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特定募集情報等提供事業者の届出状況を見て

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 

 必ずしも広く知られていることではないように思いますが、昨年春に成立公布された改正職業安定法(「雇用保険法等の一部を改正する法律」に含まれます)は、昨年の10月に全面施行されました。

 今回の職業安定法改正は、ここしばらく続いた職業紹介事業に対する規制の改定ではなく、IT技術の進歩と共に急速に発展している求人メディア「募集情報等提供事業」に焦点が当たったものでした。

 新しく登場したものも含め、様々な求人メディア等について広く法的に位置づけ、依拠すべきルールを整備しようとする改正の主眼は、一言でいえば「情報の的確表示」だと筆者は受け止めています。これは求人メディアだけではな く、職業紹介事業者、労働者募集を行う求人企業にも同様に義務づけられるものです。

 改正職業安定法により、「特定募集情報等提供事業者(募集情報等提供事業者のうち、求職者に関する情報を収集して行うもの)」については届出が義務づけられ、既存の特定募集情報等提供事業者は昨年12月末までに手続きがなされたところです。

 その届出状況は、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」に公表されており、届出順に付されている届け出受理番号の最後(令和4年12月22日受理)で559社(組合や社団財団法人等も含む)となっています。

 筆者が日頃、Webを閲覧している印象からすると、とても少なく思えますが、これから周知や指導が進めばもっと増えるのではないかと思います。

 募集情報に限った話ではありませんが、スマホという「一億総端末携行」の時代が到来した今、以前に比べれば情報を収集することがずうっと簡便になり、あっという間に大量の情報を集めることが可能な社会になったことには、みなさん異論はないでしょう。

 昭和の時代を思い起こせば、情報のほとんどはテレビ、ラジオ、新聞という権威ある(?)編集を経たものが配られていたのではないでしょうか。もちろん「口コミ」という情報も貴重だったでしょうが、向こう三軒両隣の噂話の信頼度は、ケースバイケースだったのではないでしょうか。

 第二次大戦中のように、軍部発表の扇動情報がラジヲを通じて国内を席巻した歴史があったことを顧みると、「編集」について全面的に信頼してはいけないという教訓もあるわけです。

 しかし今、一億人が携行している端末を使えば受信も発信も、誰にでもできる時代になったということですし、膨大な量の情報が集まっても、自らに真に必要な情報を選別入手することがかえって困難な状況も見られます。

 人生の大きな要素である「働く」ことについて、「編集」「点検」を経ていない大量の情報によって人材が混乱し、選択肢を誤ってしまう社会状況の出現を避けたいのは当然ですので、その選択肢情報について規制の対象とすることは、それが誤った規制でない限り必要なことでしょう。その意味で今回の職業安定法改正の方向は、始まったばかりですので即断は禁物ですが、基本的には間違ってはいないと思います。もちろんアラを探せば、海外の事業者のサーバーには規制の手が届かない等、進化したWebの現状に手が届くのかといった不安要素はありますが。

 一方で、職業紹介事業者にとっては、これからは求人と求職を仲介するマッチングの的確さを従来以上に求められるように思います。一定程度取捨選択をした上で、その取捨選択(=編集)の理由を人材に対して判りやすく説明できること、求人者に対して何故この応募者を推薦するのかを整理して説明できることが求められますので、ますます「適切な助言」ができるかどうか、仲介者のバランス感覚が求められる時代になったということではないでしょうか。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)