労働あ・ら・かると
これからの新卒採用・就職を考える
就職・採用アナリスト 斎藤 幸江
〇今回で、本連載を終える。同時に、40年間携わってきた、新卒採用・就職関連の仕事にも幕を閉じる計画だ。
〇これを機会に、これまでとこれからの新卒採用・就職を考えてみたい。
●web登場前後の採用広報
〇1995年にWindows 95が登場し、webでの情報提供が始まるまで、就職情報は、紙媒体によって提供されていた。分厚い、ひとりあたり10kgを超える情報誌は宅配便で、パンフレットやダイレクトメールは郵便で送られた。
〇当然ながら、コストはかかる。部数が増えれば印刷代はもとより、郵券代も莫大だ。発送数の絞り込みは必然で、それが長らく続く「新卒就職の大学格差」を解消できない要因ともなった。
〇一方でweb以前の「モノを直接届けるスタイル」の企業広報には、独自の魅力もあった。デザインの自由度が高かったのである。
〇B to Bで知名度が低い、新興ベンチャーで歴史が浅いなど、就活生の認知にハンディを持つ企業は、派手な大きな封筒にキャッチーなコピーを大きく載せたり、変わったアイテムを同封(「あなたを磨いてきてください」とタワシを送った企業もあった)したりと、意表をついて目を引くことが可能だった。
〇これらの手法は功を奏し、就活生で話題となり、説明会参加者や応募者が数倍になった。
●「より多く!」志向は続く
〇インターネットを通じた情報提供が主流になると、「画面」という同じフレームでの勝負となる。
〇そもそも、一方的に届けられる発送物と異なり、ネット情報はユーザーの意思で閲覧が決まる。
〇送付からネットへの移行で、大学に関係なく、誰もがさまざまな情報にアクセスできる公平性は、実現できた。しかし、採用企業にとっては、学生の知名度や(誤解も含めた)イメージ次第で、メッセージの到達度が決まってしまうデメリットが、生まれた。
〇「え? これ、なんだろう?」と、学生の興味を未知の企業に惹きつける仕掛けが、難しくなったのだ。
〇就職・採用側双方を支援する就職情報会社は、紙媒体時代から「数の多さ」を謳い文句にしてきた。採用・就職側のマッチングは、参加数が多いほど図りやすいという前提だ。
〇学生には、「競合誌よりも掲載企業が多い」とアピールし、「学生の利用者数が多い」と採用側には訴える。
〇ネットに移行してからは、「他社より登録者が多いので、志望学生に出会いやすい」、「他サイトより掲載社数が多いので、可能性を広げやすい」と宣伝されるようになった。
〇心理学者 バリー・シュワルツ氏は、2004年に「The Paradox of Choice」(選択のパラドックス)を出版した。選択肢が多いことは、よりよい選択につながらず、むしろ不満や不安を生じさせると説く。出版後、全世界で話題になったが、今なお、ひとは「多いほど、良い」になりがちだ。
〇かつてはマイナーだった、スカウト型・オファー型と呼ばれるサービス(学生がプロフィール等を登録し、それを見て興味を持った企業が、選考のオファーを出すスタイル)も、今や年間の利用企業数千社、就活生数十万人の規模になっている。
〇「より多く」への志向はとどまることを知らないようだ。
●AI頼みでいいのか?
〇業績好調の企業も多いようだが、人事部門を含む非採算部門は縮小傾向にある。外注やAIが、不足する労力を肩代わりする。
〇多くの学生の情報を閲覧しきれなければ、AIが絞り込み、適職が見つからなければ、適性診断結果から分析したオススメ求人が提示される。
〇ブラック企業認定を回避するために、企業はお祈りメール(選考不通過を伝える企業からのお知らせ。最後に「(今後のご活躍を)お祈り申し上げます」という一文で締められることが多いので、こう呼ばれる)を、かたや就活生は、応募書類をAIで作成する。
〇最近、ハラスメント企業とみなされることを恐れて、面接での深掘り質問を避ける企業が増えている。人物像を詰められず、採用後、「これでよかったのか」ともやもやしているという声も聞かれる。
〇この状況が進むと、すでに一部企業が利用している、「AIを使った面接の画像解析」がさらに進み、深く聞き出すことなく、表情や態度からその人の本質を分析・把握するのが、当たり前になるかもしれない。
〇しかし、果たして、それで職場はうまく機能するのだろうか。
〇AIのはるか以前、ある大手企業が、コンピテンシーの詳細な分析をもとに質問や評価軸を設定して、採用面接を行った。
〇「理屈では確かに、ウチが求めている人材なのだが、面接官ほぼすべてが、何かが違う、という。
〇かといって、落とす理由もないので採用したら、失敗だった」
〇効率化を図る上では、確かにAIが必要な部分もあるだろう。
〇しかし、人との繋がりなくして、動かないのが職場。就職や採用にあたって、「ここだけは、リスクをとっても、人と人とがちゃんと向き合おう」という押さえどころの確保が、必須ではないか。
〇果たして、これからの新卒採用・就職、そして人事はどうなるのだろう。
〇これからは、当事者を離れ、ちょっと外側から眺めていきたい。
〇26回にわたるご愛読、ありがとうございました。