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「肩書付き」採用者でも、まずは人間関係を築こう

社会保険労務士 川越雄一

 

キャリアを見込んで総務部長など「肩書付き」で採用した人の場合は、最初から「できて当たり前」を前提に仕事をさせてしまいがちです。しかし、仮に有能な人であったとしても、人間関係もできていないうちから矢のような仕事の依頼では、先行きに不安や不信を持ち潰れてしまいます。ですから、「急がば回れ!」まずは人間関係を築く必要があるのです。

 

 

1.「もう無理……」

A社は従業員20人の建設業です。従来から、他社を定年退職したような人を総務部長という肩書で採用してきましたが、ここ数年定着が芳しくありません。今の総務部長Bさんは、前任者が急に辞めたことにより採用された人です。大手ゼネコンを65歳で退職後に入社し1年ほどになります。同社では総務部長とはいっても、建設業の許可関係、指名願い、労務管理、銀行関係などその業務は多岐にわたり、かつ実務的なものです。

 

小さな会社ではありがちなことですが、前任者からの引き継ぎもなく、入社当初から総務部長という重い職責を負わされることになったのです。そして毎日、経営者や他の従業員から矢のように発信されるメールに往生する日々が続きます。コロナ禍にあり、従業員同士コミュニケーションの場もなく、相手の顔や気心も知れないメールという無機質な文字だけが刺すように飛び交うのです。業務連絡としては十分なのですが、「〇日までにお願いします」「〇〇の件はどうなっていますか?」という命令調で「あそび」がありません。

 

また、経営者も含めて若い従業員が多いので、メールのやり取りも早く、そのスピード感についていけないというストレスも半端ではなかったようです。そして、ある日の午後「もう無理……」と言い残し早退してしまいました。その後、幾度か話し合いの場を設けたものの、復帰はかないませんでした。

 

 

2.最初から仕事ありきでは潰してしまう

立派な「肩書付き」を付けると、それだけで仕事ができそうな錯覚を持ってしまいます。そして、最初から「あれやって、これやって」と仕事ありきで対応するものだから潰してしまいます。

  • 肩書が仕事をするわけではない

小さな会社の場合、箔(はく)をつけるためなのか、立派な肩書を付けることがよくあり、中途採用で即「○○部長」というのもめずらしくありません。しかし、会社はそうあってほしいと思うものの、実際にその肩書に見合う仕事ができるかどうかは未知数です。仮にできるとしても、それは自社においてある程度経験を積んでからのことです。

  • 顔の見えないメールでは気持ちが伝わりにくい

最近は仕事上のやり取りはメールが多くなりました。メールというのは、相手の都合を気にせずいつでも送れますし、記録も残り業務連絡としては便利なものです。しかし、難点は相手の顔が見えないため、相手が自分のメールをどのような気持ちで見ているのかがうまく伝わりません。

  • 気持ちが伝わらないから不安・不信を持つ

もちろん、文才に長けた人であったり既に人間関係のできている間柄であれば、メールであっても相手に気持ちを伝えることはできるでしょう。しかし、入社したての人とは人間関係ゼロの状態です。そのようなときに、矢のようなメールを送れば先行きに不安を覚えるでしょうし、不信感さえも持たれます。

 

 

3.急がば回れで人間関係づくり

「肩書付き」で採用した人には一日も早く、その肩書に見合う仕事をしてほしいのは当然です。だからこそ、急がば回れで人間関係を築くことが必要なのです。

  • 最初は対面や電話で気持ちを和ませる

業務上メールでのやり取りは必要だとしても、最初のうちは対面や電話も一部盛り込んで、表情や声の抑揚など肌感覚で気心をつかみます。また、メールにしても「もう慣れましたか?」などと用件以外に一言添えることで相手の気持ちも和みます。気持ちが和めばこそ信頼関係ができ人間関係が深まります。

  • いきなり過度な期待はしない

「肩書付き」で採用した人であっても、いきなりの過度な期待や要求は控えます。たとえ前職のキャリアが凄い人でも、自社では新入社員であり経験はありません。ですから、1回より2回、2回より3回と経験を積ませながら、本来の力を発揮してもらいます。

つまり、即戦力として採用したとしても時間はかかることを覚悟します。

  • 意識してコミュニケーションを図る

コロナ禍にあって、最も制約されているのが対面によるコミュニケーションではないでしょうか。ですから、従来と違って意識して対面以外でのコミュニケーションを図ることも必要です。コミュニケーションというのは感情と情報のやり取りでもあるわけですから、気持ちへの配慮に加えて、本人に関係のあることは従来にも増して丁寧に説明するようにします。

 

即戦力を期待し「肩書付き」で採用したような人であっても、

ここは「急がば回れ!」、まずは人間関係づくりに注力することが長持ちさせるポイントです。