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4度目の緊急事態宣言下、「人びとの従順さ」について想いめぐらす

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

   昨年来の、その感染地域の広さ、死者数、社会的影響など、歴史上類を見ない規模のパンデミックの中、日本では4度目の緊急事態宣言が発出されました。
 
   在宅テレワークをしていると、TVニュースの中で、マイクに向かって「宣言の効果は薄れていると思いますよ。」といった訳知り顔のコメントをする方が映っていたりするわけですが、筆者としては。「不要不急の外出自粛要請の中で町の中にいて、街頭インタビューに応じることができる人というのは、どのような緊急必要な要件がある方なのだろうか?」と思ってみたりしてしまうのは、コロナひきこもり老人のひがみ根性なのかもしれません。 
    「個人の主権を尊重する我が国では、他国のように強制的な政策をとら(とれ?)ない。」ということが聞かれるのも、1年半を超えました。
   一方で「『協力の要請』ったって、収入なしで家賃払ってどうやって生きていけってんだ。いつまで従順でいなきゃならないんだ。」と言う、飲食店店長の気持ちもわからないわけではありません。「『あくまでお願い。』『科料でなく過料』ったって、我々には罰金で脅かされていることに変わりはない。」と言う行きつけのお店の店長には、「また来るから、なんとかそれまで頑張って。」と言うしかなく、筆者のもどかしく思う気持ちは暗くなるばかりです。
 
    「従順」という言葉を聞くと、思い出す光景があります。10年以上前ですが一衣帯水の大国との人材交流の話が活発で、日本事務所に着任した方や出張してきた方に都内を案内することがよくありました。
   桜の季節はもちろんですが、手ごろな日本の都会の庭園として新宿御苑を散歩していて、閉園時間になると案内のチャイムや放送が流れるわけですが、これを聞いて園内に残る人々は、一斉に出口に歩き出します。筆者も違和感なく退園を促して歩き出すと、案内している彼の国の人は、「日本人は礼儀正しいと聞いていましたが、従順ですね。」という感想を口にする方が、一度ならず何度もいらっしゃったのです。
    「えっ。私もお国の公園や庭園を観光したことがありますが、閉園間際までいたことはありません。お国では閉園のアナウンスは無いのですか?」と聞くと、「いやもちろんありますよ。でもアナウンスだけでは帰りませんね。」と言うのです。「それだと閉園できないのではないですか?残っている人びとは、いつになったら、どうすれば退出するのですか?」という筆者の質問への答は「人にもよりますけれど、寒くなったら帰りますし、まぁその前に警備員が回ってきてはじめて腰をあげます。」というものでした。「警備員の数もたくさん必要ですね。」と言うと「日本よりは確かに人数が必要ですが、人口も多いですしそれだけ雇用を創っているという見方もできます。」と返ってきて、ギャフンとしつつ、「お国柄の違い」をしみじみ感じた問答でした。
 
   パンデミック対策を見ていて「民主主義・自由主義はまどろっこしい。」「専制国家のほうが対策が速い。」という声が聞こえます。さすがに今回のパンデミック対策では彼の国でも「上有政策下有対策」(上に政策あれば、下に対策あり。/お上が決めたことに下々は抜け道を考え出すという格言。)も通用せず、かなり強権的な場面がみられますが、我が国に限らず欧米自由主義国家の対策が「景品付きワクチン接種勧奨」であったり、「あれは風邪」などという発言や愚かなデマに踊らされているのをみると、どのような政治制度が危機管理に強いのか、考えさせられることは間違いありません。
   我が国において、回を重ねるごとに自粛要請の効果が薄くなってきていて、それが医療崩壊の危機につながることの認識が、何故浸透しないのだろうか、事故の時に救急車を呼んでも搬送先が見つからない事態が、自分の身に降りかかるかもしれないと想像できないのだろうかと、想いを巡らしています。
 
   政府の新型コロナウイルス対策分科会長である尾身茂氏は「7月から8月下旬にかけての2カ月は、四連休、夏季休暇、お盆、オリンピックパラリンピックなどが集中するため、1年以上のこれまでの新型コロナウィルスとの闘いにおいて、まさに山場だと考えています。」とし、「県境をまたぐ移動自粛、大人数・長時間の会食を控えて、五輪の応援は自宅で」と訴えています。
   そして、国、自治体、一般市民国民が危機感を共有することの重要性を説き、ポジティブな面である、高齢者・医療従事者へのワクチン接種が進んだことによる高齢重症者の減少、医療機関・高齢者施設でのクラスター感染減少などにも目を向け、感染対策をしっかりとっている飲食店ではクラスター感染が生じにくくなっていることもあるということを広く人びとが知ることによって、「コロナ疲れ・自粛疲れ」に理解を示しつつ、自粛要請だけに頼ることは限界に来ており、感染を下火にするための方策として科学と技術(サイエンスとテクノロジー)をフルに活用した対策が更に求められると強調しています。
    この原稿を書いているときにも、東京の新規感染者数が連日1000人を超えているだけでなく、3000人4000人に迫りそうな勢いが感じられ、一方で感染拡大どこ吹く風と街に繰り出している人びとの姿も報道されていて、前述の「従順さ」など、我が国ではもうなくなってしまったのかとため息が出ます。
   尾身氏は昨年から同趣旨のことを繰り返しているのに、「遅過ぎる」との勝手な非難もあるようですが、WHOで粘り強い「科学に基づいた説明」によって世界各国を説得し、ポリオ根絶を実現した科学者としての矜持を守った彼の発言を、今後も注視していきたいと思います。
   一部なのかもしれませんが、状況理解不十分な人々の不注意な行動が原因となって感染が拡大している現実を見ると、自分自身がとるべき態度・行動は、感染者拡大データを見て「医療崩壊・社会崩壊に関与してしまうことをできる限り拒否」し、「科学的説明を理解した上での自粛」に帰結すると思います。それは「無知による従順」とは異なるものですし、「強いられた自粛」よりずっとストレスが少ないはずですしね。
 
 (注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)