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労働あ・ら・かると

賃金アップの転職。満足度アップの転職。

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 

昨年10月に策定された「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージは、今年になって令和5年度政府予算案を踏まえて更新されています。
岸田内閣の各所での演説やこの政策パッケージには、働き方改革のさらなる推進、賃金上昇の好循環実現のために、これまでの「賃上げ支援」に加えて「人材の育成・活性化を通じた賃上げ促進」「賃金上昇を伴う円滑な労働移動の支援」「雇用セーフティネットの再整備」の一体的、継続的な取組みが掲げられています。

「賃金上昇を伴う円滑な労働移動」について、歴史ある人材紹介業の中には「何をいまさら/当たり前ではないか」との感を強くしている方々もいらっしゃるようです。少なくとも昭和平成のホワイトカラー人材紹介業にとっては、かかわる人材の多くが「現在の勤務先で仕事を続けながらキャリアアップを目指す。」という姿勢でしたから、もし転職検討先の求人者の提示労働条件(主に賃金)が現在より下回れば、その求人・スカウト依頼には応えずに現職に留まって、引き続き希望に合った好条件の転職先を探すことになるので、「賃金上昇を伴わない」ことはめったになかったのではないでしょうか。
例外は「再就職支援」や「Uターン転職紹介」の場合で、前者においては希望退職募集に応じたり、事業場閉鎖に伴う解雇という状況の人材のお世話をするので、人材ご本人のお気持ちとしては「自分はこれだけの高収入を得ていた。/評価されていた。」と思っていらっしゃったとしても、厳しいようですが「でも現時点では雇用保険以外の収入はゼロではないですか。」というところから人材コンサルタントの助言が始まったものです。
後者については、地域による物価・生活費の差を考慮していただいたり、実家があって住むところはある環境の出身地に家賃の高い都市部から戻るのですから、多少の賃金低下はあったとしても、納得いただける転職紹介でもあるわけです。

また、いくら賃金が多くなっても、ワークライフバランスを悪化させるような転職は志向しない時代です。そこでは、賃金(はもちろん最重要課題であることに異論はありませんが)だけでなく、「満足感」も重要な要素だと思います。そして、その「満足感」は人それぞれの価値観人生観でも異なってくるものではないでしょうか。

何人かの人材紹介コンサルタントに聞いてみると、最近の傾向として賃金アップを志向する人材はもちろん多数ではあるものの、「テレワーク・在宅勤務制度が整っているかどうか。」という条件を重視することがずいぶん目立つそうです。「新しい働き方」が実現できるのであれば、強く賃金アップにこだわることがないというこのような人材の増加は、これからの日本の働き方をどう変えていくのか、目が離せません。
物価上昇を上回る収入アップをはかることは当然ではあるのですが、これが実現できない雇用主のもとからは人材が流出するとしても、「多様な雇い方」の組み合わせによって企業経営を行い、満足度の視点でも収入の面でも人材を尊重する企業の方が人が集まるという時代が到来する兆しのように思えてなりません。
以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)