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中小企業の労務は第3ステージへ

社会保険労務士 川越雄一

 

中小企業の労務は、いま徐々に第3ステージに入ろうとしています。ここ30年間を振り返りますと、労務の対象とする相手が段階的に増えているように思います。第1ステージはお役所対応、第2ステージは従業員対応、そして、最近求められだしたのが、第3ステージとしてのサプライチェーン対応です。

 

1.これまでの労務は
中小企業では、労務という業務を経営の中核として意識する必要もなかったのではないと思います。お役所や従業員対応が主でいずれも自社内で完結できていたからです。
●お役所対応の第1ステージ
そもそも中小企業では、労務の専任者もいないことが多く、経理担当者が片手間にお役所へ社会保険等の手続きをし、問題なければ良しとするレベルだったのではないでしょうか。お役所の調査もそう頻繁にあるわけでもなく、すべてを指摘されるわけでもないので、何も出なければ勿怪の幸いだったはずです。仮に指摘があったとしても基本的には指導レベルです。
●従業員対応の第2ステージ
中小企業では、従来から家族的雇用関係であり、表立った労使トラブルはほとんどありませんでした。それでも平成の半ば頃からは、従業員との労使トラブルも少しずつ増えてきました。これは、お役所対応というより、会社と従業員との紛争で、いわゆる民事といわれるものです。この頃から会社は、従業員との労使関係にも注意を払う必要が出てきました。
●いずれも自社内で完結
お役所の対応や従業員対応もそれなりに大変ですが、いずれも自社内で完結する話です。お役所から指導を受ければ、それに従い是正すれば終了します。また、従業員との労使紛争にしても、多くの場合はお金で解決できますし、このようなことが外部に漏れることはなく、取引に影響を及ぼすことはまれでした。

 

2.サプライチェーン対応の第3ステージ
サプライチェーンとは、例えば、メーカーの場合、部品メーカーや材料メーカーなど自社の業務だけでなく、モノが製造されて販売されるまでの全体をいいます。
●求められる人権尊重の考え方
「ジャニーズ問題」は記憶に新しいところですが、今は従来の労働法に加えて人権問題が重視されるようになりました。国内法を守ることは当然ですが、国際基準にも配慮する必要があります。SDGs(持続可能な開発目標)という言葉は聞かれたことがあると思いますが、これに掲げる17の目標のうち、ほとんどは人権尊重にかかわるものです。
●中小企業も世界とつながっている
「うちは大企業とは関係ない」と思われる方も多いと思います。しかし、自社の顧客である発注元はどうでしょうか。2つまたは3つさかのぼれば、名の通った企業名が出てきます。そのような企業は当然ながら世界とつながっていますから、たとえ中小企業でも、サプライチェーンの一員として大企業並みの規制を受けるようになります。
●問題のある企業はサプライチェーンから排除される
大企業は、サプライチェーンの一員である発注先に、1社でも問題があると全体の評価を落としますから、そのような企業を排除しようとします。それは取引停止を意味するわけですから、経営には大きな打撃です。そのため、今後はコストダウン等の要請に加えて、人権遵守も視野に入れて対応する必要があるのです。

 

3.第3ステージにどう対応するか
お役所や従業員対応に加えて、サプライチェーン対応が求められるわけですが、ひと言でいうなら人権尊重経営です。もちろん、何か特別なことをする必要はなく「人を大切にすること」が基本です。
●従業員は重要なステークホルダーだと意識すること
ステークホルダーというのは、企業が経営をするうえで、直接的または間接的に影響を受ける利害関係者のことです。具体的には、従業員、顧客、仕入先、金融機関、地域社会、各種団体などです。その筆頭に揚げましたが、人権を考えた場合に従業員は最も重視すべきステークホルダーであると意識することが重要です。
●人を大切にすること
人権尊重経営というと何となく小難しく感じますが、簡単に言えば人を大切にすることです。正確には、相手が「大切にされていると感じること」です。大切にすべきは、従業員をはじめとしたステークホルダーです。そのために法律を守ることは当然として、自分がされて嬉しいことを相手にしてあげ、されて嫌なことはしないことが大原則です。
●全社で取り組むこと
人権について、発注元など顧客企業から確認を求められる事もあります。取引関係に直結していますから、場合によっては労働基準監督署など、お役所の調査よりシビアかもしれません。それらに対応するには、労務部門だけでなく、トップはもとより、営業や製造、購買部門の責任者、従業員代表もあわせた全社での取り組みが必要になります。

 

2024年は辰年、「変革」や「激動」の年ともいわれています。中小企業の労務においても、お役所、従業員、そして新たにサプライチェーン対応という変革が求められる年になるのではないでしょうか。