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4月からの中途採用比率公表データ

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 昨年改正がなされた労働施策総合推進法に、第7章として「中途採用に関する情報の公表を促進するための措置等」が設けられましたが、その施行期日は2021年4月1日ですから、大企業(従業員301人以上)の中途採用比率の公表が始まるまで、もうあとひと月ほどです。

 コロナ禍で少し見えにくくなっていますが、少子高齢化社会の到来の速度が落ちたわけではありません。
 高齢者、女性、外国人材の労働市場への誘引施策とあいまっての様々な「働き方改革」の実行と、個々の人材の職業生活の長期化が見込まれる中、そしてアフターコロナ、ポストコロナの「新常態」の中での産業の盛衰変化、構造改革に対処するための労働施策である「円滑な労働移動」の実現が過去以上に必要とされています。その中での、ひとつの労働施策としての今回の「中途採用比率公表」です。

 職業生活期間が長期化するということは、(従来から言われてきたことですが)もう新卒で就社して「一生、同一企業で勤め上げる」などということはあり得ず、人材の主体的なキャリア形成、ライフステージに応じた再チャレンジが充分に可能となる社会の仕組みの実現が求められているということです。
 産業活動を担う企業の立場から見ても、AIをはじめとした第4次産業革命による技術革新が進む中、人材を大切にしつつ、内部労働市場の従業員に対して新たな事業活動に貢献できる能力を持てるよう教育環境を整備すると同時に、外部労働市場から時代にマッチした高度な技術や専門スキル、豊富な経験を有する人材を臨機応変に確保することができなければ、生き残ることができない熾烈な時代になっているということでしょう。

 筆者が注目する今回の中途採用比率公表のポイントは、
 (1)新規学卒者を中心に長期的な安定雇用により人材を確保していると推測されるすべての大企業(雇用主)を対象 
  とし、
 (2)経年的に企業における中途採用実績の変化を把握するため、直近3事業年度の割合を概ね1年に一回公表。
 (3)企業のホームページ等の利用などにより、求職者が容易に閲覧できる方法により公表。
ではないかと考えますが、その基本は言うまでもなく「職場情報の公開」です。
 若者雇用促進法をはじめとした法律に基づく企業の職場情報の提供や、インターネット上の職場情報総合サイト「しょくばらぼ」の設置によって、各企業での働き方や採用状況に関する情報公開が進められてはいますが、どちらかというと若者向け・新卒就職時の応募先選択の要素が強く、掲載企業数もまだまだ十分とは言えませんし、これからの各世代、各性別、各職種への機能・対象の拡張が期待されるところです。

 一方で当然ながら、ただデータの公表があればいいということにはならないと思います。公表されたデータをどのように読み解いて、自身の次の働くステージを探すことができるか否かが、人材になお一層求められるでしょう。

 当然ながら中途採用実績が多ければいいということはなりません。
まず最初に大事なのは、その中途採用の動機が「離職者補充」なのか「事業進展拡張による人材需要なのか」です。今回の中途採用実績公表が、経年変化を把握するために直近年分を公表することになっているわけですから、その3年間の離職者数を把握しての対比、新規事業の展開状況や中核事業の売上げの伸びと併せて、その企業の現状を理解する力が必要です。
 次に、「採用者数の中の新規採用と中途採用の比率」だけでなく、「全従業員の中の中途採用者数」も見るべきでしょう。活気のある成長企業の職場を訪問すると、多くの中途入社社員達が、以前のキャリアを、ブランドを自慢するのではなくそこで何を経験したかを、明るく情報交換する姿を見ることができます。中途採用者が圧倒的少数で肩身の狭い思いをしている職場よりは、こちらのほうに好感を覚える方が多数派でしょう。

 人材がご自分の「次の舞台」を探し検討するとき、今回の公表データだけではなく、転職後に自身が働く姿がイメージできる情報を得られることが重要です。
 企業の経営者・採用担当者は、「法律で決められたからイヤイヤやる」「都合の悪い情報はなるべく隠して、いいところだけを見せる」のではなく、企業におけるさらなる職場情報の自主的に公表を進め、課題のない企業などはあり得ないのですから「当社の発展のために、この課題を一緒に解決できる人材を求む。」と毅然とした情報公開を期待したいものです。
 また、転職・再就職を考える人材からの相談を受ける職業紹介事業者の方々は、単にモノを売る仕事ではないのですから、売り上げに拘泥する以前に、大事な人生を左右する場面に立ち会っている仕事であることを忘れずに、人材に対して公正に応募先の情報を収集提供して、人材自身が自由適切に職業選択できるよう立ち合う姿勢での業務遂行を是非心がけてください。
 転職・再就職を考える人材の方々は、情報氾濫の時代、多すぎる情報な中から信頼できるものを適切に取捨選択し、最後に自分の進路を決定するのは自分ですが、迷う時には周囲の信頼できる人に幅広く相談して、多角的に信頼できる情報を収集することも忘れないで欲しいと思います。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)