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職業紹介事業の情報公開は進む。一方求人者の情報公開は?  ―労働政策審議会需給制度部会を傍聴してー

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

8月28日に開催された労働政策審議会(職業安定分科会労働力需給制度部会)を傍聴しました。通常、職業紹介・労働者派遣の許可にかかる議題のみの審議の場合は公開されないので傍聴できないのですが、今回は「職業安定法施行規則の一部を改正する省令案要綱について」の諮問と、労働者派遣に関する報告事項が議題に掲げられていたので公開開催となり、傍聴することができました。
今回の諮問内容は、職業安定法施行規則の一部を改正する省令案についてのものでしたが、これは6月16日に閣議決定された規制改革実施計画(P.90)において、「医療・介護・保育分野における人材確保の円滑化のための有料職業紹介事業等の制度の見直し」として、職業紹介事業者に対して厚生労働省の「人材サービス総合サイト」上での情報提供を義務づけている事業所ごとの離職状況について、令和5年度中に離職者数の情報提供期間を現行の2年から5年へ延長するとされたことを受けての措置ということになります。
(注:職業紹介事業者が情報提供を義務づけられている事業所ごとの離職状況は、無期雇用就職者が就職後6カ月以内に解雇以外の理由で離職した数)

この閣議決定が報道されたとき、筆者が思ったのは「職業紹介業には大きなところも小さなところもあり、年間紹介者数(就職者数)も大きく差があるのに、離職者数という分子のみの公表期間を延長しても、分母の就職あっせん者を共に把握しなければ、どのような意味があるのだろうか?」「この閣議決定をするにあたり、実情を知る人が関わっているのだろうか?」ということでした。
今回の諮問内容には、実務を知る職業安定局の方々により、離職者数・就職者数双方について公表期間を5年に延長する案とされています。
職業紹介事業者は、毎年その事業実績について、就職者数・離職者数を含めて詳細に記載した事業報告書の労働局への提出が義務付けられているのですから、今回の職安法規則改定が特に事業者の事務負担を増加するものでもなさそうなに思えますので、筆者としても(本日の部会の委員の皆様からも反対意見は聞かれませんでした。)特に反対するものではありません。
むしろ、筆者の私見としては、この「離職者数の公表」が適切な紹介事業者の選択に役立てられているのだろうか?そもそも役立つ指数なのだろうか?という点が気になります。
この離職者数の公表が義務付けられて以降、ランダムではありますが、公表されたデータを閲覧してきた筆者の印象としては、入職人材の定着の良し悪しは、人材を紹介した事業者によって異なるのではなく、職種に影響されるものが大きいのではないかということが頭に浮かんでいます。
厚労省HPに掲載されている具体的な調査機関による分析でも、「紹介会社経由の離職率とその他の離職率には差がないとする調査結果もある」と指摘されています。

職業紹介事業者の情報公開が進むことは、長い年月この業界に身を置いてきた筆者としても、総論として大賛成です。一方で、親身に相談に乗り就職した人材がぞんざいに扱われると、悲しみを越えて怒りさえ感じるという人材紹介事業者もいることは事実でしょう。
そのような事業者からは「紹介先の求人者の働く環境について、もっと情報公開されないものか。」という声も聞きます。若者雇用促進法に基づいて、求人者の職場情報の開示を求めても相手にされないという声も聞きます。

現在の政策に掲げられている「成長分野への円滑な労働移動」は、移動する人材の負荷に想いを馳せた「人の心のある仲介行為」と、何より紹介先の職場でのやりがいのある労働環境と「人材を尊重する労務管理」があってこそ、実現できると思います。
人材の離職理由には、賃金や労働時間以外にも、職場の人間関係や雰囲気によるものも散見されます。
目先の売り上げにとらわれ、心無い紹介をする人材業は論外ですが、求人者の方々にあっても、離職の理由を仲介者にのみ押し付けるのではなく、離職者の本音をに耳を傾けることを期待し、職場の情報をもっと公開する時代が来ることを願いつつ、労政審会場を後にし、この原稿を書き上げました。
以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)