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梅雨空に学ぶ労使関係安定の勘所

社会保険労務士 川越雄一

 

今年も雨の季節になりました。毎年多くの地域では6月から7月にかけ、うっとうしい梅雨空が続きます。原因は北と南にある高気圧の勢力が拮抗してできる梅雨前線なのですが、この現象は労使関係においても同じようなことがいえます。

 

1.なぜ梅雨時に雨が多いのか

梅雨というのは春と夏の間の季節ですが、なぜ雨が多いのでしょうか。気象の本を見ますと、暖気団と寒気団がせめぎ合っているからだとあります。つまり、性質の違う2つの高気圧がどっちつかずの状態だから不安定になり雨が降りやすいのです。

  • 暖気団と寒気団のせめぎ合い

日本の東南の太平洋上には暖かく湿った「小笠原気団」といわれる暖気団ができ、北海道の北には冷たく湿った「オホーツク海気団」といわれる寒気団ができます。この性質の違う2つの気団が、6月から7月にかけて日本の上空でせめぎ合うのですが、どちらも同じくらいの強さなので、どっちつかずになってしまいます。

  • どっちつかずの境目に「梅雨前線」ができる

真夏になれば「小笠原気団」が勢力を強め天気は安定するのでしょうが、それまではどっちつかずで、春でも夏でもない状態です。暖かく湿った空気と冷たく湿った空気がぶつかり合いますから、大気が不安定になり雨が降りやすいのです。暖かな部屋で冷たいビールをコップに注ぐと水滴ができますが、そのようなことが日本の上空で大掛かりに起きているのです。

  • 労使関係にも似たようなことが起きる

雨の降りやすい梅雨時ですが、労使関係にも似たようなことが起こります。雇用方針がハッキリしていない会社はまさに梅雨時と同じで、常にゴタゴタが起きています。厳しいなら厳しいで、それが会社の基準、良く言えば持ち味ですから労使関係は安定しますが、気象同様、中途半端な対応で厳しかったり甘かったりすると不安定になります。

 

2.中途半端な対応が労使関係の不安定を生む

梅雨時と同じで、中途半端な厳しさ・優しさ・甘さ・冷たさが労使関係の不安定を生みます。良かれと思っての中途半端な情け、損得・勝ち負けを基準とした対応、そして言っていることとやっていることがチグハグな言行不一致は不安定を増幅させます。

  • 中途半端な情け

もちろん、従業員への情けは必要です。しかし、あとになって手の平を返すような、最後まで責任の持てない情けは“悪”です。例えば、採用手順を曖昧にしておいて、採用後に不都合が出てきて厳しく冷たい対応をするようなことです。早期離職者が多かったり、労使トラブルが起きやすい会社でしばしばみられます。

  • 損得・勝ち負けが基準

今は「どうしたら損する・得する」「どうしたら勝つ・負ける」ということを判断基準とする人が多いです。これ自体が悪いというわけではありませんが、労使関係にこの基準を持ち込みすぎますとギクシャク感が増幅します。こちらがそのような基準で対応すると間違いなく相手もそのような対応をしますから、労使関係は限りなく不安定になります。

  • 言行不一致

雇用方針というのは経営者の考え方ですから、厳しさ・優しさ・甘さ・冷たさのどこに力点を置くかは自由です。しかし、問題なのは口では従業員を優しく雇用すると言っておきながら、実際の行動は冷たい対応をするといった言行不一致です。いわゆる中途半端な対応ですが、労使関係を不安定にするばかりか従業員から見透かされます。

 

3.良くも悪くも方針をハッキリさせておく

労使関係においては、いろいろな場面で対応すべきことが日常的に起こります。ですから良くも悪くも雇用方針に基づき、キチンと対応しておくことが労使関係の安定につながります。例えば次のような場合です。

  • 欠勤への対応

月給制の場合、1日や2日くらいの欠勤は賃金控除しない会社もあると思います。もし、それが会社の雇用方針であれば、同じようなケースでは同じ対応をします。逆に、欠勤控除をするのであれば、1日でもキチンと控除します。いずれにしても、取り扱いが明確になっていれば労使関係がゴタゴタすることはありません。

  • 病欠への対応

エンドレスで面倒を見るという会社は別にして、病欠対応は有給休暇処理、欠勤、そして休職制度があれば休職、欠勤以降は傷病手当金を受給させます。そして休職期間満了で復職できなければ退職という流れを守ります。そうではなく、中途半端な情けは相手に変な期待を持たせ、結局どうしようもなくなって、厳しい対応をしなくてはならなくなります。そうすると掛けた情けの何倍も恨みを買います。

  • 不始末への対応

従業員が不始末を起こした場合は、就業規則の懲戒規定に則って対応します。大目に見て何の懲戒もしないのであれば、次回同じようなケースでも何もすべきではありません。仮に軽易な不始末でも、規定に定めがあればそれに合う処分をしておくべきです。そのようなことをせずに、重大な不始末時にいきなり厳しい対応をするとゴタゴタします。

 

ところで、今年の梅雨はどうなのでしょうか。雨も必要ですがほどほどに降って災害が起きないことを願うばかりです。