インフォメーション

労働あ・ら・かると

仕事は大事だが、“いのち”をもっと大事に ―睡眠時間6時間未満が45%、寝不足では心身に悪影響がー

労働評論家・産経新聞元論説委員・日本労働ペンクラブ元代表 飯田 康夫

~令和5年度過労死白書を読む―何を読み解くか

働く人に「あなたにとって、いま何が大事ですか」と問いかけると、「まず健康で働くことが大事です」との答えが返ってくる。「しっかり仕事をして、毎月、給与を得ないとわが家の生活・家計が悲鳴をあげるからです」という。もっともな答えです。ですが、もっと大事なものを忘れてはいませんか?と問いかけたい。それは、働き過ぎから過労で倒れる、時に不幸なことだが過労死もあり得る。もっとも大事なのは、あなた自身の“いのち”なのですーと。

政府は10月13日、過労死白書(令和5年度版過労死等防止対策白書)を閣議決定し、厚生労働省から過労死白書が公表された。同白書は、過労死等防止対策推進法第6条の規定に基づいて国会に毎年報告を行う年次報告書である。令和5年版の白書は、大きく分けて3つの特徴的な動向、分析を内容としている。公表された文書は、やや堅苦しい文言だが、以下のように記されている。
その一つは、令和3年7月に閣議決定をみた「過労死等の防止対策大綱」に基づく調査分析として、睡眠の不足感が大きいと疲労の持ち越し頻度が高くなり、うつ傾向・不安を悪化させ、主観的幸福感も低くなる傾向があること。芸術・芸能分野における働き方の実態、メディア業界や教職員の労災事案分析の結果などについての報告だとする。
初めて芸術・芸能分野にメスを加えたのが今年の特徴だ。
その二つ目は、長時間労働の削減やメンタルヘルス対策、国民への啓発、民間団体の活動に対する支援など、令和4年度の活動を中心とした労働行政機関などの施策の状況についての詳細な報告とある。
その三つ目は、企業や自治体における長時間労働を削減する働き方改革事例やメンタルヘルス対策、産業医の視点による過重労働防止の課題など、過労死防止対策のための取り組み事例をコラムとして紹介している。

中でも注目されるのが、長時間労働など働き過ぎと睡眠時間の動向だ。
白書には、労働・社会分野の調査(就業者ら9,852人対象のアンケート)が詳細に記載されている。その中で、睡眠の状況をみると、実際の睡眠時間は、「5~6時間未満」が35.5%でもっとも多く、次いで「6~7時間未満」が35.2%、「5時間未満」が10%という分布をみせた。睡眠6時間未満で働く人が45.5%存在していることが明らかになった。過労死の現実をみると、終電も終わり、深夜タクシーで午前様の帰宅、睡眠3~4時間で、翌朝8時には出社するケースが連続し、過労死を招いた労災事案が思い浮かぶ。
では、理想とする睡眠時間はどうかをみると、「7~8時間未満」が45.4%でもっとも多く、次いで「6~7時間未満」の28.9%だった。
実際の睡眠時間と理想とする睡眠時間との間(乖離時間)には、少なくとも「1時間不足」が浮上。現実と理想との隔たりから心身の疲労が抜けきらず、心理的な悪影響が現実問題として過労死予備軍など大きな課題となってきていることが解明され、政労使には、力を合わせて過労死ゼロを目指した取り組みの重要性が改めて求められているといえる。

これを1週間単位でみると、実労働時間別に理想とする睡眠時間と実際の睡眠時間の乖離時間では、労働時間が長くなるにつれて、乖離は広がり、「週60時間以上働く人」では、「理想の睡眠時間以上、睡眠が取れている」は22.3%に過ぎず、「理想とする睡眠時間より1時間不足」が34.4%、「理想とする睡眠時間より2時間不足」が27.9%、同じく「3時間以上不足」が9.7%など、合わせて72%が睡眠不足を実感、全体的に理想の睡眠時間には到底及ばない厳しい現実の姿が描き出された。

睡眠不足で職場に出勤しても、頭が朦朧としていては、仕事に集中できないばかりか、仕事そのものがはかどらない。安全管理上も不注意から思わぬケガに遭遇しては、生産性向上も仕事の効率も約束できず、成果は下がる一方だろう。企業の経営トップをはじめ、中間管理職も、労組の幹部も、こうした睡眠不足の働き手が職場に蔓延するようでは、企業の明るい明日は望めないことを、真剣に捉え、働くことも大事だが、いのちをもっと大事にする雰囲気づくりを強力に進めてほしいものだ。

毎年11月は、「過労死等防止啓発月間」が展開される。今年、厚生労働省からは、「しごとより、いのち。」というチラシが配布される。そして、「仕事は本来、やりがいや生きがいを生みだし、人生を豊かにしてくれるもの」とし、「だからこそ、働き過ぎやストレスで心や体の健康を損なうのは絶対にあってはならないことです」と過労死ゼロ、ハラスメント追放を掲げ、「すべての人が健康で、毎日イキイキと働き続けられる社会へ、みんなで一緒に考えてみませんか」と呼びかける。全ての職場で、“いのち”の大切さを改めて学び合いましょう。

因みに、過労死などの労災補償の状況をみると、業務による過重な負荷によって、脳・心疾患を発症したとする労災請求事案は、平成14年度に819件と800件を超えて以降、700件台から900件台で推移、令和元年度936件、同2年度784件、同3年度753件、そして同4年度803件を数えている。このうち労災支給決定と認定された件数は、平成14年度に317件と300件台を超え、同19年度には392件にまで高まったが、その後、減少傾向にあったものの、令和4年度は194件で前年度より22件増加している。業種別では、運輸業で56件、建設業で30件、卸・小売業で26件、製造業と医療・福祉でそれぞれ14件などだ。
精神障害の労災補償状況をみると、深刻ないじめ、嫌がらせ・パワハラなど業務による心理的負荷で精神障害を発病したとする労災請求件数は、増加傾向にあり、令和4年度は2,683件で、前年より337件増加。労災支給決定(認定)件数は、平成24年度以降500件台で推移していたところ、令和2年度に608件と600件台に乗り、同3年度に629件、同4年度には710件と記録を更新している。労働相談も相変わらずパワハラ・嫌がらせが目立ち、厚労省や連合の労働相談窓口には、常時相談件数でトップを占めており、職場からハラスメントという妖怪を如何に追放するか。その対応が重要なテーマとなっている。

ここは、職場で過労死ゼロを目指し、職場に蠢くパワハラなどハラスメントをどうなくしていくか、働きやすい職場づくりは、経営トップをはじめ、労使での真剣な討議と追放策が求められている。やはり、ILOが掲げるディーセントワークー働き甲斐のある、人間らしい仕事場をつくりだす取り組みを意欲的に進めてほしいものだ。