福利厚生満足度」をみると、処遇が良く、福利厚生が行き届いていれば、不満も薄れ、メンタルヘルスにも好影響がありそうだが、これも週60時間以上なると、「不満」が21.4%、「やや不満」が17%など、合わせて38.4%と4割に近い。「人事評価・処遇の在り方」も微妙にメンタルヘルスに影響しようが、週60時間以上層は、「不満」が19.9%、「やや不満」が15・5%など、やはり合わせて35.4%と3人に1人強が不満を漏らす。
〇メンタルヘルス不調を左右する睡眠 「取れていない」が6割超
〇大事なのは普段の睡眠で休養が取れていればいいのだが、睡眠時間の不足は、メンタルヘルスの発症に影響しがちなだけに大事な視点となる。週20時間未満の労働時間で働く人たちは、睡眠が「全く取れていない」は8.9%だが、週60時間以上働く人たちは「全く取れていない」が21%、「余りとれていない」が40.7%で合わせて61.7%と6割が寝不足で出勤、仕事にとりかかっている現実を直視したい。
〇メンタルヘルスに罹患せず、心も体も健康になるための必要な取り組みについてみると、最も多いのが「睡眠時間を増加させる」で37.7%、次いで「職場でのストレスを減少させる」で35.5%、「運動習慣を見直す」で31.3%とつづく。
〇ここで、多くの課題を抱える外食産業での店長、店舗店員のストレスや悩みアンケートを眺めてみたい。店長は「売り上げや業績の悪化」にストレス、悩みを抱えている回答が30%、同時に「経費(光熱費・材料費など)の上昇に頭を悩ます」とする回答が32%。店舗従業員(接客)」は、「お客からの苦情など」が18.8%で相対的に高い。加えて、「エリアマネージャー、スーパーバイザー」は「欠勤した従業員の埋め合わせ」にストレスを感じ、悩んでいる。
〇多くの企業が活用する「ストレスチェック」を体験したい
〇令和6年度「労働安全衛生調査」を読み解いても、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した労働者または退職した労働者の状況を事業所割合でみると12.8%と1割を超す。
〇では、企業は、この悩ましいメンタルヘルス対策にどこまで取り組んでいるのか。取り組んでいる事業所は、63.2%に見られ、労働者50人以上の事業所では94.3%、30~49人規模では69.1%、10~29人規模では55.3%だ。
〇取り組み内容では、「ストレスチェックの実施」が65.3%で最も高く、次いで「職場環境などの評価、改善(ストレスチェック結果の集団ごとの分析)」が54.7%など。
〇同調査の個人調査をみると、「今の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄のある労働者の割合は68.3%。何と7割近くがストレスを実感しいることが分かった。今日の社会は、まさにストレス社会というものだろう。その内容は、「仕事の量」が43.2%で最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生」が36.2%、「仕事の質」が26.4%など。就業形態別にみると、正社員もパートタイマーも契約社員も、「仕事の量」、「仕事の失敗、責任の発生」、「セクハラなど対人関係」の3項目でストレスを強く感じるとし、派遣社員では、「雇用の安定性」、「セクハラなど対人関係」、「仕事の量」など。
〇ストレスを受け、その相談状況をみると、相談できる人がいるは、「家族・友人」で68.6%、「上司」で65.7%など。男性の場合は、「上司」が多く、女性は、「家族・友人」が多い。
〇公益財団法人日本生産性本部メンタルヘルス研究所は、長年にわたる研究実績もあり、貴重な存在だ。同研究所調べのメンタルヘルス問題の動向(2023年)によると、企業アンケートで、「心の病が増加している」と回答した数値は45%で、2021年の22.9%に比し、大幅な上昇だと分析。これを年代別にみると、10~20歳代で43.9%と突出し、初めて30歳代の26.8%を上回った。40歳代は21.3%、50歳代は7.9%にとどまっていて、若年層でメンタルヘルス症候群の発症が際立っている。
〇では、企業はどのような対策をとっているのかをみると、「ストレスチェックの実施」が94.7%、「職場復帰支援体制整備」が65.7%、「管理職研修」が65.1%、「社内相談室設置」が60.4%など。これら取り組みを通じて期待している内容では、「不調者の早期発見」が87.6%、「不調者に適切対応」が85.8%、「従業員の活力・生産性向上」が75.7%、「健康尊重の職場づくり」が70.4%、「職場で話し合える風土」が58%など。
〇従業員に求めることでは、「自身の不調感の気づき」が81.7%、「心の病に関する正しい理解」が43.8%など。職場におけるメンタルヘルスは、1企業の内部課題にとどまらず、社会全体の持続可能性を左右するテーマとなっていると指摘、従業員一人ひとりが健康で意欲的に働ける環境を整えることは労働力確保と生産性向上の双方に直結すると訴える。
〇人間関係で孤立でなく、職場のつながりを重視したい
〇その上で、働く人々の主体性や職場でのつながりを如何に再構築するかに集約されるとする。
〇メンタルヘルスに関心をお持ちの方は、生産性本部のメンタルヘルス研究所を訪問されるか、同研究所のホームページをぜひ訪問してほしいと思う。

