インフォメーション

労働あ・ら・かると

「人物像」を引き出す質問を

就職・採用アナリスト斎藤幸江

 

最近、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)や自己PRを書けない就活生が、マスメディアでも取り上げられるようになった。

今春卒の大学生から増え始めて、現3年生で顕著になっている。理由はコロナだが、その影響は、意外に複雑である。

今回は、その背景を解説しながら、就活生、インターンシップ生、そして新入社員からどうやって人物像を引き出し、採用や育成につなげていくかを論じたい。

 

  • 「目標」が消えた

ガクチカが書けない一番の理由は、当初、考えていた計画や目標がコロナのせいで実現できなくなったというものだ。留学や部活、サークルでの目標は、渡航や大学祭の中止、活動制限などで実現が難しくなった。意欲的に研究するつもりだったのに、研究室等への入構制限で研究が進まなくなったり、現地を訪れてのフィールド調査を断念させられたりという学生もいる。

力を入れるはずだったのに、入れられなかった経験を持つ学生は、書けるコンテンツが消えただけでなく、失意というフィルターで、自分を否定的にみるようになる。

すなわち、目標の消失とそれを奪われた自分=何もできない・やらなかった人ととらえてしまう。これが、応募書類や面接で伝えるべき「自分」が見つからない状況を招いている。

 

  • 「主観沼」にハマる

たとえ、コロナ禍であっても人物像を伝えるエピソードは必ずある。なぜ、それらが見つからないのか––。それは、主観という尺度でしか、自分自身を見つめられなくなっているからだ。

コロナによる行動制限で、人との接触の機会が大きく失われた。とりわけダメージが大きかったのが、「偶然、かけられる言葉」を得る機会の喪失である。

たとえば、アルバイト先や学食で会う上司や仲間、友人に、「いつも気が利いて助かる」、「ホント、マメだよね」といわれる機会を失った。そのため、ひたすら自己を見つめ、経験や感情を書き出し……という分析作業に頼るようになった。

ひとりでやる作業は、どうしても主観に引きずられてしまう。こうした視点のもとでは、「成果を挙げたこと」よりも、「大変なのに頑張った経験」の方が、印象が強く、かつ想起されやすい。

思い出すのは大変な経験ばかりとなれば、「努力の割に得られたことは、大したことない」とさらに自信を喪失したり、「キラキラ経験」を探し回って小中学校の経験に行きついたりするほかない。

あるいは、とにかく苦しくても頑張れる自分という姿しか見出せなければ、「私は粘り強く頑張る」、「諦めないでやり切る」という自己PRしか書けなくなる。実際、こうしたアピールがこの1年で急増した。

いわば「主観沼にハマった学生」のアピール文や面接では、人物像の把握は難しい。そこで彼らの本当の姿を引き出す効果的な質問の投げかけが、必要になる。

 

  • 段階別に細かな投げかけを

本来の強みは、日常生活のあちこちで発揮されている。しかし、“主観沼の学生”は、当たり前にできることに価値を見出さず、アピール材料になりにくい。

そのため、「経験の有無・内容」、「そこで抱いた感情や考え」、「そこから起こした行動」と段階を分けて細かく聞き出すことで、隠れた人物像にアプローチしたい。

たとえば今なら、「コロナの影響で、あなたの学生生活に影響はありましたか?当初の計画を変えることになった、目標を諦めることになった、などの経験があれば、教えてください」と、まず聞く。

さらに、その計画や目標がどのくらい本人にとって大切だったのかや、それらへの期待を尋ねる。

そして、変更や断念がどんな気持ちを引き起こしたのかを質問する。

この気持ちを聞くプロセスは、意外に重要だ。質問者が頷いたり表情をつけたりして傾聴することで、「この人は、自分のことを理解してくれる」という印象を学生に与えられる。学生の情報開示を積極的にさせ、聞きたいことを引き出せるようになる。

また、気持ちを表現すると、顔や目の表情に変化が生まれる。マスク越しやオンラインでは、本人の雰囲気をつかみにくいが、こうした質問である程度引き出せる。

最後に計画や目標変更を受けて、どう行動したかを聞く。ここでは、予想外の状況やストレスへの向き合い方、行動特性や特徴が見えてくる。

最近は、なかなか友達にも会えないために、コミュニケーション力が著しく低下している学生も、非常に多い。段階別に細かく聴くことで、急増している「伝え残し」も、しっかり把握できる。

また、よく聴いた後に、「あなたは〜というところがあるんですね」、「〜に優れているんですね」と簡単なフィードバックをすれば、学生にもメリットになる。もちろん、就活生等だけではなく、すでに入社した新入社員の人物把握にも、こうした質問は有効だ。

 

まともなアピールのできる学生が減っていると嘆く担当者もいるだろう。しかし、こうした状況ではやむをえない部分もある。採用・育成側から、主体的かつ建設的な質問を投げかけ、人物把握に役立ててほしい。