労働あ・ら・かると
優秀な人を残したいなら、そうでもない人も大切にしよう
社会保険労務士 川越雄一
〇会社では多くの場合、仕事ぶりがそうでもない人を批判したり、ぞんざいに扱ったりして排除しようとするものですがトータルで考えると逆効果です。それは、組織の構成にも「2:6:2の法則」によるバランスが保たれ、そうでもない人がいるからこそ、本当に優秀な人が力を発揮し会社全体の成果が上がるからです。
1.組織には自然に序列ができる
〇不思議なもので、組織では意図せずとも自然に、優秀な人、平均的な人、そうでもない人という序列ができてしまいますが、これがあるからこそ組織のバランスが保てるのです。
●どうしても「2:6:2」になる
〇従業員が優秀な人ばかりであれば良いのですが、そういうことはありません。仮に優秀な人ばかりだったとしても、その中で序列がついてしまいます。いわゆる「2:6:2の法則」ですが、2割が優秀な人、6割が平均的な人、2割がそうでもない人です。また、2割のそうでもない人を排除しても、残った人が2:6:2になります。
●会社の評価より従業員同士の評価が実態に合う
〇会社における序列は、会社の評価より従業員同士の評価のほうが実態に合っています。何も小難しい評価制度などなくても、一緒に働いている従業員は本能的に評価しているのです。ちょうど、学生の頃、クラス替えがあり1学期が終わるころにはクラスで誰が優秀なのかは通知表が出る前に分かっていたのと同じです。
●そうでもない人がいるから優秀な人が力を発揮する
〇以前、自動車販売会社の社長がこんなことを言われていました。「営業所では、そうでもない人がいると優秀な人の成績が上がる」というものです。そのため、その会社の営業所には優秀な人ばかりではなく、そうでもない人も意識的に配置していたそうです。なぜ、そのようなことになるのか定かではありませんが、現実的にそのような事例は多くあります。
2.そうでもない人を排除するのは逆効果
〇そうでもない人は、どうしてもぞんざいに扱われ、場合によっては排除されやすいのですが、このような対応は逆効果で、下手すると本当に優秀な人から去っていきます。
●見せしめ的発言は職場の雰囲気を悪くする
〇朝礼や会議の場でそうでもない人を暗に非難するような発言をしてしまうことがあります。「当社には二人だけ会社のために働いていない人がいます」というような、いわば見せしめ的な発言です。小さな職場であれば、誰のことを言われているかくらい分かります。多くの従業員にとっては「明日は我が身」、あまり気持ちの良いものではありません。
●一つ間違えば「パワハラ」になる
〇発言者は職場の士気を奮起させるつもりでも、従業員にしてみれば「何でこんな場で言うかな」です。今の時代、一つ間違えば「パワハラ」になりかねません。厚生労働省がいうパワハラ6類型のうち精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)です。また、本当に優秀な人にとっては、会社のこのような発言は反発こそされ、共感されることはまずありません。
●本当に優秀な人から去っていく
〇本当に優秀な人は、会社の理不尽な対応に我慢することはなく、サッサと会社を去っていきます。本当に優秀な人にとって、そのような会社にいること自体が時間のムダなのです。いわゆる「消極的抵抗」として会社を去っていきます。逆に中途半端に優秀だと思っている人は「辞める」と言いますが辞めません。
3.本当に優秀な人を残すためには
〇会社には本当に優秀な人を残すことが必要です。そのためには、チームで成果を上げる意識を持ち、中途半端に優秀な人の話を鵜呑みにせず、そうでもない人にも光を当てるといった対応が有効です。
●チームで成果を上げる意識を持つ
〇組織はチームワークが大原則です。いくら優秀な人でも一人では成果など上げることはできません。そうでもない人が優秀な人のためにサポート役に回ってくれるから、優秀な人はさらに成果を上げることができます。組織というのはチームで成果を上げれば良いのです。ですから、職場には「2:6:2」の割合でいろいろな人が必要だと割り切ります。
●中途半端に優秀な人の告げ口を鵜呑みにしない
〇会社に対して、そうでもない人を排除するよう告げ口するのは中途半端に優秀な人、つまり、そうでもないのに優秀だと思っている人です。ですから、このような人の告げ口を鵜呑みにしないことが肝要です。そもそも、本当に優秀な人は、そうでもない人だと分かっていても告げ口などをすることはありません。
●そうでもない人にも光を当てる
〇仕方のないことですが、どうしても職場では優秀な人に光が当たります。放っておいてもそうなります。だからこそ、たまにはそうでもない人にも光を当てることが必要です。それくらいのことをしてちょうど良い塩梅になるのです。本当に優秀な人は、このような会社の対応を評価します。チームワークの基本が分かっているからです。
〇優秀な人を残すためには、そうでもない人も大切にすることが必要です。野球でいえば「オール4番」を集めても常勝チームにはならないのと同じで、会社組織でもいろいろな人をバランスよく集め、持ち場の仕事をこなしてもらうことが肝要なのです。