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定着率は労務の「通信簿」

社会保険労務士 川越雄一

 

定着率というのは、採用した人が辞めずに働き続けている割合です。ですから、離職者が少なく定着率が高いほうが良いのです。もちろん、離職にはいろいろな事情があり、定着率がすべてではないとは思います。しかし、定着率が悪くて安定的に成長している会社と出会ったことがありません。つまり、定着率は労務を客観的に評価する「通信簿」ともいえます。

 

1.定着率の良い会社と悪い会社

  • 定着率とは

定着率は、離職率の対となる言葉です。離職率が従業員の離職した割合を示すのに対し、定着率は残っている割合を示します。ですから、離職率10%であれば定着率90%ということになります。厚生労働省の「雇用動向調査」では離職率を「1月1日現在常用労働者数のうち当該1年間に何人離職したか」で計算しています。ちなみに同調査による2020年の平均離職率は14.2%です。言い換えれば定着率85.8%ということになります。

  • 業種平均と比べてみれば

定着率(離職率)は業種や年齢層等でも大きく違います。前述した調査でも、離職率の最も高い「宿泊業,飲食サービス業」では26.9%、最も低い「鉱業,採石業,砂利採取業」では5.6%です。それぞれの業種における平均離職率を基準とするなら、これと自社の離職率を比べてみれば、大ざっぱながら自社の離職率が高いのか低いのか判断できます。つまり定着率の良し悪しが分かります。

  • 数字は正直、定着率の良し悪しに不思議なし

もちろん、たまたま特殊事情があって一時的に離職率が高まることはあるでしょう。しかし、いつも同じように低い定着率で推移している場合、そこには何らかの理由があります。数字は正直であり、離職されるということは従業員から見切られたということです。今はコロナ禍という特殊事情にありますが、それでも定着率の良い会社はいつも良いし、悪い会社はいつも悪いのです。

 

2.何を言ったところで定着率は客観的な評価

  • 定着率は会社の「通信簿」

「通信簿」というのは、学業成績・行動状況・健康状態、およびそれらに対する所見を担任の先生が記入し、家庭に通知するための書類ですが、年に2~3回客観的な評価がなされます。もちろん、労務を評価する指標は定着率だけではありません。しかし、従業員が辞めやすいか辞めにくいかというのは、客観的な評価ですから「通信簿」のようなものです。

  • 言い訳あるところに改善なし

定着率の悪い会社に限って言い訳が多いものです。言い訳ですから自らの改善がありません。「能力がなかった」「最近の人は我慢強さがない」「ハローワークが紹介する人はダメ」などと、原因は相手にあると言われます。仮にそうであれば改善すべきは相手ですが、果たしてそうなのでしょうか。もちろん、入社してくる人の中には一定割合でそのような人もいるでしょうが、そのような人ばかりではないはずです。

  • ツケは会社に回る

普通の仕事は経験が物を言うわけですが、そのためには定着させることが必要です。定着率が悪く、一握りのベテラン社員と大多数の新入社員というような会社では、仕事の流れを分かる人がいませんから我流で仕事をしてしまいます。場合によってはミスをしていることすら気付かないかもしれません。これで業績が向上することなどありえず、定着率の悪さによるツケは会社に回ります。

 

3.定着率を向上させる3つの姿勢

  • 法律を守ろうとする姿勢

今の時代はこれが「一丁目一番地」です。労働関係の法律は労働者保護の意味合いが強いのですが、だからこそこれを守ろうとする会社の姿勢に従業員は安心感を持つのです。確かに労働関係法の中には「何もこんなことまで」というものも多いでしょう。しかし、従業員の雇用は法律で義務付けられたものではなく、事業に必要だから経営者の希望で雇用しているわけですから、法律上の制限を受けるのは仕方ないのです。

  • 信頼される前に従業員を信頼する

最初から従業員を全面的に信頼するというのは難しいかもしれません。しかし、従業員側も同じことであり、会社から歩み寄ることが必要です。会社から「信頼していますよ」と言われれば、その信頼を裏切るようなことはしないものです。それどころか、その信頼に応えようと頑張ります。「あなたに任せていれば安心」というひと言は何よりも嬉しいものであり、定着への大きな動機付けになるのです。

  • 投資しようとする姿勢

雇用というのは投資のようなものです。ですから、それなりの時間とお金が必要です。時間については「急がば回れ」です。定着率の悪い会社の場合は、採用したその日からでも戦力となってほしいところですが、しょせん、そのようなことは無理です。まずは基本動作をコツコツと教えて習熟させるしかありません。もちろん、習熟の速度には個人差がありますから、適性の有無など見極めは必要です。そのあたりが投資と同じなのです。

 

「通信簿」ともいえる定着率ですが、これを良くするには、会社の法律を守ろうとする姿勢、信頼される前に従業員を信頼する姿勢、そして雇用に投資しようとする姿勢が外せないのです。