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「新しい時代の働き方に関する研究会報告書」を読み人材紹介の将来を想う

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

「働き方改革関連法」の施行が始まったのが2019年4月からですから、かれこれ約4年半経過しました。
「多様な働き方」の実現が図られる中、新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言が2020年4月に発せられてテレワークが急速に浸透したこと、IT技術の進化によるプラットフォームビジネスの伸展なども加わって、人材の働き方そのものも人材の「働く」ということについての考え方も、個別化・多様化している事例を挙げれば枚挙に暇がありませんし、「働く」といってもその形態は「雇用」に限らず、「請負」「委託」といった、現行の労働法では保護されない働き方が急増しているように思います。

このような中、新しい時代を見据えた労働基準関係法制度の課題を整理することを目的として、厚生労働省の「新しい時代の働き方に関する研究会」(座長:今野浩一郎学習院大学名誉教授・学習院さくらアカデミー長)において17回にわたり開催され検討が行われ、とりまとめられた報告書が過日公表されました。
添付された資料はかなりボリュームがありますが、報告書本文は26頁と、コンパクトですっきりしたものです。
第1 本研究会の契機となった経済社会の変化
第2 新しい時代に対応するための視点
第3 新しい時代に即した労働基準法制の方向性(守り方・支え方)
第4 未来を担う全ての方へ
という章立ては見事に起承転結となっていて、「労働基準法制のあり方を検討する。」と切り出しているものの、「労働基準法制」とは、「労働基準法」を中心とした「労働安全衛生法」「労働契約法」「労働者災害補償保険法」等、労働者の保護及び個別的な労働条件の設定に関する関係法令全体を主として指すと定義し、労働契約法については罰則や行政監督権限がなく、事業場を前提としていないほか、その成り立ちは労働基準法のもの(鉱業法や工場法等を前身としたものであること等)とは異なると整理してのスタートには、小気味よく引き込まれました。

この報告書については、公表された日に、連合が事務局長談話をHPに掲載し、「労働基準法制による労働者を『守る役割』は、今後も不変かつ重要であることが強調された点は評価できるが、労働組合の組織化をはじめとする集団的労使関係の一層の構築や強化の観点が不十分であり、『労使対等の原則』を確実なものとする取り組みこそが重要である。」としています。労使対等の原則を確実なものとすることは何より重要で、そのためには現状の労働組合の組織率傾向が気になるところでもあります。雇用主側の経団連や商工会議所などのコメントも是非伺いたいと思っています。

識者の予想の一致しているところは、おそらく今後この報告書をもとに労働法学者などによる研究会が作られ、そこでの論議を公労使それぞれに、あるいは一堂に会して、日本の新たな労働法制への道を具体的に作っていくことになるということではないでしょうか。

この報告書は企業と働く人への期待を述べて締めくくっていて、ビジネスと人権、人的資本投資への取り組みについて述べ、広く情報開示をすることを企業に求める一方、働く人に対しては自主的な能力開発と、法制度の理解を深めること、労働組合などによるネットワーク構築の重要性、人材相互の尊重を訴えています。

報告書に書かれた言葉のひとつひとつに頷いて読んだ筆者の領域では、この労働基準法をはじめとする新たなルールに基づく「雇い方」「働き方」を、求人者と人材に情報提供して雇用(だけではなく請負や委託での仕事も含めて)関係の円滑な成立をはかる事業者、業界として何をしなければならないのか、そのために今何を準備しなければならないのかを考える必要性を再認識し、そのヒントが満載された報告書とも言えます。
例えば、研究会のヒアリングに応じた企業は多種多様ではあるものの「集団・個別双方の労使コミュニケーションを行い、健康管理・職場環境改善を重視し、社員とのコミュニケーションを踏まえて改善を図っている。」という共通項が指摘されています。人材紹介会社としては、ご紹介した人材が新たな職場で今まで以上にやりがいを感じ輝いていただくことが一番の喜びなのですから、このようなコミュニケーションが活発で風通しのよい企業からの求人を開拓したいという思いは当然です。そのためには将来の雇用主である求人者の、なお一層の職場情報の開示が必要なのは言うまでもありません。
また、報告書には人材の働き方に関するニーズ調査についても記述されていて、労働者の求める働き方は多様であり、自らの働き方について明確な意思を持っていない層も半数以上の一定数存在しているとしています。人材紹介コンサルタントの立場から見れば、このような人材から相談を受けた場合、職業経験を通じてのキャリアの棚卸を助言して、自らの適性能力を客観視することから始めることになるのでしょう。
一つの企業で長く働くことをこれまで以上に重視する層(57.9%)も存在しており、安定志向がうかがえ、さらに今後仕事よりも仕事以外の生活を大切にすると回答した層は 74.3%を占め、多くの人材が仕事以外の生活を大事にしたいと考えていることにも言及されています。
自らの生き方について様々な考え方を持つ人材も、自身の成長や熟練という進化を続けるわけですし、その能力を発揮する場である企業も、時代と共に変革脱皮しなければ生き残れないことも事実です。企業・人材それぞれに変化し続ける中、安定志向といっても職業人生の中で「企業と人材の関係」が永続的にずっと幸福であるとことは極めて稀だと言わざるを得ません。職業人生の中でふと立ち止まって「勤務先と自分の関係」を見直そうかという人材に対して、「今の時代はこちらの環境のほうがご自分の能力を活かすことができ、適性にも合っているのではないでしょうか?」と提案できる人材コンサルタントが、人材紹介業界に求められていることを痛感します。
さらに言えば、紹介する働き方は「雇われて働く」だけではなく、兼業副業も含め、「請負って働く」「委託されて働く」スタイルについても、それぞれのメリットデメリットを雇用主(元求人者)にも人材にもわかりやすく説明できる知見能力も必要でしょう。

きっとこれから何度も何度も読み返しながら、今までとは異なる「雇い方」「働き方」の到来に対して準備するスタート地点にこの報告書は筆者を立たせてくれました。
以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)