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お盆休みを制する会社が新人の定着を制する

社会保険労務士 川越雄一

「えっ、これからという時に何で……」 お盆明けの9月ころになると、このような思いをする会社も少なくありません。せっかく採用し、そろそろ慣れてきたころに辞められてしまうのですが、お盆休み(夏季休暇)がキッカケだったりします。それをいくらかでも防ぐには、お盆休み前のこの時期に、雇用のキホンを再点検しておくことも重要です。

1.お盆休みに会社を評価される

以前ほどではないにしても、お盆休みには親戚や友だちが集まることも多いのではないでしょうか。そのような場で話題になりやすいのが会社のことであり、いろいろな人たちから評価されることになります。
●お盆休みに親戚や友だちが集まれば
今年のお盆休みは、コロナも5類に移行されたことから例年になく人の交流が盛んになると思います。親戚や友だちが集まることも多いことでしょう。特に、今年就職した新人にとっては初めてのお盆休みです。お互いに積もる話もあるでしょうが、就職先のことは本人以上に周りが気にしているものです。
●会社のことは話題になりやすい
「就職した会社はどう?」などと、親戚や友だちから尋ねられることも多いと思います。
親御さんや親戚なら大切な身内がどのような会社で働いているか心配でしょうし、友だちも、自分の勤務先と比べてどうなのか気になるところです。いずれにしても、会社のことは良くも悪くも話題になりやすいのです。
●居合わせた人たちに評価される
会社のことが話題になれば、当然そこに居合わせた人たちに評価されることになります。「良い会社に入ったね」、一方では「その会社、ちょっとやばくない」などと評価もいろいろでしょう。もちろん、このような場での評価は人から聞いた表面的な話が評価基準ですから正確性からいくと疑問ではありますが、世間の評価とはそのようなものです。

2.「だったら今のうちに……」
新人には、自社で当然のように行われていれば、それが世間の常識だと受け止めるでしょう。しかし、お盆休みに友だちなど身近な人から世間の常識を知ってしまえば、会社への信頼は一気に失われ、「だったら今のうちに……」と、心が揺らぎかねません。
●自社の常識は世間の非常識だったりする
「えっ、あなたの会社、今どきそんなことしているの?」 たとえば、有給休暇を申請する場合に理由を書かされたり、残業代が10時間分打ち切り、もしくは残業代がないというのはどうでしょうか。もちろろん法律上はアウトですが、当たり前だと思っていたことが、友だちのひと言で世間の非常識や違法だとわかったらどうでしょう。
●隣の芝生は青い」
「隣の芝生は青い」というのは、何でも他人のものはよく見えるものだというたとえです。
雇用関係においても同じような立場の友だち同士、どうしてもお互いの処遇は気になります。そうなりますと、勤務時間が少し短かったり、残業代がキチンと払われたりするだけでも「良いな、それに比べてうちの会社……」ということになります。
●切りだされてからは遅い
人影まばらな事務所で「ちょっとお話が……」とくれば、大体は退職の申出です。お盆休みにいろいろな人と話し、「だったら今のうちに……」と会社に見切りをつけるパターンです。辞めたくなる周期といわれる三日三月三年(みっかみつきさんねん)、2つ目の周期はこうしてやって来ます。残念ながら、こうなってからでは手遅れです。

3.雇用のキホンを再点検しておく

新人の定着に影響を与えやすいお盆休みですが、これを制するには、ちょうどこの時期に雇用のキホンを再点検しておくことが有効です。何も特別なことはせずとも、ここがキチンとされていれば新人の心が揺らぐことはありません。
●勤務実態が雇用契約書と相違していないか
採用時には労働条件などの記載された雇用契約書を取り交わします。具体的には始業・終業、休憩時間、休日、賃金額などですが、実際にそのとおりになっているかどうかです。また、雇い入れ時の健康診断が実施されているかどうかも重要です。このようなキホン的なことができていないと、世間の評価はガタ落ちです。
●試用期間満了時のフォローはしてあるか
試用期間は3カ月くらいの会社が多いと思います。では、試用期間満了時に何らかのフォローがしてあったかどうかです。フォローというのは、試用期間中の勤務実績に対して会社の評価を伝えたり、正社員登用後の仕事内容や、処遇の変更があればその内容を伝えたかということです。このようなことで会社への信頼は高まります。
●労働時間管理はキチンとできているか
今の時代、労働時間管理は雇用関係の肝ですから、ここをキチンと行っているかが会社の評価を分けます。時間管理は残業代支払いにも直結していますから、お盆休みの場でも話題になるのは必定です。やる気云々(うんぬん)も大切ですが、それはキチンとした時間管理ができていればのことです。

新人にとって初めてのお盆休みは、親戚や友だちから会社を評価され、場合によっては早期離職に心が揺れる時期でもあります。ですから、世間の評価に耐えられるよう、この時期に雇用のキホンを再点検しておきたいものです。