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労働あ・ら・かると

採用時はトーナメント戦、雇用時はリーグ戦

社会保険労務士 川越雄一

 

いよいよプロ野球も開幕しました。これから各チーム143試合のレギュラーシーズンなどを経て日本一をめざすことになりますが、リーグ戦ですから長期的な戦いになります。一方、高校野球は1回勝負のトーナメント戦です。これら2つの試合形式における戦い方は大きく違いますが、労務における採用時と雇用時にも相通ずるものがあるのではないでしょうか。

 

1.トーナメント戦とリーグ戦

プロ野球などスポーツにおいて、よく耳にするトーナメント戦とリーグ戦ですが、その戦い方の視点は労務にも当てはまります。

  • トーナメント戦は短期戦

トーナメント戦というのは、いわゆる勝ち抜き戦のことであり、戦って、負けたチームや選手はその場で脱落します。そして、勝者同士が対戦を繰り返し、最終的な勝者を決定します。たとえば、高校野球はまさしくトーナメント戦です。優勝チームは1校ですが、都道府県大会を含めて一度の負けも許されません。

  • リーグ戦は長期戦

リーグ選というのは、参加者や参加チームがそれぞれに試合を繰り返し、出場者や出場チームの総当たりで戦ったり、あるいは決められた数の試合数を戦い、最終的勝利数を競う方法です。例えば、プロ野球は交流戦も含めて12球団が総当たりで戦い、勝ち負けを繰り返し最終的な優勝チームが決まります。大相撲もリーグ戦ですね。

  • 労務はトーナメント戦+リーグ戦

トーナメント戦とリーグ戦では力を入れるポイントが違うわけですが、労務に置き換えると相通ずるものがあります。採用時にはトーナメント戦的な視点が、採用後の雇用関係においてはリーグ戦的な視点が必要ではないかと思います。採用時の失敗は致命傷ですが、雇用時はある程度長期的な育成という視点が必要だからです。

 

2.定着の悪い会社は力を入れるポイントが逆

従業員を採用しても、すぐに辞められてしまう定着の悪い会社は少なくないのですが、採用時と雇用時において力を入れるポイントが逆になっている場合があります。

  • 採用手順が甘い

採用時はトーナメント戦ですから、一つの失敗が致命傷になりかねません。しかし、定着の悪い会社は往々にして採用手順が甘いものです。甘いというのは、面接の準備不足、労働条件の提示が曖昧(あいまい)など、採用側がドタバタすることです。これでは応募者の信頼をなくしてしまいます。そもそも

応募者から選んでもらうという意識が欠如しています。

  • 雇用時に育成の視点がない

雇用時はリーグ戦ですから、その時々のことに一喜一憂することなく、ある程度先を見据えて育成するという視点が必要です。しかし、定着の悪い会社は全戦全勝の如く、従業員に遊びなく成果を求めます。例えば、できていないことに焦点を当てて責め立てたり、常に過度な緊張感を持たせ早々に潰してしまいます。

  • 力を入れるポイントが逆だと悪循環

定着の悪い会社は、早々に人を採用しなくてはなりませんから、どうしても採用時が甘くなります。甘く採用された人ほど意識が低いですから雇用時には厳しい対応をせざるを得ません。だからすぐに辞めてしまいます。それでも行き場のない人は辞めませんから、いずれにしても会社にとっては悪循環です。

 

3.厳しく採用して優しく雇用する

トーナメント戦とリーグ戦における戦い方を労務に活かすとすれば、厳しく採用して優しく雇用するということです。

  • 採用手順を厳格に行う

採用には、求人、面接、内定の段階ごとに、行うべきことがありますから厳格に手順を踏む必要があります。「段取り八分」といいますが、求人、面接、内定それぞれの段階における準備を、いかにキチンとしておくかが成否を分けます。ここでの小さな手抜きが致命傷となりますから、厳格な計画を立てておきます。トーナメント戦ですから失敗は許されません。具体的には、求人票は求職者視点で丁寧に作り、面接前後には会社への信頼を得る工夫、そして、内定時には労働条件や仕事内容の再確認などです。また、採用時に必要な提出書類の依頼も採用日前に行います。このような手順を堂々と踏んでおけば、キチンとした人を採用しやすくなります。

  • 雇用時はお互い様

雇用時は、リーグ戦ですから育成しながら雇用するという視点が必要です。ですから、優しさも必要ですが、これは単に甘やかすことではなく愛情をもって育むということです。雇用される従業員も完ぺきではないでしょうが、それは会社も同じことです。つまりお互い様なのです。良い事、悪い事、押しなべて良ければ良しとすることも必要です。ですから、一度や二度の失敗に目くじらをたてるのではなく、トータルで見ていきます。例えば、営業成績はイマイチであっても居るだけ職場の雰囲気が良くなる人など、何か一つでも取り柄があれば何とかなります。プロ野球でも全勝などなく、勝率6割で優勝するケースが多いのです。大相撲も8勝7敗で勝ち越し、番付が上がります。