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賃金明細は堂々と説明できるようにしておこう

社会保険労務士 川越雄一

賃金明細は基本給や手当など、賃金の内訳を書いた書面です。今は紙ではなくネットで見られるようになっている会社も多いのですが、従業員に対して賃金の内訳を示すことには変わりありません。しかし、この内訳が曖昧(あいまい)だったり、質問されても説明できないと不信感を持たれてしまいます。ですから、賃金規程や雇用契約書に基づき、支給目的や支給基準を堂々と説明できるようにしておくことが重要なのです。

1.「この手当って何ですか?」

どのような名称の手当を設けるかは会社の自由です。しかし、イメージだけの○○手当では「この手当って何ですか?」と聞かれた場合に説明できるでしょうか。
●大手企業顔負けの手当名
手当の名称は会社が自由に決めれば良いわけですが、なかには職能資格制度などを前提とした職能給(手当)など、大手企業顔負けの手当名を設けている会社もあります。もちろん、職能資格制度がありキチンと運用された結果として手当に反映されていれば良いのですが、ただ名称だけ真似たところで……。
●従業員に対して説明できるか
自社で設けている各種の手当について、従業員から次のような質問を受けた場合に説明できるでしょうか。
・職務手当は何ですか?
・職能手当とありますが私の職能等級は何級ですか?
・役職手当支給の意味合いは何ですか?
・営業手当は何のために支給されるのですか?
・特別手当とは何ですか?
●従業員の家族が理解できるか
賃金明細は1カ月の働きに対する成績表みたいなもので、基本給や手当が記載されます。基本的には従業員本人が理解し納得していれば良いのですが、家族の理解も重要です。たとえば、男性従業員の妻がしっかり者だった場合、当然、夫の賃金明細を目にします。「お父さん(夫)、この手当は何なの?」「何で営業手当が残業代なの?」。

2.これでは不信感を生む

今は堅実な人が多いので、会社が適当に付けているような手当などすぐに見破るし、下手をすると会社への不信感を生みます。
●仕事の質と量に対する手当が混在
手当には業務の質に対するものと量に対するものがあります。前者は業務の重要度や責任の度合いにより支給されますが、役職手当や営業手当などです。後者は労働時間などの業務量に応じて支給されますが、時間外労働手当や休日労働手当などです。つまり両者は支給の目的が根本的に違うのですが、これが混在していると、手当自体の意味合いが薄れます。
●後付け残業代見合いぶんとしての手当
例えば、役職手当や営業手当を業務における責任見合いぶんのような支給をしておきながら、後になって残業代見合いぶんだとするような場合です。当初からそのような説明を受けていないのに、後付けだと何となく嘘っぽくなります。特に、この手の話は何か問題が起きた時に出てくるものなので、なおさら不信感を生みやすいのです。
●賞与や退職金を減らすがための手当
賞与や退職金を基本給の何倍としている会社にありがちな話です。例えば基本給を8万円くらいに設定し、ほかは手当として適当に支給しているケースです。従来からいる古参の従業員はともかく、新しく入って来た人には不信感を持たれます。そして、まっとうな従業員からは「何てせこい会社だ」とのレッテルを貼られるのは必定です。

3.こうやって堂々と説明できるようにしておく

今は労務に限らず説明責任が重視されるようになりました。特に手当などの支給項目について、賃金規程や雇用契約書に基づき堂々と説明することが従来以上に求められています。
●賃金規程に盛り込み周知しておく
賃金規程というのは就業規則の一部ですが、手当の支給目的・支給基準を盛り込み、周知しておきます。周知というのは日頃からキチンと見せて理解させておくということです。こうしておくことにより、手当自体の意味合いが理解しやすく、場当たり的に運用が変わることもないので会社への信頼感が高まります。
●雇用契約書に盛り込む
雇用契約書というのは、雇用関係における会社と従業員との約束事を就業規則等に基づき取り決めたものです。本人に支給する手当についても名称と金額を盛り込んでおきます。採用時はもちろんのこと、手当額の変更時もその都度取り交わします。また、期間限定で支給する場合は「〇年〇月から〇年〇月支給まで」というように支給期間を明記しておきます。
●説明できない手当はつくらない
一時的な手当として恩恵的に支給するものは別にして、従業員に説明できないような手当はつくらないことです。「同一労働同一賃金」が中小企業でも2021年4月から適用になっていますが、パートタイマーなど、呼称にかかわらず同じような仕事をしている人には同じ手当を支払わなくてはならず、手当の意味合いがますます重視されるからです。

賃金は雇用関係において根幹をなすものですが、その額もさることながら、賃金明細に書かれた内訳を堂々と説明できることが信頼関係を築く第一歩なのです。