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そろそろ経験者優遇の採用に終止符を打とう

社会保険労務士 川越 雄一

 

中小企業の採用は、退職者の補充がほとんどですから、どうしても“経験者優遇”を前面に出したくなります。しかし、事はそう都合良く運ばず、採用できても中途半端な経験を矯正するのに時間がかかったり、経験を鼻にかけ、今いる従業員と折り合いが悪くなって、早々に離職することも少なくありません。ですから、そろそろ経験者優遇の採用に終止符を打ち、未経験者を地道に育てていく姿勢が必要なのかもしれません。

 

1.即戦力を期待するあまり

採用したらすぐにでもバリバリ仕事をしてほしいので、ついつい“経験者優遇”と求人票に書いてしまいがちですが……。

  • 素晴らしい職務経歴に即戦力の思いが

中途採用者の場合、とりあえずはどこかで働いた経験を持っています。そして、パソコンできれいに打たれた職務経歴書には、今まで転職してきた数ある会社で相当活躍していたような事が書いてあります。このようなものを見ますと、明日から我が社でも、即戦力でバリバリ仕事をしてくれそうな思いに駆られてしまいます。

  • 出会った時が最高で

口先だけで世渡りをしてきた人は面接を受けるプロです。中小企業の面接など、難なく突破してしまいます。「今度のはいい!」と雇用関係が始まり、次第に「前の会社で本当にこの仕事をしていたのか?」と疑いだし、気付いた時には鳴かず飛ばずで去っています。そして後に残るのは、採用の手間と無駄に払った人件費だけです。

  • パッとした人はパッと辞めていく

確かに、採用するのはパッとした人が良いに決まっています。しかし、そのような人はどこの会社でも良い人であり、このご時世に転職する必要もありませんし、会社も手放しません。また、パッとした人は自分を安売りしませんし、他社からのお誘いも多いので、会社の処遇などが気に入らなければパッと辞めていきます。

 

2.中途半端な経験は百害あって一利なし

中途半端な経験者の場合、本人がまともだと思っている経験を矯正するのに手間がかかりますし、その経験を鼻にかけ、今いる従業員とのチームワークを乱す元です。ちょうど古家付きの土地のようなものです。

  • 古家付き土地のようなもの

経験者の採用というのは、ちょうど古い家が建っている土地を買うようなものです。更地にするにはそれを取り壊さなくてはなりませんが、これに結構な費用がかかります。仮に、古家の程度が良くて、しばらく使えるとしても使い勝手が悪かったり、外見では分からない欠陥があったりします。その補修にまた多額の費用がかかります。

  • 中途半端な経験が足かせに

中途半端な経験があるばかりに、「前の会社ではこうしていた」「これが私のやり方だ」などと言って会社の指導を聞き入れない人もいます。特に歳を取ると柔軟性がなくなり、「はい、分かりました」と口にはするものの、ついつい我流でやってしまいます。それでも実績が上がれば良いのですがそうもいきません。

  • チームワークを乱す元

組織にはチームワークが必要ですが、その基盤になるのは社内の人間関係です。中途半端な経験者に、先輩社員が教えようとしても「ふんふん、それくらい分かってる」というような態度を取られると、普通の人はカチンときます。そして、「経験者ならお手並み拝見」とばかりに、チームワークは乱れるばかりです。

 

3.せめて1年先を見据えた採用をする

即戦力の採用など、そう都合良くいかないのが世の常です。ですから、そろそろ経験者優遇の採用には終止符を打ち、せめて1年先を見据えた採用をしたいところです。

  • 更地に家を建てるつもりで

更地は土地の上に余計なものがないぶん、一から自分の都合に合わせて活用できます。同じように、未経験者は一から教えなくてはなりませんが、長い目で見ればその後の成長は経験者の比ではありません。多くの場合1年も経てば職務能力が逆転します。仕事に関して余計な先入観がなく、何でも素直に受け入れるからです。

  • 経験者にこだわらない

素晴らしい経験を自負しながら、今どきハローワークあたりをウロウロしている人は、やはり、それなりの人です。ですから3年、せめて1年くらいはじっくり育てるつもりで未経験者を採用したほうが良いのです。会社が最初から過大な期待をしないぶん、本人も伸び伸びしますし経営者もストレスも溜めずに済みます。

  • まずは今いる従業員を定着させる

採用というと採用する人に集中しがちですが、大事なのは今いる従業員の定着です。1年先を見据えた採用ができるのは、今いる従業員がしっかりしていることが大前提です。今いる従業員が定着していれば、採用した人が未経験者であっても余裕をもって育てることができますから早く戦力化できます。まさに好循環です。

 

経験者という言葉には言い知れない魅力があります。しかし、期待して採用できたとしても実際にはパッとしないことも少なくありません。ですから、経験者を採用しなくても成り立つような組織、つまり、今いる従業員の定着を高め、新人に即戦力など求めずに済む体制づくりが現実的なのです。