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新入社員を迎える前に“バケツの穴”をふさいでおこう

社会保険労務士 川越雄一

今年も新入社員を迎える時季が近づいてきました。もちろん、中小企業の場合は新卒より中途採用が多いと思いますが、いずれにしても新入社員であり、程度の差こそあれ会社としては期待を持ちます。しかし、せっかく採用できたのに3カ月ほどで辞められてしまうことも少なくありません。では、その原因は何で、それを防ぐにはどうしたら良いのでしょうか。

1.せっかく採用できても……。

新入社員を迎えるというのは、程度の差こそあれ会社としても期待が膨らみます。しかし、会社によっては鬼門の3カ月があるようで、それくらい経った頃に早期離職を繰り返します。
●新入社員に膨らむ期待
新たに人を採用する場合、少なからず期待が膨らみます。定着の悪い会社ほど「今度こそは大丈夫」という期待が強いものです。そうあってほしい願望かもしれません。もちろん、採用時はお互いに良好な関係です。採用時はお互いに遠慮もあり、良いところしか見えないからです。しかし、お互いに期待の裏返しは不満でもあります。期待が大きいとなおさらです。
●鬼門の3カ月
昔から人が会社を辞めたくなる周期として「三日三月三年(みっか・みつき・さんねん)」といわれていますが今も同じです。3日はともかく、3カ月くらい経ったころが鬼門のようです。「すみませんが……」と神妙な顔をしながらもサッサと辞めていきます。3カ月くらい経つと新入社員もだいぶ会社に慣れてくる頃で、良くも悪くも会社の雰囲気を感じるのでしょう。
●早期離職で採用活動は振り出しに
新入社員が早期離職してしまうと採用活動は、また振り出しです。ハローワークに求人票を再公開し、いつ来るか分からない応募をひたすら待つ日々が始まります。仮に応募があったとしても、ちゃんと面接日に来てくれるかどうか、内定後に採用を辞退されないだろうかと心配は募ります。「うちに何か問題があるのだろうか……」。

2.穴の開いたバケツに水を注いでも

新入社員が早期離職を繰り返す場合、その原因の多くは会社の雰囲気にあります。つまり、雰囲気の悪い会社は穴の開いたバケツのようなもので、いくら新入社員を採用したところで歩留まりは下がるだけです。
●穴の開いたバケツでは
当然のことですが、穴の開いたバケツにいくら水を注いだところで満杯になることはありません。歩留まりが悪いのです。同様に、採用においても受け皿である職場内の雰囲気が悪いと、まっとうな新入社員は働き続けようとは思いません。人材紹介会社などに依頼し、多額の採用費用をかけても捨て金です。
●早期離職が多い会社は高コスト・低生産性
早期離職を繰り返す会社の多くは高コスト・低生産性です。従業員が離職すると通常は後任者へ引き継ぎが必要であり、その期間の賃金が二重になります。また、多くの仕事は経験年数が物をいうため、早期離職が多いと仕事に不慣れで、作業時間がかかったりミスによる手直しも多くなり生産性は低くなります。
●早期離職が多いと会社の評判を落とす
特に中小企業の場合は地域で事業を行っていますので、早期離職が多いと会社の評判を落としやすくなります。「あの会社いつも求人が出ている」と、多くの求職者は応募をためらいます。ただでさえ、求人難の時代、このような噂が立てば、会社の採用活動は窮地(きゅうち)に追い込まれかねません。

3.こうやってバケツの穴をふさぐ

バケツの穴をふさぐとは、職場の雰囲気を良くするということです。職場の雰囲気というのは今いる従業員が醸し出すものですから、まずは彼らを大切にし、新入社員を育てようという気にさせます。
●トップが新入社員の育成方針をあらかじめ示す
新入社員の育成方針をあらかじめ示すのは、新入社員が入って来る前の、いわゆる地ならしのようなものです。育成方針を伝えることにより、新入社員の育成についてトップの本気度が伝わりやすくなります。トップが本気だと今いる従業員も本気になります。
従業員はトップの鏡みたいなものですから、トップが本気になれば従業員も本気になります。
●育成には時間がかかることを覚悟する
カツカツの人員でやっている会社の場合は、1日でも早く戦力になってほしいところです。しかし、一人前になるには通常3年かかります。ですから、ここはグッとこらえてじっくりと構えます。「急(せ)いては事を仕損じる」といわれるように、急いだところで、指導する従業員や新入社員にプレッシャーをかけて潰してしまうだけです。
●今いる従業員を大切にする
人は大切にされるから、人を大切にします。ですから、新入社員を大切に育てたいのであれば、まずは今いる従業員を大切にします。大切にするというのは単に甘やかすのではなく、従業員の人格を尊重し思いやりを持って接することです。もちろん、こちらの独りよがりではなく従業員が会社から大切にされていると感じることが重要です。

早期離職ほど無駄なことはありません。それを防ぐには、バケツの穴をふさぐように、トップが新入社員の育成方針を示し、まずは今いる従業員を大切にすることが重要なのです。