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令和世代の新卒者の就職観は、「楽しく働きたい」がトップ  次いで「ワーク・ライフ・バランス型」に集中

労働評論家・産経新聞元論説委員・日本労働ペンクラブ元代表 飯田 康夫

令和世代の学生さんの職業選択の意識や職業観はどのようなものか。次代の会社を担うことになる社員として責任感ややる気度は如何なものなのか。厳しかったコロナ禍での就職戦線を過ぎ、2026年春・新卒の就職戦線は、就職内定率が97~98%台という高い状況を示し、就職氷河期とは打って変わって好調だとされる。
一旦、入社内定が決まると、学生たちは、視野を広げるため世界へ旅をする傾向がある。常識を備え、良識を鍛え、見識をしっかり身につけ、人間的に成長してほしいものだ。

果たして、どのような意識をもって就職先を選択し、働くことに強い関心を抱いているのだろうか。令和7~9年卒予定の学生は、どのような会社選びをし、どのような会社に焦点を当てアタックし、内定が決まれば、さあやるぞの意気込みを心に刻んでいるのだろうか。
過労死予備群に編入されるような厳しい働き方は、ご免被りたいが、仕事にやりがいをどこまで求めているのか疑問に思うような昨今の学生の姿を見るにつけ、しっかり会社勤めが果たせるのか疑わしいようなアンケート結果などに、忸怩たる思いがすることがある。

そこでマイナビの2026年春新卒予定の大学生就職意識調査、みん就(旧楽天みん就)の新卒就職人気企業ランキング、人事コンサルタントのワークス・ジャパンと産経新聞社の就職人気ランキング調査などから令和世代の大学生の就職行動、働くことの意識などを展望してみた。

全体的に見られることでは、就活にあたって、業界を絞らず、さまざまな企業を意識するも、ポイントとしては「安定している会社」を最優先し、「給与が高い会社」を選択する傾向が見られる。また、ある会社が好きだ・嫌いだではなく、会社・仕事・働き方の魅力などの面から分析すると、興味ある就職先の会社ランキングが描き出されている。

同時に、働き方では、「楽しく働きたい」という声が多く聞かれ、過去の「頑張ります精神」は完全に姿を消してしまった感がある。仕事は厳しいものだ。甘い考えは通じない。ただ、過労死するような働き方は好ましくないのは当然。「楽しく働く」に続いては、「個人の生活と仕事を両立させたい」の声も多く、ワーク・ライフ・バランスに関心が高いことも見られる。

人生、まだ20年強の経験では未熟な面が目立つ。その20年強にわたる人生を振り返ると、家族のもとで学ぶ一方だった学生気分の時間帯から、賃金を得て働く以上は、汗をかき、知恵も出し、地域に、社会に、世界に貢献できる新人であってほしいと願う。
いま、学生側も、会社選びにはSNSなど多様な手段を使って情報を得ている姿が見える。会社側も受け身でなく、積極的に学生に向けた広報活動、イメージアップ行動が求められるのは言うまでもない。

マイナビの2026年卒就職意識調査(対象36,311人)から今どきの就職観に目をやると、同じ働くのであれば、「楽しく働きたい」が37.4%で最多(前年対比1.5ポイント減)だ。もっとも増加幅が目立ったのが「個人の生活と仕事を両立させたい」で、前年比1.1ポイント増の25.6%。3年連続の増加だ。令和世代の学生たちのワーク・ライフ・バランス思考の高まりが見える。その一方で、「収入さえあればよい」も8.4%で増加以降にあるとか。
昨今の物価高騰に関心を持ち、日常の食事(学食など)、生協の値段アップに頭を悩ます姿もー。それだけに収入に強いこだわりを持つ学生も目立つという。
新卒を対象にした初任給引き上げの報道がマスコミに大きく取り上げられ、大手企業に限らず、中小企業も初任給引き上げの動きが目立つ。これらの動きから学生の就職先選択も中堅・中小企業志向も高まりそうな傾向も見える。

では、会社選びでは、どういった姿勢で臨んでいるといえるのだろうか。大企業や有名企業に目が映るのか、中堅・中小企業をどうみているのか。マイナビの調査からは、「やりがいのある仕事であれば、中堅・中小企業でもよい」と「中堅・中小企業がよい」が合せて43%も見られ、大企業偏重の傾向は見られない。中堅・中小企業の出番がきているようで、学生にしっかりアピールする努力が求められよう。

