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労働あ・ら・かると

退職者は良くも悪くも会社の広告塔

社会保険労務士 川越雄一

 

採用時はともかく、退職時の労使関係はそう良好ではないものです。仮に不満があっても、在職中は遠慮もあって我慢していたことが退職後は一気に噴き出すこともあります。退職後の言動・行動は会社ではコントロール不可能であり、良くも悪くも会社の広告塔になってしまいます。ですから、退職時はできるだけ気持ちよく送り出し、会社の応援団にはならずとも敵に回すことは避けたいものです。

 

1.中小企業はほとんど中途退職

中途退職がほとんどの中小企業では退職時の労使関係は微妙です。不満爆発とまではいかないまでも互いに言い分もありますし、仮にゴタゴタしてしまうと在職者にも影響を及ぼします。

●退職時の労使関係は微妙
中小企業の場合は、定年というより中途退職がほとんどなので退職時の労使関係は微妙です。微妙というのは、口には出さずともその関係は採用時ほどよくはないということです。採用時はお互いに前向きだったわけですが、月日と共に相手の良いところ悪いところが見えてきて、我慢の限界を越え退職に至ります。
●お互いに言い分もいろいろ
退職者は「私はあれだけ一所懸命会社のために頑張ったのに…」、会社は「何でもできるというから採用したのに…」と、お互いに言い分もいろいろです。特に退職の申し出がなされた後は態度や表情も穏やかではなくなります。期待の裏返しは怒りともいいますが、採用時の期待が大きいほど、裏切られた際の怒りは半端ないのです。
●退職時のゴタゴタは在職者にも影響する
退職者と会社の関係は在職者にも影響します。在職者にとっても「明日は我が身」なのです。仮にその関係がゴタゴタしていたり、経営者が退職者への不満タラタラだったりすれば、表面上はともかく内心穏やかではありません。「うちの会社って、辞める人には冷たいのね」と、会社への信頼感が揺らぎます。

 

2.退職後はコントロール不可能

御多分に漏れず退職者もいろいろな人とつながっていますので、良くも悪くも会社の広告塔になりやすいのです。もちろん、人の口には戸が立てられず退職後はコントロール不可能です。

●退職後に広告塔になりやすい
在職中と違い退職後は立場も遠慮もなくなるぶん、良くも悪くも広告塔になりやすいのです。ここで広告塔というのは、会社のことを宣伝する影響力が非常に強い人物を指します。良いことを宣伝してくれれば良いですが一般的にはそうでもありません。そして、世間ではそのような宣伝に尾ひれを付けて面白おかしく実しやかに広まります。
●退職者もいろいろな人とつながっている
人のつながりというのは不思議なものです。退職者もいろいろな人とつながっており、知り合いの知り合いとなれば把握不能です。「えっ、まさかあの人と…」と、退職者の知り合いが取引先社長の奥さんと同級生だったりすることもあります。そのようなつながりがある中で、人の口には戸が立てられないのです。「ここだけの話ね」ほど当てにならないものはありません。
●終わり悪ければすべて悪し
「終わりよければすべてよし」といいますが、逆にいえば「終わり悪ければすべて悪し」です。前者であれば良いのですが、後者だと退職時の関係が悪ければ在職中に良いことがあっても、最終的にはすべて悪かったということになります。仮に10年勤続していたとしたら、その在職期間がすべて悪かったということになりますから残念です。

 

3.できるだけ気持ちよく送り出す

縁あって一定期間一緒に働いた従業員ですから、会社と従業員双方、多少の不満はあったとしても最後はできるだけ気持ちよく送り出し、在職中のことを「まあまあ」くらいにしておきたいものです。そのためには…。

●年休(年次有給休暇)はきれいサッパリ差し上げる
退職していく従業員に「何が年休だ!」ということもあるかもしれません。しかし、ここは懐深くきれいサッパリ差し上げます。自ら年休を使い果たして退職する人は良いのですが、遠慮して残したままの人には年休残を伝えて買い取ることも考えられます。このような会社の配慮に「いろいろあったけど、まぁ、いいか」ということにもなります。
●残業代の精算をする
当然ながら残業代の未払いがあれば精算します。ちなみに代休残も残業代の未払いと同じです。特に退職理由が訳ありの場合はキチンと精算しておかないと、退職後に必ずといっていいほど請求されます。不思議なことにそのようなことを一切口にしていない人ほどそのような行動を起こしやすいものです。言動と行動は反比例します。
●必要な手続きはテキパキ行う
雇用保険の離職票、社会保険の喪失連絡票は極力早めに作成して渡します。このような手続きが遅れると退職者の生活に影響を及ぼすからです。仮に変な辞め方をしても同様です。変な辞め方をした人ほど早めが良いと思います。このような書類を基に求職活動等、早く次のステージに進んでもらい会社への怒りを薄めてもらうのです。

 

退職時にゴタゴタしますと退職者は広告塔として世間に変な宣伝をしてしまいます。これを止めさせようにも退職後はコントロール不可能です。ですから、退職時はできるだけ気持ちよく送り出すことが肝要なのです。