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これからの仕事仲介業の目指すもの ~あらゆる仕事の仲介を手掛けるのか、適切な助言付きの雇用仲介にこだわるのか~

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 今年3月に成立し、10月から全面施行となっている改正職業安定法により届出が義務づけられた「特定募集情報等提供事業者(労働者になろうとする者に関する情報を収集する募集情報等提供事業者)」の届出期限は今月末となっています。
 いわば職業紹介の隣接業界である募集情報等提供業界について、法律というルールの中に明確化していくことは必要だと思いますし、今回の職業安定法改正の主眼は、入職経路の3割を担う募集情報提供業の状況を、厚生労働行政としてまずはその実態を把握する仕組みを作ることにあったと言ってよく、この間のIT技術の進歩、Webを利用したビジネスの急激な発達によって拡大の一途をたどる情報ビジネスの中の求人求職情報の提供手段について、その利用者が不利を被ったりする紛争発生を防止するよう、行政がルールを改訂していくことは当然の流れだと考えます。

 一方で最近職業紹介事業に参入される方々の中には、一部ではあるにしろ「情報のマッチング」ということにだけ目に留めて、その情報の正確さや受け手の立場に立った提供方法の工夫や規律をおろそかにする傾向があるように思えてなりません。
 今回の職業安定法改正の主眼が、多様化する求人メディア等について広く法的に位置づけること、その依拠すべきルールを整備することにあることに目をとられ、その対処について局部にとらわれて、全体を俯瞰することをおろそかにしている側面があるのではないかというのが、杞憂かもしれないですが筆者の気になる点なのです。
 職業紹介の歴史を大雑把にたどれば、昭和22年に職業安定法が制定されてからのILO96号条約の下の時代、ILO181号条約による1999年の大改正後の規制緩和の時代を経て、2017年の募集情報等提供事業(求人情報サイト、求人情報誌等)について、募集情報の適正化等のために講ずべき措置を指針(大臣告示)で定め、職業安定法の中に明確に位置づけたのが五年前であるわけです。
 特に1997年と1999年の規制緩和以降の流れの中で、労働大臣許可・届出を受ける職業紹介事業者数は急増し、1998年に有料・無料計4,003事業所であったものが、2020年には2万7,274事業所と約6.8倍に膨れ上がっています。(もっとも、そのうち一年間で1件でも就職実績のあった事業所は、有料無料計で1万2,878事業所と半数にも達しない/つまり半数は労働移動に貢献していないことが指摘されていますが、今回はその件は触れないことにします。)

 人材ビジネスを新たに手掛けたいという方からのご相談を受けて、職業紹介の許可を得る手続きや、その後の事業運営について種々ご説明していると、中には「そんなにうるさくてめんどくさいのならネット求人広告の世界でやりますわ。」という安易な姿勢の方に出会うことがあります。筆者から見れば、職業紹介事業許可について、過去から見ればずっと参入障壁は低くなっていますし、残っている手続きについてみれば、もちろん改善の余地はあるものの、「働く」という人間の尊厳にかかわることに関するビジネスのあり方と、利用者への影響度を考えれば「そんなめんどくさい」という姿勢の方は、参入しない方がよいという気持ちになることすらあります。

 筆者が職業紹介事業に携わるようになった三分の一世紀前、業界はリクルート社に代表される求人広告も職業紹介も取り扱う大企業と、規制の影響の残る戦後から続けていらっしゃる看護家政、マネキン、配膳などの職種特化型の小規模事業者および、元人事関係者が起業した業界特化型(半導体業界に強い、システム開発業界に強い、あるいは経理職種に強いといった)のブティック型人材紹介事業者が混在していましたし、今でも同じなのかもしれません。筆者からは、税理士さんたちの業界(大規模会計士法人もあれば、一人税理士事務所もある)と同じようにも見えました。
 そこでは、業界や職種に精通したコンサルタントが存在し、異業界同職種か同業界同職種の転職再就職を世話することが多く、業界職種経験と人脈に裏打ちされた彼等彼女らのアドバイスが、転職を考える人材の職業選択に大いに役立っていたと思います。一方でビジネスとして見たときには、どうしてもスピード感が感じられず事業の拡大進展には足かせとなる要素にも見えました。

 今般の募集情報等提供事業者を対象とした新たな職業安定法の仕組みによって、一部とはいえ業界の実態を厚生労働省が把握した次に来るものは何でしょうか。
 IT技術の進歩によるあふれんばかりの情報が入手できる時代に、Webに代表されるツールを利用する人材が、適切にその目的にたどり着くような仕組みをどのように作るのか、提供掲載する求人情報について、悪意の求人者が混入しないようどのような努力をするのか、募集情報等提供事業者の方々の倫理と当を得た行政運用手腕が問われる時代がやってくる端緒のように、筆者は感じています。
 今あるいは近い将来に人材ビジネスを立ち上げようとされる方々にとって、IT技術を駆使して量を追求したあらゆる仕事の仲介を手掛けるのか、適切な助言付きの雇用仲介にこだわるのかの岐路が、今回の職業安定法改正の先に見えてくるように感じています。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)