ところで、新卒の学生に選ばれる就職人気企業ランキングに目をやると、みん就調べの総合では、1位に伊藤忠商事が輝いた。以下ベスト10位までを記載する。
2位ソニーミュージックグループ 3位NTTデータ 4位日本郵船 5位味の素
6位集英社 7位エイベックス 8位全日本空輸(ANA) 9位アクセンチュア
10位KDDI 次点の11位がNTTドコモ みん就ではホームページに上位200社の企業名を公表している。
興味があるのは、働き方の魅力についてのランキングだ。
教育・研修が充実している企業として、1位にNECソリューションイノベータ 2位に日本IBMグループ 3位に三井住友銀行の企業名を挙げる。
柔軟な働き方ができそうな企業として、1位にトヨタ自動車 2位にLINEヤフー 3位にオリックスグループを挙げる。
福利厚生が充実していそうな企業として、1位に東京ガス 2位に日立製作所 3位に東海旅客鉄道(JR東海)を挙げる。
キャリアアップできそうな企業として、1位にアビームコンサルティング 2位にサイバーエージェント 3位にキーエンスを挙げる。
社風・居心地が良さそうな企業として、1位にバンダイナムコエンターテインメント 2位にバンダイ 3位に集英社を挙げる。

お読みいただいた皆さまは、どう受け止められたでしょうか。企業努力の大切さを実感されるのではないだろうか。

ここで令和9年新卒予定の就職人気企業ランキングをワークスジャパンと産経新聞の合同調査(中間報告)から、文系と理系別のランキングを眺めてみたい。学生たちの就活で特徴的にみられるのは、業界を縛らず、様々な企業を意識していることだ。
ここに登場してくる上位ベストテンは、以下のようである。
文系では、1位にみん就と同様、伊藤忠商事が名乗りを挙げていることだ。以下、2位三菱商事 3位味の素 4位サントリーホールディングス 5位三井物産 6位三井不動産 7位任天堂 8位JTBグループ 9位損害保険ジャパン 10位三菱UFJ銀行。
理系では、1位NTTデータグループ 2位ソニーグループ 3位味の素 4位トヨタ自動車 5位伊藤忠商事 6位富士通 7位三菱商事・資生堂 9位サントリーホールディングス 10位旭化成。
みん就とは異なった企業ランキングを見ることができ、学生の選択肢の多様性をみることができる。問題は、楽しく働きたいと思う現役学生の姿勢と現実に入社して実感する職場の雰囲気の度合い差をどう乗り切るかにかかっているといえそうだ。

話は違うが、今どきの学生さんたち、就職したくない会社をはっきりと主張するようだ。「あの会社には行きたくない」とズバリ表現する内容をマイナビの実態調査からみると、もっとも多かったのが、「ノルマがきつそうな会社」で38.2%、次いで「転勤が多い会社」で31%、以下、「雰囲気が暗そうな会社」、「休日・休暇が取れない(少ない)会社」、「仕事内容が面白くない会社」、「大学や男女差がある会社」、「歯車になりそうな会社」、「給料が安い会社」、「体質が古い会社」などだ。これらは反面教師として学びたい。

人生は、長いようで案外早く過ぎ去っていく。人生80年から100年時代へ。これをどうとらえるか。幼稚時代の5歳までは「両親」中心に一方的に面倒を見てもらう世界だが、小学校から中高生、大学生時代の15年強(7歳から22歳前後)は、一方的に学ぶ時代だ。それが就職し、社会人となれば、まず10年から15年(23歳から35歳ころまで)は基礎固めの時代。しっかり知識を身に着けることだ。以後、10年から15年(30歳代半ばから50歳近くまで)は、自分なりの専門性を身に着け、よき人材との交流を深める成熟時代。そしてその後の10年から15年(50歳から高齢者となる65歳ころまで)は自立も可となる実力を生かして、人生に実りをつける時代など人生を4期程度に分け、対応を考えてほしいものだ。これを10年単位に5期程度に分けて考えてもよい。65歳以降もしばらくは、自らの財産を生かして社会貢献を兼ねて収入を得るもよし、純粋にボランテイアとして奉仕するもよしである。
就職解禁時や就職内定率公表の時期など新入社員を迎える時期になると、常に人生80年から100年の歩みを振り返り、新人たちに、中長期の人生設計を考えてみてほしいと思う昨今だ。